知らないと怖い?経済指標との正しい活用の仕方

経済指標に振り回される現代人

GDPや失業率、インフレ率……現代には多くの経済指標と呼ばれる数字が当たり前に存在します。しかしこれらがたった50年ほど前にようやく登場したものだということを、私たちは忘れがちです。

そして誕生から50年経った今、実はすでにそれらが実効性を失いつつあることにも気づきません。にもかかわらずメディアや政治家はまるで何かの真理でも扱うように経済指標に一喜一憂し、大衆もそれに釣られて購買行動を判断したり、特定の政治家に投票したりします。

経済指標のウソ 世界を動かす数字のデタラメな真実』の著者であり、アメリカの経済・投資情報会社の代表を務めるザカリー・カラベルさんに言わせれば、このような経済指標との付き合い方は間違っています。以下では本書を参考に、経済指標との正しい活用の仕方を紹介します。

主要経済指標は穴だらけ

メディアで取り沙汰される主要経済指標は直近50〜70年で発明されたものです。そのため自然法則のような真理ではないばかりか、逆に文明や経済の急速な発展にもついていけず、穴だらけになっています。

●GDPはもはや現状を反映できていない

例えば世界の主要国ならどこでも集計している「GDP」(国内総生産)は、現在経済指標の王様と言っても過言ではないほど崇拝されています。

しかしアメリカの統計を提供するアメリカ合衆国経済分析局が、GDPを最も重要な経済指標に含めるようになったのは、なんと1991年のことです。

GDPは経済指標のメインストリームに出てきて未だ30年足らずなのです。しかもカラベルさんによれば、もはやGDPは現状を単独で反映できなくなってきています。

仮に日本の企業が東南アジアの企業に部品を外注した場合、これは日本のGDPになりません。しかもこの部品を日本の企業が日本に輸入すると、輸入品として登録されます。

GDPにおいて輸入は国内生産から差し引かれるので、GDPの数値は下がってしまいます。GDPが発明された世界恐慌直後の時代には、こうした企業の在り方がもたらすGDPへの影響力はは無視できる程度でした。

ところがインターネットやグローバリゼーションが浸透した現代においては、現状との乖離を深刻にしてしまっているのです。

●データのズレと不足


経済指標そのものだけでなく、その基データとなる調査においても時代の変化によるズレが大きくなっています。例えばアメリカの「自動車」の価格は、1960年の3,000ドルから1990年の2万ドルまでの間に徐々に上昇しています。

これだけを見ると「たった30年の間に7倍近くも高くなっている!」と感じますが、この数字の中には自動車に装着されるようになった新しいシステムや、維持費を大幅に低下させる燃費性能の発展は考慮されていません。すなわち全く違う自動車を、同じ「自動車」という品目でくくってしまっているのです。

この他にも市場価値のないものをカウントしないGDPは、WikipediaやSNSといった無料のサービスを評価できません。しかしこうしたサービスは間違いなく付加価値を生み出しています。

また「そもそもデータが足りていない」という問題も無視されがちです。2012年のアメリカ大統領選の際、オバマ大統領は「失業率が7.2%で再選された大統領はいない」と繰り返し報道されていました。

しかしこの失業率という経済指標は1940年代後半にようやく発明されたものです。失業率がアメリカ政府によって示されるようになってから、2012年までに大統領選が行われた回数は16回。この数字は「失業率が7.2%で再選された大統領はいない」と統計的に言えるほど、十分なデータ数ではありません。

これは経済指標が活用されるようになってからの50〜70年という期間にさえ当てはまります。もちろん16というデータ数から導かれる結論よりは正確な予測が可能ですが、それでも50や70といったデータ数は統計学的に必要十分ではないのです。

経済指標の正しい役割と付き合い方とは?


カラベルさんは著書の中で、現代において経済指標はあまりにも崇拝されすぎていると指摘しています。では統計学的に見た経済指標の正しい役割とはどんなものなのでしょうか。

●処方箋ではなく、説明として使う

「統計は、私たちが考え、信じている物事が本当に正しいかどうかを教えてくれる」引用:前掲書p310

これは統計データを視覚的に表現できる無料ツール「Gapminder」の開発者、ハンス・ロスリングの言葉です。

政治家やメディアはしばしば経済指標を未来を示す予測データとして使います。しかしそれは経済指標の能力を超えた使い方です。経済指標は今起きつつあること、あるいは起こっていることの処方箋ではなく、それらを強調するための説明として活用されるべきなのです。

確かに「GDP○%上昇」「国民総幸福量で世界一」などと書かれたり、言われたりすれば、直感的な理解はしやすくなります。しかし経済は本来非常に複雑なものです。単一の数字で未来を予測したり、問題を解決することはできません。

●もともとの目的に従って使う

経済指標にはそれぞれ元々の目的が存在します。例えば失業率は世界恐慌前後の失業や不安定な仕事にあえぐ労働者の現状を伝えるために作られましたし、GDPも同時期の経済状況の全貌を明らかにするためにあつらえられたもの、第二次大戦直後に人々が自分たちの暮らしをどのように考えているのかを把握するために生まれたのが消費者信頼感指数です。

こうした目的を知ったうえで使っている限りは、「○○は〜すべきである」といったような処方箋的な使われ方をせずに済むはずです。

●「自分だけの指標」を作る

主要経済指標にはそれぞれ目的があり、それ以外の目的に利用すると問題が生じてしまいます。多くの企業と個人にとって、主要経済指標はほとんど意味がありません。

なぜならそれらは企業や個人のために作られた指標ではないからです。であれば国・企業・個人のニーズを満たすような便利な指標はないのでしょうか。答えは「ない」です。

ではどうすれば良いのかというと、カラベルさんは「政府や企業、コミュニティ、個人の特定のニーズや疑問に答える指標を新たにあつらえなくてはならない」(前掲書p361)と言います。

例えば企業であれば自社製品の需要が拡大しているのか縮小しているのかといった数字を指標にするべきですし、個人であれば「自分の幸福度」を数値化して指標にしても良いでしょう。インターネットやビッグデータを低コストで利用できる現代においては、難しいことではありません。

経済指標に振り回されるな

経済指標はそれがどんなものであれ、現実の一側面を切り取ったものでしかありません。それが一国の政治を左右したり、個人が住宅を購入したり、転職や企業をしたりするための判断材料になっていることがおかしいのです。

確かに数字の説得力は強力です。しかしそれに振り回されて思わぬ結果を招かないように注意しましょう。

参考文献『経済指標のウソ 世界を動かす数字のデタラメな真実』
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経済指標にはそれぞれ元々の目的があるという基本的なことを理解して使いたいですね。
[文・編集] サムライト編集部