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「究極の健康法」はあまりにも地味
誰もが「健康管理も仕事のうち」という言葉を聞いたことがあるはず。人生100年時代が目前に迫る今のビジネスマンにとっては、健康管理はこれまで以上に大切になります。
しかし健康をちゃんと管理するというのは、思いのほか難しいものです。テレビや雑誌、ネットから次々と新しい健康法が発信されるのは、みんなが「あの方法もダメ、この方法もダメ」となかなか健康になれないからでしょう。
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もし本当なら夢のような話ですが、残念ながらスーパーフードだけでは健康になれませんし、極端な糖質制限は肥満とはまた別の病気の原因になりかねません。派手でキャッチーな健康法では健康になれないのです。
では究極の健康法はどこにもないのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。しかしそれは「野菜や豆、キノコ類をたっぷり、肉や未精製の穀物を適量」というしごく当たり前で、地味なもの。でもだからこそ、効果があります。
ここでは近年研究が進み、健康と深く結びついていることがわかってきた「腸内細菌」をキーワードに、なぜ地味な健康法に効果があるのかを解説します。
肥満もうつ病も?腸内細菌と人間の健康
私たちの体には37兆個もの細胞があると言われています。一方で、一つひとつの細胞には細菌などの微生物が9個ずつあるとも言われます。なかでも腸には特に多くの微生物が住んでおり、その数は実に100兆個されています。近ごろ、この腸内細菌の研究が進み、どうやら腸内細菌が人間の健康に大きな影響力を持っていることがわかってきました。
●肥満と腸内細菌
日本でもメタボをはじめ肥満は問題視されつつありますが、原因としてあげられるのが、まずは食べ過ぎでしょう。ほかにも「肥満遺伝子の存在」「新陳代謝の悪さ」などがあげられますが、実はこの3つはどれも決定的な原因ではないことがわかっています。
代わりに注目されているのが腸内細菌です。ワシントン大学の大学院生、ピーター・ターンバウの研究は次の2つの事実を突き止めました。
・肥満のマウスの腸内細菌を移植されたマウスが、通常型のマウスの腸内細菌を移植されたマウスに比べて、明らかに太る。
・肥満のマウスの腸内細菌を移植されたマウスのほうが、同じ餌から2%も多くカロリーを摂取している。
「たった2%?」と思うかもしれません。でもこれは肥満になるのに十分な数字です。1日に3,000キロカロリーを摂取している人で考えると、1日あたり60キロカロリー多く摂取することになります。
体脂肪1キログラムあたりのカロリーが7,700キロカロリーとされていますから、およそ128日間で1キログラム太る計算です。これは5年で14キログラム、10年で28キログラム以上の体脂肪になります。これだけ太ればたいていの人は立派な肥満になりますよね。
以上のことから、近年は腸内細菌の正常化が肥満を解消する鍵になるのではないかと考えられているのです。
●精神病と腸内細菌
腸内細菌が関係しているのは、体の健康だけではありません。ベルギーで1,000人以上を対象に行われた研究の結果、腸内細菌はうつ病にも影響していることがわかっています。
というのも、今回の研究で調査対象者の便サンプルを分析し、腸内細菌の構成を調べた結果、うつ病の人のなかにはセロトニンやドーパミンの分泌を促す細菌が少ない人が多いということが明らかになったのです。
セロトニンは感情や気分をコントロールする脳内物質であり、ドーパミンはやる気の源とされている脳内物質。うつ病の人たちには、この物質が不足していることも判明しています。
つまり、うつ病の原因の一つは、腸内細菌のバランスが崩れ、本来なら住んでいるはずの細菌が少なくなっていることだ、とも言えるわけです。
健康管理は「これまで以上に」必須スキルになる

現状、腸内細菌にフォーカスをあてて健康法を実施している人は多くありません。しかしこうした研究結果が出ている以上、日常のちょっとした心身の不調にも腸内細菌は関わっていると考えられます。腸内細菌を無視するということは、すなわち健康を無視することでもあるのです。
これからの時代を生きるビジネスマンにとって、健康は大きな資産だといえます。人生100年時代になり、寿命がどんどんのびていくと、「長く働けること」が何よりの資産運用になるからです。
たとえば65歳で定年退職したあと、95歳まで生活するために年金とは別に2,000万円が必要だとしましょう。
65歳以降全く働かなければ、現役時代にこの2,000万円を用意しなければなりません。しかし65歳から74歳までの10年間、毎月15万円だけでも稼ぐことができれば、たった200万円の貯金があればOKだという話になります(15万円×12ヶ月×10年間=1,800万円)。
また現役時代も健康を維持していれば、体も軽く、頭もしっかりと働きます。すると日々のパフォーマンスも上がりますから、結果的に現役時代の収入アップにもつながるはずです。ビジネスマンにとって健康とは、文字通り資産なのです。
かつてのビジネスマンは退職金がしっかり出ましたし、年金も60歳ないし65歳からたっぷり支給されていました。一方これからのビジネスマンは、退職金を期待できるのは一部の人だけですし、年金の支給年齢の引き上げや支給額の引き下げはほぼ確実に行われます。
だからこそ、心身の健康全体に大きな影響を及ぼしている腸内細菌としっかり向き合い、腸内細菌の改善に効果的な健康法を実践する必要があるのです。
「腸内細菌を育てる」という視点で食事を選ぼう
では腸内細菌の改善に効果的な健康法とはどんなものなのでしょうか。それはすなわち「腸内細菌を育てる」という視点で食事を選ぶことです。
腸内細菌を改善するものとしてよくあげられるのが「プロバイオティクス」です。これはサプリメントなどで生きた細菌を直接送り込み、腸内細菌のバランスを改善しようというものです。しかしプロバイオティクスで送り込める細菌の数はせいぜい数億程度です。前述したように腸内細菌は全体で100兆個も存在するので、数億程度では焼け石に水。「ないよりはマシ」くらいの効果しかありません。
これに対し有益な細菌の個体数を増やすエサになるのが「プレバイオティクス」です。フラクトオリゴ糖、イヌリン、ガラクトオリゴ糖などはいずれも野菜などの食物繊維に含まれるプレバイオティクスです。腸内細菌を根本的に改善するためには、このエサをたくさん摂取する必要があります。
フラクトオリゴ糖、イヌリン、ガラクトオリゴ糖はいずれもサプリメントで摂取することもできますが、精製された食物繊維を大量に摂取すると、それはそれで別の病気になる可能性を引き上げることもわかっています。
そのためプレバイオティクスを通じて健康になりたいのなら、できるだけ普段の食事から摂取しなければなりません。
こうして導き出される結論が「野菜や豆、キノコ類をたっぷり、肉や未精製の穀物を適量」です。野菜、豆、キノコ類、玄米などの未精製の穀物は食物繊維をたくさん含む食品です。これに筋肉や神経伝達に必要なタンパク質を組み合わせることが、健康にとってベストの食事だというわけです。(『あなたの体は9割が細菌』よりを参考)
ただこれまで食物繊維の量を特に気にしてこなかった人にとって、いきなりガラリと食生活を変えるのは難しいでしょう。
そこで以下に、食物繊維量を増やすためのアイデアをまとめておきます。1つずつでもいいので実践してみてください。2つ、3つ、4つと実践できるものが増えるにつれて、体調が改善され、今よりもパフォーマンスがアップするはずです。

地味な健康法を一つずつ、実践していこう

本当の意味で健康になるための方法は、流行りのスーパーフードやダイエット法のなかには存在しません。結局は「野菜や豆、キノコ類をたっぷり、肉や未精製の穀物を適量」という昔ながらの食生活がいちばん効果的なのです。
といっても食生活をガラッと変えろという話ではありません。
「白米を玄米に変えてみる」
「野菜料理を1品付け足す」
「間食をナッツにする」
といったちょっとした変化を加えるだけでOK。慣れてきたらまた1つ、次いでまた1つというペースでゆっくりと改善。地味な健康法を1つずつ、積み重ねていく。そうすればいつのまにか健康になっているはずです。
