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言葉「だけ」尽くしても伝わらない
「どうして自分の言いたいことが伝わらないんだろう?」その原因は話している言葉だけではないかもしれません。なぜなら言葉以外の伝え方やしぐさ(ノンバーバル)の方が、相手には「その人が本当に思っていること」として伝わりがちだからです。
声の抑揚、会話の間、そして体を使ったしぐさ、それらはコミュニケーションにおいて重要な役割を担っているのです。
ここではパントマイム・アーティスト荒木シゲルさんの著書『伝わり方が劇的に変わる! しぐさの技術』を参考に、ノンバーバルなコミュニケーションのうち主にしぐさが持つ意味と、しぐさによるコミュニケーション能力の磨き方を解説します。
体の部位はそれぞれノンバーバルな意味を持つ

荒木さんはパントマイムを応用したコミュニケーション・セミナーや身体表現についての講演なども開催している、いわばノンバーバルなコミュニケーションのプロです。
この荒木さんいわく、しぐさを使ったコミュニケーションを理解するには、まず体のそれぞれの部位が示すノンバーバルな意味を知っておく必要があります。以下では「(目や口も含む)アタマ」「胸」「お腹」「腰」「足」「腕」の6つの部位が持つ意味を紹介します。
●口ほどにモノを言う「アタマ」
アタマには目や口といったコミュニケーションには重要な部位が含まれるだけでなく、頭を動かすだけでYESやNOといった意思表示ができますし、向いている方向で目や思考が認識している方向を伝えることもできます。
頭をこちらに向けて話さない人に対して「この人は自分の話を聴いてくれている」とは思わないのはこのためです。
●意識の方向を示す「胸」
胸はアタマと同じくらい重要なコミュニケーションパーツで、モチベーションや意識の方向を示す役割があります。胸を張れば自信や信頼感を作ることができますし、胸をコミュニケーションの相手に向けたり、逆に背けたりするだけで意識の方向を示すことができます。
さらにアタマの動きと組み合わせると、より複雑な気持ちを伝えられます。
●個性を示す「お腹」
お腹はその人の性格が伝わるコミュニケーションパーツです。お腹を突き出して立つと、それだけで「だらしない」「子供っぽい」といった印象を与えます。
これはお腹が欲望の強さを表すパーツだからです。そのためお腹を引っ込めて立っている人は、それだけで勤勉で誠実な印象を与えます。お腹の前で手を組む姿勢が慎ましやかに見えるのもこのためです。
●自信や気持ちの安定性をを示す「腰」
腰は自信や気持ちの安定性を示すコミュニケーションパーツです。「及び腰」「へっぴり腰」「本腰を入れる」など日本語ではまさに自信と気持ちの安定性を示した使い方がされています。動作の面でも腰を安定させて動ける人は、一見して自信に満ちて見えます。
●心理状態が現れる「足」
足には無意識下の感情が現れやすいと荒木さん言います。例えばつま先の角度はコミュニケーションの範囲を示しており、狭ければそれだけ閉鎖的な印象を、広ければ開放的な印象を与えます。
面接などの時にも足がせわしなく動いていれば面接官に緊張が伝わってしまいます。また、足には品格を印象付ける役割もあるので、落ち着きのなさや自信のなさも伝わる可能性もあります。
●言葉・ポーズのサポート役「腕」
腕には言葉やポーズの持つ意味を強調する役割があります。胸の前で組んで威厳や怒りを伝える、腰に手を当てて自信を伝える、頭を押さえて首を振れば困惑や苦悩を伝えることもできます。
また漫画などであるように腕を直線的にカクカクと動かすと動きが硬くなり、不器用な印象を与えます。指に関しても大きく広げると知的に見えず、リラックスした小さな動きをすると知的に見えます。
私たちはコミュニケーションをとっている相手の言葉(バーバル)としぐさ(ノンバーバル)が矛盾すると、「いったい本当はどう思ってるんだ?」と困惑します。
ここで見た6つの部位の役割を理解し、自分の意図と一致するように意識的に動かすだけでも、そうしたコミュニケーション不良は解消されます。言葉と同じように体もコントロールして気持ちを伝える。これがノンバーバルなコミュニケーションを身につける第一歩です。
しぐさはこうしてメッセージになっている
続いては6つの部位を組み合わせて作る、具体的なしぐさを紹介します。実際のノンバーバルなコミュニケーションは以下に挙げる例よりももっと複雑です。しかし具体的な型を知っておくだけでも自分の体が伝えているメッセージについて意識的になれるはずです。
●「精神的に強い/弱いポーズ」

精神的な強さを示すポーズは、スピーチやプレゼンなど人前に立つ時に適しています。総じて関節をオープンにして、空間を大きく使うことで自信を表現し、信頼感や安心感を与えます。これと対極にあるのが精神的な弱さを示すポーズです。
関節を閉じたうえで視線を落とすことで、自信のなさや心細さ、不安感を印象付けます。ちなみに、このポーズは悪い例ではありません。謝罪するときやあまり目立ちたくない時などには、こうした精神的に弱いポーズが効果を発揮するからです。
●「戦略的に強い/弱いポーズ」

「戦略的に強い/弱い」というのは、相手に手の内を見せずにいるか、それともオープンにしてしまうかの違いです。したがって戦略的に強いポーズはこちらの意識のありかを示す胸や顔の一部を隠すポーズになります。「何を考えているかわからない」ということがミステリアスさを演出するのです。
これに対して戦略的に弱いポーズは、自分の意識のありかを完全にオープンにしたポーズとなります。場面によっては間抜けな印象を与えますが、子供っぽさや裏表のない性格を伝えたい時には適しています。
●「肉体的に強い/弱いポーズ」

肉体的に強いポーズは、文字どおり「自分は腕力が強いんだぞ」と相手を威嚇するためのものです。格闘家やコワモテのラッパーなどによく見られるしぐさが、全身に盛り込まれています。
一方で肉体的に弱いポーズは、精神的に弱いポーズに肉体的な急所を守るしぐさを加えることで、肉体的な弱さを示しています。肉体的に強いポーズは使いどころを間違えると痛い目に遭いますし、弱いポーズも必要以上に臆病で弱々しい印象を与えてしまいます。
これはどのようなしぐさにもいえることですが、「自分は今どんな気持ちを伝えたいのか」「どんな自分を見せたいのか」を意識したうえで、自分のしぐさを客観視するようにしましょう。でなければ伝えたくない気持ち、見せたくない自分を意図せずしぐさで表してしまうことになります。
「伝えるしぐさ」を身につけよう
「コミュニケーションは言葉だけじゃない」と言われれば、すんなり納得できる人も多いでしょう。しかし「では言葉以外のコミュニケーションをコントロールしているか?」と問われてためらいなくYESと答えられる人は少ないのではないでしょうか。
自分の意図した通りに言葉を伝えたいのであれば、言葉と同じくらいしぐさにも意識を向ける必要があります。まずはここで紹介した体の使い方を、日々のコミュニケーションの中で意識的に試してみてください。
「この部位をこう動かすと、こういう意味に見えるな」ということがわかってきます。そうして「伝えるしぐさ」が身につけていけば、あなたのコミュニケーションの精度は格段にアップするはずです。
参考文献『伝わり方が劇的に変わる! しぐさの技術』

