シリコンバレーで人気の「リベラルアーツ人材」ってどんな人?

今シリコンバレーで求められる「リベラルアーツ人材」とは?

大学の教育科目の中にもある「リベラルアーツ」。近年、このリベラルアーツがIT産業の中心地であるシリコンバレーにおいて注目を集めています。

日本の教育ににおけるリベラルアーツは二通りに定義付けされており、ひとつは東京大学教養学部における、いわゆる一般教養としての定義。

もうひとつは、米国のリベラルアーツカレッジを模範にして作られた国際基督教大学(ICU)教養学部における「文系、理系の区別なく幅広い知識を得た後に、専門性を深めることで、豊富な知識に裏打ちされた創造的な発想を可能とする教育」という定義です。

プログラミングよりも哲学的思考が優先されつつある理由

iStock_000015424386_Small

米労働統計局は「2022年まで新たに110万人がセールス職で生計を立てるようになる」との予想を発表しています。それに対し、ソフトウェア技術者の数は27万9500人の増加にとどまるだろうとされています。

また、世界最大級のビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービスを提供するシリコンバレーのIT企業「LinkedIn(リンクトイン)」も、「ITブームの恩恵を最も享受したのは、IT系の学位を持っていない人々のほうかもしれない。」との推論を出しています。

1920年代の自動車革命が多くのディーラーやセールスマン、自動車学校の教官、道路作業員などの新たな職を生み出すきっかけとなったように、エンジニアが先進技術を開発すればするほど、それを顧客と結びつけ、提供する価値や素晴らしさを納得させることができる人材が必要となってきます。

つまり成熟したIT企業ほど、技術者中心の採用から、社会的対人スキルに富み、哲学的思考ができる人材の獲得を優先し始めているのです。

リベラルアーツ人材の3つの特徴

Aerial View of Multiethnic Group with Communication Concept

明晰な文章を書くことができる

リベラルアーツ人材の第一の特徴として、考えや内容にふさわしい言葉選びができること。つまり、明晰な文章を書くことができる点が挙げられます。

明晰な文章を書くための方法として有名なのが「5W1H」ですが、それをもう一歩クオリティの高い文章にするための方法が、次の「6W3H」を意識することです。

【6W3H】
・WHO(誰が)
・WHEN(いつ)
・WHERE(どこで)
・WHAT(なにを)
・WHY(なぜ)
・WHOM(誰に対して)

・HOW(どのように)
・HOW MUCH(いくら)
・HOW MANY(いくつ)

これらの要素が過不足なく入っているかを確認しながら、ターゲットとなるユーザーにとってわかりやすい適切な表現をすることで、人に伝わりやすい明晰な文章を書くことができるようになります。

議論への貢献度が高い

議論において評価のポイントとなるのが「発言した回数」と「発言の品質」です。リベラルアーツ人材は「量と質」の両方を兼ね備え、異質な人々の意見を集約し、まとめる能力を備えています。

頭の固いエンジニアばかりの職場では互いのエゴがぶつかり合い、感情的な議論に陥りがちになってしまいます。しかし、理性的かつ複眼的な意見を出すことのできる人材を議論に参加させることで、それを防ぎ、建設的な結論を得やすくなるのです。

自分の議論における貢献度を知りたいという方は、下記のチェックポイントで調べることができます。

1. まじめな課題について徹底的に話し合ったり、討論したりする事が好きだ。
2. いつも相手の話には注意深く耳を傾ける。
3. 議論の相手に対し、我を忘れるほど激高することはない。
4. 議論が起こりそうな問題があるときは、前もってそのことについて調べておく。
5. 相手を観察し、性格上の強さや弱さを見ぬくようにしている。
6. 相手の感情やモラルに訴えることができる。
7. 論理的な主張ができる。
8. 白熱した議論でも、冷静さを保ち、自分をコントロールできる。
9. 相手の意見を理解しようとし、ときには自分の考えも変えられる。
10. 相手に勝つより、相手と合意できる方がうれしい。

これらのうち七項目以上に「はい」と答えられたら、優秀だ。

引用出典:ポール・スローンの思考力を鍛える30の習慣 P.160

古い観念に囚われない発想力

シリコンバレーのIT企業がリベラルアーツ人材を獲得しようとする最大の理由が、冒頭でも述べた「豊富な知識に裏打ちされた創造的な発想」を身につけている点にあります。

現在、このリベラルアーツ教育を行っている大学の中で特に注目を集めているのが、米東部バーモント州にある「ミドルベリー・カレッジ」です。

ここでは、2007年に「クリエイティビティ・アンド・イノベーション・プログラム」という起業家育成コースを設立して以来、起業家シンポジウムや学内シンポジウムを定期的に開催するなど、「スタートアップ道場」としての顔を持ち始めています。

伝統的な教養を身につける場が、ビジネスに重きを置いた教育に方向転換をしたことに疑問を持つ声もあるようですが、それでも教育関係者の間では「世の中を良くするうえで、実務的なスキルを身につけることは有意義である」と評価する方も少なくないようです。

Career Supli
今回は、シリコンバレーで注目される「リベラルアーツ人材」について詳しく紹介しました。IT業界にはこれまで「プログラムありき」という風潮が根強く存在していましたが、現在はその地平を広げ、非技術者サイドの強化がサービス成長の近道になるという見方が出てくるようになりました。これからのデジタル革命を考察する際には、先進的プログラムとともに、リベラルアーツ教育がもたらす新たな哲学にも注目する必要がありそうです。
[文・編集] サムライト編集部