コスパ最強!大人気居酒屋チェーン「鳥貴族」の強さはどこにあるのか?

コスパ最強の鳥貴族

あなたは鳥貴族に行ったことがありますか?おもいっきり食べて飲んでもなかなか3,000円を上回ることはありません。脅威のコスパと満足感で、毎日行きたいぐらいですが、残念ながら近所のお店は混んでて中々すんなり入れません。

鳥貴族は1986年に誕生して、2014年には全国で348店舗の巨大居酒屋チェーンになりました。全品280円から値上げして10月からは298円になることが決まったものの、常に均一価格を維持し続けられた理由とはなんなのでしょうか?ここでは鳥貴族の代表取締役社長・大倉忠司氏の著書『鳥貴族「280円均一」の経営哲学』を参考にしつつ、同社が群雄割拠の居酒屋市場を生き抜いている秘密に迫ります。

「チェーン店の脱チェーン店理論」

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チェーン店とは効率化するためにチェーン化するものです。マニュアルもレシピも店の内外装も、画一化するのは規模の経済(スケールメリット)を活用するために他なりません。しかし鳥貴族の美味しさ、人気の源はチェーン店的ではない非効率な部分にこそあるのだと大倉氏は言います。効率性よりも重視すべきものと、そうではないものを厳しく見極め、それを実践するのです。

例えば鳥貴族のモットーに「各店舗での串打ち」があります。焼き鳥の材料となる鶏肉は串打ちをした瞬間から鮮度が落ちていくと言います。これを防ぐために鳥貴族ではセントラルキッチンを採用していません。またもう1つのモットーに「国産新鮮鶏肉の使用」があります。輸入鶏肉の方が圧倒的に低コスト=効率的にも関わらず、それをしません。

このようにチェーン店らしからぬ非効率を抱き込むことで顧客を掴むやり方を、大倉氏は「チェーン店の脱チェーン店理論」と呼びます。

引き算経営のすすめー「持たざる経営」

最も重要な決定とは、何をするかではなく、何をしないかを決めることだ。

出典:http://meigen-ijin.com/stevejobs/3/

アップル共同創設者の故スティーブ・ジョブズはこんな言葉を残しています。鳥貴族の経営哲学はちょうどこのジョブズの言葉のように引き算を重んじる「持たざる経営」を実践しています。

例えばメニュー。鳥貴族のフードメニュー数は約65と、他のお店の約7割に絞り込まれています。このメニューのうち10個を半期に減らし、新たに10個を増やすことで常にメニューに新しさを保ちながら数を限定しているのです。

これはメニューが増えるほどに材料の調達コストやレシピの開発コスト、そしてそれを実現する人材コストがどんどんかさむからです。それをするくらいなら人気のメニューを見極め、人気のないメニューを引き算する。これが鳥貴族の「持たざる経営」です。

他にも多業態展開はしない、焼き鳥の炭火焼はしない(代わりに遠赤外線で美味しく焼ける電熱グリルを採用)、立派な本社オフィスは持たないなど、その哲学は徹底しています。「何が足りないのか」ではなく「何が余分か」と問うことから始めるメソッドです。

国産新鮮鶏肉の使用・各店舗での串打ちのカラクリ

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こういった引き算経営のおかげで前述した「国産新鮮鶏肉の使用」と「各店舗での串打ち」という「非効率」が維持できるのですが、この2つのモットーの中にも「引き算経営」は組み込まれています。

例えば国産鶏肉は1つの業者から仕入れるのではなく、輸送コストを削減するために出店地域の信頼できる業者を利用します。また串打ちに関しては専門のパートスタッフを雇い入れ、開店前のまだ社員すら1人も来ていない店舗で肉を切り分け、串を打つところまでを行っています。これによりコストのカットと焼き鳥の美味しさのバランスを取っているのです。

効率性よりも重視すべきものがあったとしても、それを極限まで効率化することで本当に必要なものだけを残す。これこそが鳥貴族における引き算経営の最も重要な考え方です。

大倉社長の「人づくりの基本思想」

私は「人づくり」のキーワードは、「価値観の伝承」だと思います。つまり「ものの見方」を伝えること。「これがいいこと」「これが大切」ということを、「現地現物」で後輩に理解させ、伝えていくこと。トヨタ自動車第9代社長 張富士夫

引用元:http://www.naykn.net/success/category/person-025.html

とはいえサービス業を運営するにあたって最も重要なのは「人」です。大倉氏は「人づくりの基本思想」と銘打って「行動の基準を定めること」と、「当たり前のことを当たり前にできる人になろう」という2つの思想を掲げています。

どんなに能力が高くても魅力的でない人間には人はついてきません。人がついてこなければ店長やマネージャーといった管理職はとても務まらないでしょう。組織を率いるのにふさわしい人づくりのためには、行動の基準が定まっており、挨拶や身だしなみ、時間管理ができる人間をつくる必要がある。大倉氏はそのように考えます。

人材教育はどんな組織でも常に大きな課題の一つですが、「人づくりの基本思想」のような最も根幹の部分を忘れてしまった人材教育からは結果は生まれません。まずは基本に立ち返ること。「人づくりの基本思想」はその重要性を説いているように思えます。

フェイス・トゥ・フェイス人材教育論

また大倉氏が人材教育で大切にしているのがフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションです。例えば鳥貴族では役員会・営業本部会議・マネージャー会議・店長会議・社員会議とそれぞれの職能に応じての会議が開かれていますが、できるだけこの全ての会議に大倉氏や役員も参加しているというのです。

これは言ってみれば恐ろしく非効率な手法です。しかしこれによって入社間もない社員でも、社長や役員と直に話す機会を得られ、同社の風通しの良い社風を維持することができます。現場の人間と経営サイドの人間が直に繋がることができれば、川上にいる人間には見えない・思いつかない新しいアイディアも日の目を見るでしょう。

現場からすれば自分の声がトップに届いたと思えば、モチベーションも上がります。これが日々の接客や業務に好影響を与えるのは言うまでもありません。

1000人の社員に理念を浸透させる方法

Business People in a Meeting and Working Together

フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションを大切にすると言っても、厳密に全ての社員やスタッフに企業のトップが会いに行くわけにはいきません。もちろん店舗規模が10店舗程度あれば、全ての店舗に社長が顔を出し、話を聞くことも可能です。

しかし鳥貴族のように300店舗以上を抱え、1000店舗・2000店舗を目標に掲げている企業では到底現実的ではありません。しかし組織運営とは「想い=理念を浸透させること」でもあります。それは鳥貴族も例外ではありません。

この問題を克服するために鳥貴族では次のような方法を採用しています。月に1回のマネージャー会議で、2カ月連続で大倉氏が理念や会社に対しての考えを伝えます。そのあと各マネージャーがそれを店長やスタッフに伝えるための自分のやり方を20分ずつプレゼンします。

これを同じように各エリアの店長にも行ってもらう。こうして順繰りに「自分の言葉で」伝えてもらうことで、より確実に理念を浸透させているのです。

「水商売」とは呼ばせない

大倉氏は人づくりのための基盤を作るために「水商売から脱皮」を掲げています。世間的に否定的なニュアンスを持つ「水商売」という言葉を、自分たちの仕事に使わせない。「水商売からの脱皮」とはそういう意味です。

社員から串打ちのパートスタッフまで、あまねく従業員が「鳥貴族で働いている」ということに誇りを持てる環境づくりが必要だと、大倉氏は考えます。

そのために仕事中にお客からお酒をもらうことを禁止したり、まだ3店舗程度の事業規模の時から社会保険に加入したり、長時間労働・低賃金という労働条件を改善したりと、実際に行動にも起こしています。以前は社員が行っていた串打ち作業を、パートスタッフに任せるようになったのもこのような考え方からでした。

常にアグレッシブに

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後悔しながら死にたい。20代の頃からずっとそう思ってきました。

引用元:『鳥貴族「280円均一」の経営哲学』

大倉氏にとって「やりたいことをやり尽くして死ぬ」人生は理想ではありません。なぜならそのあとの人生がつまらなくなってしまうから。

死ぬ瞬間にも「くそう!まだやりたいことがあるのに!」と死ぬ方が楽しいじゃないか、というわけです。満足したくない。そんな想いが常にあるからこそ、大倉氏はアグレッシブに「鳥貴族」を経営してこれたのかもしれません。

[文・編集] サムライト編集部