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「怒り」が仕事のパフォーマンスを下げている!
上司に理不尽な説教を受けたり、通勤電車の中のちょっとした出来事にイラっときたり、私達の日常には「怒り」を感じる場面が無数にあります。
確かに怒りは爆発的なモチベーションをもたらしてくれることもありますが、怒りが発生させるストレスに振り回されると仕事のパフォーマンスは大きく低下してしまいます。怒りを制御できずに周囲に八つ当たりをしてしまって自己嫌悪に陥った経験のある人も多いはずです。
ここでは「怒りの技術」であるアンガーマネジメントの考え方を使って、怒りの感情を自分の武器にするための方法を提案します。
怒りの構造を知ろう!
そもそも私たちはなぜ怒るのでしょうか。京都大学准教授・野村理朗さんによれば怒りとは「自分自身の気持ちや身体を、物理的、社会的に攻撃されたり、侵害されたと感じたことによって生じるネガティブな感情」です。
この感情を抱くと私たちの脳にある扁桃体が自分自身に対する脅威を認識し、ストレス反応を引き起こすホルモン「アドレナリン」の分泌を指示します。これにより心拍数や血圧などの怒った時の身体症状を引き起こすのです。
この「自分自身に対する脅威」がどのようなものなのかは、人によって変わります。いくら罵倒されても平然としていられる人もいれば、通行人と肩が当たっただけで激怒するような人もいます。重要なのは「自分がどのような時に怒りを感じるのか」をできるだけ正確に知っておくこと。そうすれば自分が怒りを感じる場面に出くわせば、そのための心の準備ができます。
この自分の怒りの構造を知るのに効果的なエクササイズが「アンガーログ」と呼ばれるものです。「今日は怒ってしまったな」と思ったら、メモ帳などに以下の項目を書き出しておきます。
・怒った日時、場所
・怒るきっかけとなった相手や出来事
・怒る原因となった自分の価値観
・その時の自分が考えたこと
・10段階での怒りの強さのレベル
・怒ることで起こった結果
このアンガーログを繰り返していれば、自分の怒りの構造を冷静な頭で分析する癖が身につくはずです。
怒りの再生産をストップさせろ!

怒りの構造を把握できたら、次はこの感情をうまく活用するための方法を知っておきましょう。そのためにまず必要なのは「怒りの再生産のストップ」です。
例えば嫌いな上司に理不尽な説教を受け、怒りを感じたとします。怒りをコントロールできない人というのは、説教の最中はもちろん説教が終わってからでも「ちくしょう、あのバカ上司め!仕事はできないくせに口だけは達者だ!」などと説教のことを思い出して、怒りを再生産してしまうのです。人によっては仕事終わりに同僚に居酒屋で愚痴を吐き出す人もいるでしょう。
しかしこの時この人は延々と「怒り」という負の感情を反芻して、ストレスを自分からたっぷり味わっているのです。これでは仕事のパフォーマンスは低下する一方ですし、怒りは他人に伝染するので同僚のパフォーマンスまで引き下げる危険さえあります。
怒りの構造を把握できたら、それを再生産しないようにむやみに思い出さないことが重要です。もし思い出すのであればアンガーログのように冷静かつ客観的に思い出すこと。怒りのコントロールの第一歩はここからです。
怒りを一瞬でクールダウンさせる方法を知ろう!

次に知っておくべきは、ついついカッとなってしまった時に一時的に怒りの感情をクールダウンさせる方法です。
日本アンガーマネジメント協会の代表理事を務める安藤俊介さんによれば、怒りを感じた時に最もやってはいけないことは「反射的に怒る」こと。上司に理不尽な叱責を受けて「反射的に」反論する。
同僚にバカにされて「反射的に」手が出る。こうした怒りに任せた言動が何かプラスの結果をもたらすことはほとんどありません。そのため怒りを効果的に活用するには、最初に怒りを感じた時にその感情をクールダウンさせる方法を身につけておく必要があるのです。
安藤さんは著書『怒りに負ける人 怒りを生かす人』の中で3つの方法を提案しています。
1.怒りを感じたらとにかく6秒数える。
→怒りの感情のピークは6秒と言われており、これをやり過ごせば比較的冷静になれる。
2.怒りの対象から意識をそらすためにスマホや文庫本を使う。
→意識していても人は怒りを再生産してしまう。その流れを断つためにイラっとしたら意識的にそのことを考えないようにするツールを持ち歩くようにする。
3.冷静になるために実況中継する。
→状況によってはスマホや文庫本を使えない場合もある。そういう時は怒りを感じている相手の言動や自分の言動を心の中で実況中継すると冷静になれる。
これらの方法は知っておくだけでは役に立ちません。まだ自分の心に余裕があるような、ちょっとした怒りの感情に対して使って習慣化しておく必要があります。するといざ頭に血が上った時にも自動的にこれらの対応ができるようになるのです。
怒りの語り方を覚えよう!

次はその感情をアウトプットするのかしないのか、するとすればどのようにするのかを考えます。この時のポイントは「原因より目標、過去より未来について怒る」こと。
「どうしてそんなミスをしたんだ!」と原因や過去について怒っても、相手にとっては責められているようにしか感じられません(怒る側も「ただ責めたいだけ」の場合が多い)。
対して「ミスをしたことよりも、生じた損失をどう回収するかを考えろ!」と目標について言及したり、「将来お前の部下が同じミスをした時のために、今回のことからよく学べ!」と未来について言及すれば、怒られた側もどうすればいいのかが理解しやすくなるでしょう。怒りを伴った言葉だけに、相手も真剣に受け止めてくれるはずです。
これを実践するためには、怒りを語る時は「今度から」を前置きにする癖をつけるのが効果的です。この前置きが先に口に出てしまえば、そのあとは目標や未来についての言葉にせざるを得なくなります。
怒りを活用してパフォーマンスを上げよう!
「怒り」という感情そのものが悪であるかのように言われることは少なくありません。しかし本当に悪いのは怒りの間違った使い方なのです。正しい使い方を知ることができれば、怒りは仕事のパフォーマンスを飛躍的にアップさせる心強い武器となります。まずはここで提案した「怒りの技術」を実践することから始めてみてはいかがでしょうか?
参考文献『怒りに負ける人 怒りを生かす人』
