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その書類では「使えない」
プレゼンの資料や企画書に営業日報、取引先への提案書や商品説明書などビジネスパーソンとして働いていれば、書類作成からは逃れられません。しかしこういった書類を提出して上司から「使えない」と言われたり、アイディアはいいはずなのに一向に契約を取れないなんてことはありませんか?
これはズバリその書類が「使えない書類」だからです。ここではついつい犯しがちな書類作成のミス5つをあげながら、「使える書類」の作り方を紹介します。
情報量が多すぎる
使えない書類で最も多いのが「情報が多すぎる」書類です。確かに長期にわたって交渉を重ね、いよいよ契約が成立するというときの書類などは交渉内容を丁寧に記載しなければなりません。
しかし多くのビジネス書類はじっくり読み込むものではありません。プレゼン資料や企画書などは忙しい上司や役員の時間を割くこともあり、情報量が多すぎて内容を理解するのにかかる時間はできるだけ短くする必要があります。
サイバーエージェント社長・藤田晋さんは「ダメな企画書の典型例は?」という質問に対し、「分厚い企画書は、それだけでダメですね」と断言しています。大切なのは自分が漠然と「伝えなければ」と思っていることから、「伝えたい!」と情熱を持って言えることを絞り出すことです。
ローソン社長・竹増貞信さんは三菱商事16代目社長の小林健さんのエピソードを引いて、「提案の内容は31文字の短歌のように、簡潔かつ的確にまとめるべき」と言います。
これは極端な言い方だとしても、自分の提案を数十文字のエッセンスにまとめることは、上司や経営者に「使える」と思わせるために効果的な方法です。
今自分が作成している資料に載せている情報は本当に記載するべき情報なのでしょうか。そう問いかけるところから始めてみましょう。
「誰が読む書類か」を無視している

これまでに2000本の企画を作成してきた創造開発研究所代表取締役社長・齋藤誠さんは書類を作成するときに、それを誰が読むかをよく考えるようにせよと言います。
例えば上司に「売上アップの方法を考えてくれ」と頼まれたとします。このとき上司が既存商品の売り上げダウンに頭を悩ませていたとしたら、たとえ世の中を変えるような新商品企画を提出したとしてもおそらく採用されません。
上司が求めているのは既存商品の業績改善だからです。あるいは部下の動向を管理したい上司に対して簡潔すぎる営業日報を提出すれば、いくら営業成績が優秀でも上司からの評価は望めないでしょう。
どんな上司が、どんな目的で読む書類なのか。書類を作成するときはこれをよく考えたうえで、相手の年齢に合わせて文字のサイズを変えたり、相手の目的に合わせて書類のタイトルを考えたり、または情報の具体性を調整するなどの配慮が必要不可欠なのです。
「どこでアピールするか」を考えていない
書類はシンプルであるほど良いと言うのは、三井物産社長の安永竜夫さんです。しかしだからと言って読み手が「なるほど」「おっ!」と思えるようなポイントを作っておかなければ、こちらの主張をアピールできません。
書類のどこでアピールするかを考えなければ、せっかくの使える書類も「使えない」と判断されてしまいます。
NEC製造管理部担当部長などを務めたグローバリング代表取締役・稲垣公夫さんはA3用紙一枚にまとめる「トヨタ式A3資料作成法」を使った改善プラン案を例にとり、そのポイントの1つとして「あえて『複数の案』を並記する」を挙げています。
A3用紙の中に全てを凝縮しなければならないにもかかわらず、トヨタ式の改善プラン案には樹形図にして書かれた「捨て案」が並記されているのです。
この目的は作成者が様々な角度から熟慮したということのアピールと、各案の長所と短所を一目で比較検討し、こちらが最終的に提示する案が最善だということを納得してもらうため。このように意図的にアピールポイントを作るのも、使える書類作りには必要です。
いきなり「パソコン」で作成し始めている
日本IBMシニア・プロジェクト・マネージャーの木部智之さんは「手書き8割、PC2割」を一番早くて楽な書類作成の基本だとしています。
構想が曖昧なままパワーポイントなどのPC作業に入ると、中身を洗練させることよりも文字の大きさや画像等の選定に夢中になってしまい、結果として中身のない書類になります。
さらにそれを上司にチェックしてもらってNGを出されれば、その時間は全部水の泡。次の締め切りまでに間に合わせなければと急いで作成すれば、粗い書類になって当たり前です。
これを防ぐためには時間もかからず、操作に慣れる必要のないペンと紙を使った手書き作業が一番なのです。木部さんは仮に20枚のスライドを作成するときはA4用紙20枚を用意して原寸大の下書きを作成していくのだとか。
この段階で上司にチェックしてもらえばPC作業の時間も無駄にならず、内容の精査により時間をかけることができ、最終的に「使える書類」になっていくというわけです。
「数字」と「ストーリー」へのこだわりが足りない
社長室長・三木雄信さんによればソフトバンクの孫正義社長は「正しい数字を見ていれば正しい判断ができる」という基本思想のもと、「数字の裏付けのない資料の価値は、ゼロに等しい」という考えを持っているのだそうです。
社員には「数字で考えるのではなく、数字を感じるレベルに達しなさい」とまでアドバイスし、徹底して「正しい数字」にこだわります。
そのためソフトバンク社員は「雨の日の休日の新宿駅前店にて、ベテラン社員1人とアルバイト2人によるキャンペーンの顧客獲得の予測数」という非常に複雑な数値予測まで、高い精度でやってのけるのだとか。
勘や経験に頼らず、数字に徹底的にこだわることが、日本経済を引っ張るソフトバンクにおける「使える書類」なのです。
一方で電気自動車ベンチャーのテスラモーターズ社長・徳重徹さんや元メリルリンチで現在はSUVACO社長を務める中田寿さん、ミドリムシ配合食品のユーグレナで食品事業課のチームリーダーを務める安井丈拓さんなどは口を揃えて「数字よりもストーリーが大事」と言います。
大規模な出資を決めてもらうためには、最終的に相手の心にどれだけ訴えられるかが勝負。提案の仕方はもちろん資料にも、相手を動かすストーリーが必要不可欠なのです。
「数字」と「ストーリー」は書類の両輪です。この両方にどれだけこだわれるかも、「使える書類」かどうかを決める重要なポイントです。
大前提は「作成者自身」の信頼感にある
ベンチャー起業支援の「TXアントレプレナーパートナーズ」の最高顧問・村井勝さんは「起業家自身に信頼が持てなければ出資できない」と断言しています。
どんなに完璧な書類を作成しても、最終的な判断要素になるのは「作成者自身が信用できるか否か」。特にプレゼン資料や企画書、提案書などの場合はこの要素が結果に及ぼす影響は大きくなるでしょう。
書類作成のスキルを磨くと同時に、せっかくのアイディアや書類が台無しにしないための「日頃の行い」にも十分注意しましょう。
参考文献
『PRESIDENT2016年10/17号「ズルイ資料術」』
『必ず通る!「資料」作成術 完全版』
