貿易業界20年越えの大ベテランに聞いた!求められるのは「実務に備えた知識」と「中学英語」!?

2018年末に発効したTPP(環太平洋パートナーシップ)をはじめ、近年日本は多くの国々とEPA(経済連携協定)を結んできました。輸出入総額は一度リーマン・ショックで落ち込んだものの、2018年には史上最高額を記録しています。

その結果として貿易業界の求人数は伸びに伸びていますが、他の業界と同じで人手不足に悩んでいる企業が多いのが現状です。とはいえ、「転職を希望すれば採用される」というほどあまくないのもほかの業界と同じ。転職で失敗しないためには戦略が必要です。

そこで今回は、2人のエキスパートにお時間をいただき、貿易業界の現状と求められるスキルについてお聞きしました。

1人はLHH転職エージェントで、ロジスティクスやサプライチェーンマネジメントといった職種の専門コンサルタントを務める瀧脇布美子さん。

もう1人はあしかけ20年以上、貿易業界の第一線で活躍されてきた神野夏実さんです。

神野さんは同業界の人材に精通している人で、2013年には貿易業界向けの教育・研修および転職活動の面談にも使えるプレゼンテーションスキル向上研修などのスクール事業を行う株式会社J.W.オースティンを立ち上げています。

貿易業界が抱える「人材」の問題

−いまはどの業界も人手不足ですが、貿易業界はどのような状況でしょうか?

瀧脇布美子さん(以下、瀧脇):現在も同様です。貿易業界に転職したい方も増えていますが、それ以上に人手が欲しい企業が増えております。

神野夏実さん(以下、神野):私がこの業界に入った1990年代後半なら、「経験者の派遣スタッフが欲しい」と言えばおおよそ2週間もあれば欲しい人材が派遣会社より紹介されてきました。

しかし2000年代に入ったころから1ヶ月待っても人材が見つからないという状況になり、2010年代になると「そもそも経験者が見つからない」という世界になっていますね。

瀧脇:就業条件がマッチした会社に派遣社員で入ると、そちらで定着する方が多い傾向です。そのまま正社員登用される方も出てきます。

一通りキャリアを積んで頭打ちになるまで3〜5年かかるので、結果として「なかなか経験者が見つからない」という話になるわけです。

特に日系企業の場合は、業界がニッチだということもあって、経験者の方は業界内の紹介で転職を決めてしまうケースも少なくありません。

神野:これがある意味で業界の課題なんですよね。

瀧脇:はい。確かにリファラル採用なら採用される確率は上がりますが、デメリットもあります。まずミスマッチが起きたときに、お世話になった方の紹介ですぐに辞めると不義理になるとか、気を遣うなど面倒な話になる可能性もあったります。

あと自身の人間関係の範囲での転職になりますので、どうしても視野が狭くなりがちです。もっと良い転職先があっても、存在すら知らないまま紹介先に入ってしまうというリスクもあります。

私が所属するLHH転職エージェントの専門チームでは、コンサルタント各々が業界に関連した勉強をしたり、たがいに得た情報を交換したりすることで、ミスマッチはもちろんのこと、転職における機会損失がないようチーム全員での情報共有を心掛けています。

−貿易業界未経験者に対するハードルは高いのでしょうか? それとも低くなっているのでしょうか?

神野:まだ高いというのが現状ですね。たしかに業界全体は盛りあがっていて、各種EPAの後押しもあって忙しいのも事実です。

ただ、業界への憧れだけで入ってしまう未経験者のなかには、イメージとのギャップで就業3日や1週間で辞めてしまう方なども残念ながら一定数います。

企業側はこれを警戒していて、なかなか未経験者を積極的に採用できないでいる状況もあったりします。

採用を勝ち取るために必要なのは「実務スキル」

−では、貿易業界での実績がない人はどうすれば……?

瀧脇:決定権を持つセクションマネージャークラスのハードルを越えるには、「直接会って話す」必要があります。そのためにも履歴書に書けるような関連資格を取得する方もいらっしゃいます。

ですが、現場で働く人たちからすれば、「資格だけ取っていても、実務ができる人はほとんどいない」という認識になっており、採用の決定打にはなりません。

貿易業界は場数がものを言う世界なので、未経験というのは採用側にとってどうしてもリスクが高いと判断せざる得ない状況だったりもします。

神野:この問題を解決するためには、求職者側が事前に実務スキルを身につけておくことと、それを保証する仕組みが必要です。だから私はJ.W.オースティンを立ち上げ、「Austin Campus」という学習サービスを作ったのです。

Austin Campusのカリキュラムでは実際の輸出入の流れに基づいて、OJT型のレッスンをしています。企業側からの評価も高く、テキストを見せると「これを勉強してくるのなら、文句はない」と言っていただけるほどです。

こんなふうに言うとよほど大変なカリキュラムなのだろうと思うかもしれませんが、レッスンは全6回、合計25時間だけ。みなさん、この時間のなかで即戦力としてのスキルを身につけていきます。

瀧脇:実は私は、神野さんのAustin Campusの「WORLD TRADE EXPERT」(貿易事務スタッフ養成講座)の最初の卒業生の一人なんです。講座を受けたおかげで専門コンサルとしての基礎を身に付けることができました。

神野:LHHさんがすごいのは、瀧脇さんのような実務を知っているコンサルタントが専門チームを作って企業側・求職者側と双方を担当しているところです。

私自身も貿易業界専門の人材紹介・人材派遣を行っていた時期があるため言えますが、LHHさんほど現場の仕事を踏まえてコンサルティングできる転職エージェントはめったにありません。

■「ハイレベルな英語力」は必須ではない

−とはいえ英語ができないと話にならないのですよね?

瀧脇:私の経験上は、そこまでハイレベル英語力が求められるわけではないと思っています。

もちろん「英語でEメールを打つと思っただけで体調が悪くなる」という方は向いていないです。帰国子女の方やTOEIC800点以上の方のように英語が得意な方ならより活躍できます。

でも、じゃあ中学・高校英語ができる程度では通用しないのかというと、そんなことはないですよ。

−これは衝撃の事実です。私は英語が苦手なので、貿易業界は最初から諦めていました(笑)

瀧脇:仕事でやりとりするのは東南アジアなどの英語が母語ではない国も多いですから、ペラペラでなくても問題はないです。ただし、貿易業界でしか使わない専門的な単語や表現が多いので、それは絶対に知っておく必要があります。

これまで現場でやってこられた神野さんはどう思われますか?

神野:瀧脇さんの言う通りだと思います。以前ある企業のマネージャークラスの人たちとランチをしていたときに、「どのレベルの英語力でいままで仕事をしてきたか?」という質問をしたことがあります。

「高校英語ではないか?」という話も出ましたが、「あれは大学受験英語だから難しすぎる」ということで意見が一致しました。

大学に入ってからはほとんど英語を勉強しなかったという人も多く、最終的には「中学英語ができれば十分」という結論になりました。

なので「英語が苦手だから」という理由で貿易業界を諦める必要はないと思います。

−日本人は「英語が苦手」という人が多いですから、希望の持てる話ですね。

神野:そうですよ。英語が堪能な人は、事務でもたいてい海外営業と近いところに配属されますが、そのクラスの人材は少数派。

一番多いのは、Eメールなどでやりとりしながら海外の人や船を動かしてくれる人材です。これなら中学英語と専門的な単語や表現ができれば意外にもできるもの。

瀧脇:いまの貿易業界には未経験の方へのチャンスも十分あります。LHH転職エージェントはいまAustin Campusと提携していて、HP 経由で申し込んでもらうと、特別価格でWORLD TRADE EXPERTの講座を受けられるようになっています。

貿易業界は「日本にいながらにしてグローバルビジネスを動かせる」という、とても面白い業界です。ぜひもっとたくさんの人に興味を持って欲しいですね。

−本日はお忙しいなかありがとうございました!

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[文・編集] サムライト編集部