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理由を間違えると、転職自体を間違える
転職を決意する理由は人それぞれ。しかし実は理由の設定を一歩間違えると転職の決断そのものが間違いになってしまいかねません。ここでは石山恒貴(いしやま・のぶたか)さんの著書『キャリア採用のプロたちが教える 後悔しない転職 7つの法則』をヒントに、転職理由を間違わないで冷静にキャリアを考えるためのチェックポイントを4つ紹介します。
石山さんの専攻分野は「雇用及び人的資源管理」。自身も長年人事を担当し、現在は法政大学大学院政策創造研究科の教授として多くのキャリアコンサルタントや企業の人事担当者と対話を積み重ねてきた専門家です。以下ではその石山さんが著書で挙げる転職の失敗パターン8つのうち、特に転職希望者が陥りやすいと思われるものをヒントにし、筆者の私見を交えて解説します。
「やりたいこと」の範囲が狭くなりすぎていないか?
1つ目のチェックポイントは、「『やりたいこと』の範囲が狭くなりすぎていないか?」です。素人目でみると、やりたいことが明確化しているので転職しやすいようにも思えます。
しかし石山さんが話を聞いたキャリアコンサルタントによれば、自信がない人ほど「自分にはこれしかない」「これしかやりたくない」と思い込みがちなのだとか。積極的にやりたいことを選んでいるというより、自分ができる目の前のことに固執して守りに入っている状態というわけです。
この状態に陥ると、必然的に選べる業界や企業も狭くなってしまいます。選択肢が多いことが必ずしも良いとはいえませんが、本来は活躍できるはずの場をみすみす見逃すのは得策とはいえません。
また、採用側からしてみれば、このような人材は「融通がきかない」「扱いづらい」と取られても仕方ありません。守りに入っていると捉えられれば、成長する気のない人材だと思われるでしょう。「やりたいこと」の幅を絞りすぎるのは、転職の失敗につながるのです。
大切なのは「できること」を正確に把握することです。例えば「経理の資格を持っているから経理以外できない」ではなく、経理の資格で得たを活かして「業務の効率化に貢献できる」「経理部門の新入社員教育ができる」というふうに、何らかの共通性がある業務や実務につなげて考えるようにするのです。
そうすれば自分を「知識さえあれば業務の効率化や新入社員教育もできる人材」だと再認識できるので、「やりたいこと」の幅を広がっていくでしょう。
転職理由のメインが「他人」「環境」になっていないか?
2つ目のチェックポイントは「転職理由のメインが『他人』『環境』になっていないか?」です。これにYESと答えてしまう人は、人事部長たちが「他責の人が最も問題だが、面接ではすぐわかるので、採用は見送る」(前掲書p51)と明言する「他責の人」の可能性があります。
他責の人とは現状自分が感じている不満や問題の原因を、全て上司や同僚、会社のせいにしてしまう人を指します。こうした人は自分が会社に対してできることに思いが至らないばかりか、本来会社から求められている働きについても気づけていないケースが多いそうです。採用側からしてみれば他責の人を雇ってもどのみち同じような理由で転職していくため、最初から採用を見送るのです。
起業したり、フリーランスとして働いたりしない限り、基本的に上司や同僚などの人間関係は選べません。与えられた環境の中で自分ができることを探し、工夫して仕事をする姿勢がなければ、どこに行っても「上司とのソリが合わない」「あの営業方針では売り上げはとれない」と環境のせいにして転職する結果が待っています。
とはいえ、パワハラや過剰な残業などが常態化しているような企業においては、当然環境を理由に転職をする可能性は考えられます。要は程度の問題ですが、これについて石山さんは次にようにアドバイスしています。
多くの第三者の意見を聞いても、それは他責ではなく、本当にその会社、職場が問題なのだ、という自分の考えが変わらなければ、転職を選択肢として構わないと思います。引用:前掲書p80
石山さんは「第三者」として知人や友人を挙げていますが、同じ職種や業界の人のほかにも、違う職種や業界、年代の人も加えれば、より客観的な意見が得られます。正しい判断をするために、できるだけ多様な意見を集めるようにしたいものです。
「資格の取得」にこだわりすぎていないか?
3つ目のチェックポイントは「『資格の取得』にこだわりすぎていないか?」です。比較的簡単に取得できる資格から、ある程度の実務経験が求められる資格、もしくは弁護士資格のような難関資格まで、資格には様々なものがあります。
取得に時間と労力、そして能力が必要とされるほど、人材としての価値は上がるように思いますが、実際は人材としての価値と資格の価値は比例しません。
企業がキャリア採用の際に専門性として評価する対象は、業務そのもの、実務そのもので、どのような経験を積んできたのかという面を見る 引用:前掲書p55
資格はすなわち「知識」であって、それ以上でも以下でもありません。資格が保証してくれるのは会社の業務や実務における成果ではなく、特定の分野での知識があるということだけです。勉強熱心な姿勢はアピールできるかもしれませんが、資格があるからといって安直に採用してくれるわけではないのです。
資格の取得にこだわるべきなのは、資格がやりたい仕事に直結している場合です。通訳になるための英語資格の取得、弁護士になるための弁護士資格の取得などのほか、「これまでずっと販売員として働いてきたが、より専門性を高めるために販売士資格1級を目指す」という考え方もアリでしょう。
問題なのは「なんとなく有利そうだから取得する」という漠然とした姿勢です。このような姿勢でやみくもに資格を取ってしまうと、むしろ計画性のなさを露呈してしまう危険さえあります。資格の取得にもコンセプトが大切なのです。
「専門家」の意見をないがしろにしていないか?

4つ目のチェックポイントは「『専門家』の意見をないがしろにしていないか?」です。ここでの専門家とはキャリアコンサルタントを指します。石山さんの著書には、キャリアコンサルタントのアドバイスが耳に痛いからといって、ことごとくスルーしている転職希望者がたくさん登場します。もちろんそうした転職希望者が全員転職に失敗しているわけではありません。しかしこの姿勢は、少なくとも転職の失敗のリスクを高めています。
なぜなら転職エージェントなどの人材紹介会社は、求人している会社が紹介した人材を採用してもらって初めて報酬を受け取るからです。その人材が想定していた働きをしなかったり、すぐに辞めていってしまうようでは人材紹介会社の評価は下がってしまいます。したがって転職先でのモチベーションや定着につながるように、転職希望者には「この会社に転職してよかった」「転職を決断してよかった」と思ってもらわなくてはなりません。
このような制約があるため、人材紹介会社ルートでの転職は審査基準が厳しくなります。中には「あなたは転職するべきではない」とはっきり言われる場合もあります。
転職したくて人材紹介会社に出向いたのに、そこで転職するという決断そのものを否定されるのですから、憤慨する人もいるかもしれません。しかしこれをスルーしてしまうと、意に沿わない転職をしてしまったり、いたずらに転職回数を増やしてしまったりする危険があります。
というのも、おそろしいことに人材紹介会社ルートで転職をしなくても、ハローワークや転職サイトを通じて転職することは可能なのです。ある程度の経験がある人であれば、想像以上に簡単に転職できるでしょう。これらのルートは人材紹介会社よりも低コストで運営されているので、転職希望者側の審査基準も比較的甘くなっているからです
。しかし時間と労力をかけてマッチング作業を行なっていないため、転職が成功に終わる確率は低くなってしまいます。結果転職を後悔する事態に陥る、というわけです。くれぐれも専門家の意見は慎重に聞くようにしましょう。
「転職=成功への唯一の道」ではない
もしここで挙げた4つのチェックポイントに該当する人は、転職そのものを考え直した方が良いかもしれません。転職は必ずしも「成功」や「充実したビジネスライフ」と直結していないからです。今一度自分のキャリアを冷静に見つめなおし、自分ができる最善の選択をするようにしましょう。
参考文献『キャリア採用のプロたちが教える 後悔しない転職 7つの法則 成功する人と失敗する人はどこで分かれるか』

