治安がいいは売りにならない?日本の観光発展をさまたげる勘違いとは

来日観光客数1300万人と突破

2014年の日本への海外からの観光客数が1300万人を超えました。2013年には1000万人突破を目指していたのでそこから考えれば大きな進歩です。ただ他の国と比較するとまだまだ十分とは言えません。

2013年の数字ですが、観光客数ダントツ1位のフランスは8473万人、中国は5569万人、タイは2655万人と日本の3倍、4倍は当たり前です。また観光ビジネスに目を向ける時は観光客数ではなく、観光収益額が大切です。2013年実績でいくと21位となっています。

日本の観光資源を考えるとまだまだ伸びると思いますが、いまの日本には何が不足しているのでしょうか。元ゴールドマン・サックスのアナリスト、デービッド・アトキンソンさんの著書『新・観光立国論』では、日本人の多くは観光業への理解と知識が浅く、世界の観光業の常識から見ると、むしろ観光の妨げになるような考え方をしている場合が多いと指摘します。よく日本のよさとしていわれる「治安のよさ」、「交通期間の正確さ」などは観光に絶対不可欠な条件ではないのです。

観光立国に必要な4条件

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デービッドさんによると、観光立国の条件は、「気候」「自然」「文化」「食事」の4つです。この4要素ではない部分をセールスポイントとして外国人観光客にアピールしても効果が薄いのです。だから日本人が絶賛する「おもてなし」「マナーの良さ」「サービス」などは瑣末なことで、高い航空運賃を払ってまで期待することではありません。

多少治安が悪くても、交通の便が悪くても、そこでしか体験出来ないものや、見れないものがあれば、それを求めて観光客はやってくるのです。私自身も「治安のよさ」は日本の観光資源だと思っていたので、この指摘は目から鱗でしたが、自分が海外に旅行する時に何を重視するかを考えたら明白でした。

「おもてなし」の問題点

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日本が世界に向けて発信している「おもてなし」ですが、観光客には必ずしも評価されているとはいえないようです。アンケートで見ると「日本人の一人ひとりの礼儀正しさ」や「困っていたら助けてもらえた」などの個人的な親切に感動したという意見はあるようですが、一方でホテルや旅館、レストランで受けた「おもてなし」に感動したという声はあまりないようです。

逆に、一方的に日本のやり方を押し付ける、臨機応変が効かない、堅苦しいなど酷評されるケースも多いといいます。すでに決められたマニュアル化されたサービスに関しては素晴らしいものを提供しても、そこから外れたリクエストになると対応できなくなる傾向があるようです。こういった自分本位の「おもてなし」を押し付けるのではなく、観光客のニーズを正確に把握することが求められているのです。

ゴールデンウィークは廃止すべき

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一方的な「おもてなし」を象徴するのがゴールデンウィークの存在で、観光立国を目指すならゴールデンウィークを廃止にすべきだとデービッドさんは指摘します。

こうした大型連休があることによって一時期にお客さんが集中することで、それをいかに効率よくさばくかという、供給者側の都合を全面的に押しつける最大の要因になっていると指摘します。さらに一時期に来客が集中して他の時期にこないと、観光業の設備投資が難しくなるともいいます。

現状の観光客

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いま日本に来てくれているのはどこの国の人たちなのでしょうか。2014年のデータによれば、1位が台湾で283万人、2位が韓国で275万人、3位が中国で240万人、4位が香港で92.6万人、5位がアメリカで89,2万人と続きます。これを見ると圧倒的にアジアの周辺諸国が多いことがわかります。

周辺国のニーズににはうまく答えて集客に成功しているのですが、ヨーロッパ諸国やロシア、オーストラリアという先進国から遊びに来る人が非常に少ないのです。そして一般的には遠くから来た人たちの方が滞在期間が長く、滞在期間と観光客の支出には、強い相関関係があるのです。

ですから長期滞在をしてくれるオーストラリア人や欧米人にきてもらえるようなプロモーション展開やアプローチをしていく必要があります。問題点が改善されデービッドさんのシナリオ通りになるとしたら、訪日外国人観光客の数は、2020年までに5600万人、2030年までに8200万人で、約40兆円ほどの追加経済効果が見込めます。

観光は一大産業であると自覚する

日本の観光戦略は必要以上に「日本の文化を広めたい、知ってほしい」、「日本人の精神を知ってほしい」など、本来は二次的な要素である部分を入れすぎて、観光客から見ると文化の押しつけになりかねない非常にリスキーな行為であると、デービッドさんは指摘します。

ですので、文化云々よりも、観光客に楽しんでもらって産業として「お金を落としてもらう」という意識を持つことが重要なのです。「おもてなし」ではなく、お金を払ってくれた人にしっかりとした「サービス」を提供する必要があります。『新・観光立国論』にはこれから観光立国として成長していくために必要なこういった論点が詰まっていますので、ぜひ読んでみてください。

[文・編集] サムライト編集部