俯瞰力×利己心のなさが人を惹きつけた西郷隆盛の魅力

西郷とはどんな人物か

NHK大河ドラマ『西郷どん』が1月からスタートしました。筆者は小学生の頃に西郷隆盛の自伝漫画(※小学校や中学校の図書館に置いてある歴史漫画です)を読みました。それ以来、「西郷隆盛」という人物は何かと気になる存在であり続けました。

しかしながら、西郷隆盛について特段詳しいわけでもありませんでした。はっきり記憶していたのは坂本竜馬が「大きく打てば大きく響き、小さく打てば小さく響く釣り鐘のような人物」と評したこと、そして薩長同盟、大政奉還、新政府樹立の中心人物だったことです。

西郷とはどんな人物だったのか、私たち現代の日本人が生きる上で西郷から参考にできることは何かあるのではと思うに至りました。

そこで今回、塩野七海『男の肖像』(文春文庫)と内村鑑三の『代表的日本人』(岩波文庫)を参考に西郷を調べてみました。

塩野七海が惚れた男

塩野七海氏はローマ人物語というローマ時代の広大な世界観の物語を執筆した女性作家です。執筆対象はカエサルなどの世界級の大物男児ばかり。そんな塩野氏をしてこう言わしめています。

「私がもしもあの時代に生まれていたならば、坂本竜馬あたりは他の女たちにまかせておいて、西郷隆盛に惚れたであろう。そして、田原坂あたりで、銃弾うけちゃったりして….」
塩野七海 『男の肖像』文春文庫kindle版位置番号815

男も惚れた男

また、西郷は塩野氏という女性ならずも男性にも惚れられる人物だったようです。新政府への反乱でもある西南戦争で西郷軍の支援に派遣されていた旧中津藩の中津隊隊長増田栄太郎の話。

西郷軍が新政府軍に押されて撤退していく中で派遣されていた中津隊は中津藩に戻るように指示を受けました。

しかし、増田氏はそれに応じず「1日西郷に接すれば、1日の愛生ず。3日接すれば、3日の愛生ず。親愛日に加わり、今は去るべくもあらず。ただ、姿勢をともにせんのみ」と言ったのです。

これ、普通に考えてものすごいことです。それだけ西郷は魅力的で支持したくなる漢だったということでしょう。

スキル、頭の切れでは測れない人間力の持ち主

そんな西郷隆盛は今でいうバリバリのできる「いい男」だったのでしょうか。実はそうでもないようなのです。内村鑑三著『代表的日本人』において内村は、西郷はスキルや頭の切れは抜群に秀でてはわけではないと言っています。

内村は内政に関しては大久保利通や木戸孝允、平和時の国家運営に関しては岩倉具視や三条実美が西郷より勝っていたし、経済改革に関して西郷は無能であったと言っています。

しかしながら西郷が新政府樹立の原動力であったことは確かであるとも言っています。

新政府樹立に向けて、徳川幕府、薩摩、長州、対立し複雑に利害が絡んだステークホルダーを取りまとめるのは容易ではなかったはずです。

しかし、それをやりとげることができたのは西郷の存在が非常に大きかったようです。西郷は薩摩藩に属していながらも敵対していた長州藩からも江戸幕府からも信頼できる人物として一目置かれていたのです。

一体なぜ西郷がここまで人々から支持される人間だったのか。その理由を知ることは現代を生きる私たちにとっても有益でしょう。そこで、後世にまで残っている西郷の言葉を拠り所に彼の思考に迫りたいと思います。

俯瞰力×利己心のなさ


「敬天愛人」という言葉は多くの人が聞いたことがあるかもしれません。「天はあらゆる人を同一に愛する、ゆえに我々も自分を愛するように人を愛さなければならない」そんな西郷の人生観が集約された言葉です。

ここに天という言葉があるところに着目です。これはすなわち自分の立場を超えて天から俯瞰しすべての人を平等に取り扱うということです。西郷には自分の所属の薩摩藩という立場だけでなく、長州藩、江戸幕府とステークホルダー全員の立場を考えた「俯瞰力」がありました。

もう1つ西郷の思考がよく現れた言葉があります。

「人の成功は自分に克つにあり、失敗は自分を愛するにある。八分どおり成功していながら、残り二分のところで失敗する人が多いのはなせか。それは成功がみえるとともに自己愛が生じ、つつしみが消え、楽を望み、仕事を厭うから、失敗するのである」
内村鑑三『代表的日本人』岩波文庫kindle版位置番号455

西郷隆盛の特徴は利己心のなさです。利己心のない人間ほど強いものはありません。利己心がないがゆえに保身に回らず周囲の利害に惑わされることなく公平な判断ができます。

そうすると周囲の人から圧倒的に信頼され支持されていくわけです。西郷はスキルや知性では他の幕末の英雄に引けを取っていたのかもしれません。しかし、利己心のなさという点では西郷がダントツだったのでしょう。

利己心がないといっても西郷に自分の意志やビジョンがわけではありません。西郷はこのように述べています。

「正道を歩み、正義のためなら国家と共に倒れる精神がなければ、外国と満足できる交際は期待できない。その兄弟を恐れ、和平を乞い、みじめにもその意に従うならば、ただちに外国の侮蔑を招く。その結果、友好的な関係は終わりを告げ、最後には外国につかえることになる」
内村鑑三『代表的日本人』岩波文庫kindle版位置番号477

西郷には特別際立ったスキルや知性はなかったものの俯瞰力と意志、ビジョンを伴った利己心のなさにより複雑な利害関係にある集団をまとめることができました。激動の時代にこそ重用される存在だったのでしょう。

今後、来る激動の時代、この西郷のような俯瞰力と利己心のない人が求められる時代がやってくるのではないでしょうか。

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人に愛されるというのはいつの時代も重要な要素だと思います。
[文・編集] サムライト編集部