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「怒らないのが大人」は大きな勘違い
「すぐ感情的になるなんてあの人は人間ができていない」何かと怒っている人は、こんな風に評価されるのが一般的です。しかしだからと言って、「怒らないのが大人」というのは大きな勘違い。
実は世の中の「プロフェッショナル」と呼ばれる人たちの多くは、ずば抜けて「怒っている」のです。ここでは笑いのプロ・内村光良さんや各界のプロの「怒り」エピソードとともに、より効果的に「怒り」と付き合うための考え方を紹介します。
内村光良は「怒り」で人生を変えた

画像出典:Amazon
「ネタもできていないのに、女子と消えるとは何事だ!」
「生放送なら、僕はやりません!」
「ちゃんと作ったやつはちゃんとした尺で流してくれ!」
『コントに捧げた内村光良の怒り』(著・戸部田誠 コア新書)には日本を代表するコント芸人・内村光良さん(ウッチャンナンチャン)の怒りの言葉が取り上げられています。
ウッチャンナンチャンが初めてコンビを組んだ横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)の漫才の特別発表会。稽古もせずに女子と遊びに行ってしまった相方・南原清隆さんに対し抱いた怒りを原動力にして、内村さんは「素晴らしきイングリッシュの世界」というコントを書き上げます。
のちに同学院講師の川端瑞貴さんから2人揃って進路指導に呼ばれ、「漫才で行け」と言われる要因となったのがこのコントです。また当時お笑い芸人の登竜門だった『お笑いスター誕生‼︎』に初挑戦した際のネタでもあります。
その後紆余曲折はあったものの、怒りに任せて書いたこのコントが内村さんの人生を決定付けたのです。前掲書の中では他にも内村さんがいかに「怒り」の中でプロの道を突き進んできたのかが描かれています。
プロフェッショナルはいつも怒っている!

「怒り」を原動力にしているのは内村さんだけではありません。2014年に青色発光ダイオード(LED)の開発でノーベル物理学賞を受賞した中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授もその1人です。中村さんは受賞の際の記者会見でも研究の原動力について「アンガー(怒り)だ」と答え、「怒りを前向きなパワーに転換してきた」と言っています。
「心を揺り動かす、感情的な高ぶりがないと、良いソフトは開発できない」と断言し、その感情こそ「怒り」だとするのは、オープンソースのCIサーバ「Jenkins」の開発者・川口耕介さん。川口さんは「Jenkins」への功績を認められて2011年のGoogle O’Reilly Open Source Awardを受賞したほか、2012年の日本OSS貢献者賞も受賞しています。
同サーバが生まれたきっかけは、川口さんの「ソフトウェアのビルド作業は自動化できるはずなのに、なぜそうしないのか」という静かな怒りだったのだとか。
世界を変えるようなプロフェッショナルは、このように心のどこかに「怒り」を湛えて生きているのです。
私たちはなぜ怒るのか?
そもそも私たちがなぜ怒るのかというと、「自分の価値観と違うものに直面するから」です。「どうしてそんなことを言われなければならないのか」「どうしてそんなことをするのか」という「違い」に直面し、「正しい自分の価値観に合うものに変えなければならない!」と怒る、というわけ。
これだけ聞いてしまうと、「やっぱり怒りは自分の価値観しか許容できない未熟な人間の感情だ」と言いたくなるかもしれません。事実、私たちの日常には、自分の価値観を押し付けようとして怒鳴り散らす困った上司やお客さんも少なくないからです。
しかし同時に内村さんや中村さん、川口さんといったプロフェッショナルも怒りに打ち震えている。両者の違いは一体どこにあるのでしょうか。その答えが「アンガーマネジメント」という、怒るための技術にあります。
怒るための技術「アンガーマネジメント」

「アンガーマネジメント」とはアメリカで実践され、文部科学省も注目している感情理解教育です。日本ではこの教育の第一人者・安藤俊介さんが理事を務める「日本アンガーマネジメント協会」が普及・実践に努めています。
「アンガーマネジメント」は「怒り」を抑圧する技術ではありません。怒ることの問題を怒ることそのものではなく、「適切に怒れていないこと」だと考え、任意に怒れるようになるための技術なのです。
例えば自分の価値観と違うものに出会い、むくむくと怒りがわき上がった時に「ちょっと待て」と自分を冷静に諭せるようになります。
あるいはここで紹介したプロフェッショナルたちのように、怒りを爆発的なエネルギーに転換して前に進むこともできるのです。
「怒らない」一辺倒ではなく、「いかに怒るか」を考えることが大切なのです。
アンガーマネジメントの具体的方法とは
安藤俊介さんと同様、日本アンガーマネジメント協会で理事を務める小林浩志さんは、次のような「怒りの技術」を提案しています。
「怒り」は「第二次感情(セカンダリーエモーション)」と呼ばれており、原因となる「第一次感情(プライマリーエモーション)によって引き起こされます。
第一次感情の例としてあげられるのは、不安やストレス、悲しみや嫉妬など、ネガティブな感情ばかりです。私たちはこの第一次感情の存在を忘れ、その副産物である怒りに惑わされてついつい怒ってしまいます。
小林さんはこの事態を防ぐために「YOU(あなた)メッセージ」を「I(私)メッセージ」に変えれば良い、と言います。私たちが人に怒りをぶつける時は、「お前のそういうところが気に食わない」「どうしていつもお前はそんなことをするんだ」と、相手を評価するような言い方をしがち。
そうではなく、自分の第一次感情に目を向けて「私は(あなたの行動で)不安になる」「私は(あなたにそんなことをされて)悲しい」と言い換えることで、相手にぶつける感情を第二次感情ではなく、第一次感情に変える。こうすることで、自分の中の感情を抑圧することなく、かつ無用なトラブルを避けることができるのです。
「怒ること」=「悪いこと」?
認知神経学を専門とする京都大学准教授・野村理朗さんによれば、私たちが怒りを感じる時、脳の扁桃体ではストレス反応を起こすホルモンである「アドレナリン」を分泌させます。すると心拍数や血圧は上がり、息が荒くなり、筋肉への血流も増加するなど、体全体を「怒り」モードに変えていくのです。
このように怒りの感情が身体にとって悪影響を及ぼすストレスホルモンを分泌します。ストレスは体はもちろん、心にもよくありません。したがって怒りは心臓病やうつ病のリスクを高めると言われています。
しかし一方で野村さんは、怒りは自分を奮い立たせてくれたり、問題解決に向かうきっかけになるほか、社会的に不当な扱いに対して怒りを表明することで、周囲とコミュニケーションを深めるツールでもあるといいます。
これまで不遇な扱いを受けてきた「怒り」という感情。これを今一度見直す時期が来ているのかもしれません。
「怒り」で人生を切り開け
「怒り」という感情が、これまでとは違う視点で注目を浴びつつあります。これからは「怒らない」だけでは未来は切り開けません。アンガーマネジメントなどの怒りをより生産的に消化する方法を身につけ、怒りで人生を切り開いていきましょう。
参考文献『コントに捧げた内村光良の怒り』
