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交渉で勝つには「説得」が必要不可欠
仕事でもプライベートでも、自分の意見を通すためには交渉する必要がある場合も少なくありません。そして交渉の場で勝つには「説得」が必要不可欠です。しかし馬鹿正直に自分の意見を貫いているだけでは説得を有利に進めることはできません。
命がけの交渉が繰り返される裏社会を徹底的に取材してきた向谷匡史さんは、著書『説得は「言い換え」が9割』の中でタイトルどおり「説得の本質は言い換えであり、一見相手が賛成し難い自分の意見を、相手が賛成したくなる意見に見せることが重要だ」と言います。ここでは向谷さんが裏社会への取材を含む記者・作家人生の中で見出し、身につけてきた説得に役立つ「魔法の言葉」と「説得スタイル」を紹介します。
説得をスムーズにする4つの魔法の言葉
●「せっかく」
「せっかく」という言葉はマイナスの状況をプラスに転じることができる言葉です。仕事で大きな失敗をした部下やプロジェクトに失敗したチームなど、モチベーションの下がってしまった人間に再びやる気を出させるのは至難の技です。
そんな人たちに「気合を入れて頑張ろう!」と言っても、気の抜けた答えしか返ってこないでしょう。しかしそこで「せっかく大きな失敗ができたんだ。二度と失敗しないように徹底的に反省しておこうじゃないか」と言えば、状況は一気にポジティブになります。
この言葉だけでモチベーションが急上昇するわけではありませんが、少なくともそのきっかけを与えることはできます。そうなれば部下やチームメンバーにもう一度頑張ってもらうことができるでしょう。
●「君ならできるって、みんな思ってるよ」
人は誰かに期待されていると思うと、つい頑張ってしまうものです。そしてその「誰か」の人数が多ければ多いほど、もっと頑張ってしまいます。この心理は心理学的に「役割期待」と呼ばれるものです。「君ならできるって、みんな思ってるよ」という言葉は、この役割期待を簡単に引き出すことができます。
例えば部下が「今回のこの仕事、うまくできる気がしません。誰か別の人に頼むか、目標を下げてくれませんか」と言ってきたとします。ここで「お前ならできるよ。俺が保証する」と言うのも結構ですが、これはあくまで自分の主観です。
役割期待を引き出すための「誰か」の数が不十分です。そこで「俺はできると思ってるし、○○社(取引先)の人たちもお前と一緒ならできそうだって言ってたぞ。やってくれないか?」と言ってみましょう。これなら役割期待を最大限引き出せるので、部下を説得することができます。
●「教えてください」
「教えてください」は目上の人に思い通りに動いてもらうための魔法の言葉です。しかし「どうやったら営業が上手くなるんですか?教えてください」といった漠然とした聞き方ではむしろ逆効果。「自分で何も考えていないやつ」と思われてしまいます。
「こんな営業戦略を考えてみたんですが、どうでしょうか?」「次回の接待のお店をここにしようと思うのですが、いかがでしょうか?」などあくまで自分の中で一度練ったうえで、そのチェックをしてもらうために「教えてください」は使うべきです。そうすれば「可愛いやつ」「自分の頭で考えられるやつ」両方の評価を受けることができるでしょう。
●「将来」
「将来」は若い世代の人に対して効果を発揮する言葉です。辛い仕事や地味な仕事にめげそうになっていたり、失敗に対する度重なる叱責に落ち込んでいる若者に対して「将来」という言葉を使うと、それまで見えていなかった希望が見えるようになり、こちらの思うように動いてもらうことができます。
例えば「今の辛い経験がお前の将来につながるんだぞ」「お前の将来のために言ってるんだよ」というように使います。人は自分に対しては過大評価をする習性があります。そのため「将来のため」などと言われると、ついつい「希望に溢れた将来」を想像し、そのために奮起できるのです。さらに今の経験がどんな将来につながるのかをイメージさせてやれば、その想像に拍車をかけることもできます。
超強力な3つの説得スタイル

●相田みつをスタイル
向谷さんは詩人・相田みつをの言葉の使い方を「言い換えという観点では実に参考になる」としています。というのも相田みつをの詩は「カエルの子はカエル」という言葉を「トマトにねぇ いくら肥料をやったってさ メロンにはならねぇんだなぁ」と言い換えてしまうのです。
確かに端的に伝えた方が時間も労力も節約できるでしょう。しかし交渉・説得の場においては、そうしたやり方ではこちらの意見を通せない場合も少なくありません。
例えば努力不足の部下に対して「しっかり時間をかけないからだ!ちゃんとやれ!」と言ったところで、「俺も俺なりに精一杯やったんだよ」と思われてしまうだけです。しかし相田みつをスタイルで「やれなかった やらなかった どっちかな」と相手にやんわりと問いかけるよう言い換えれば、本当に努力不足の部下ならドキリとするはず。ついついキツイ言葉を使ってしまう人にオススメの説得スタイルです。
●豊臣秀吉スタイル
人に頼み事をする時や指示する時などに「なんでもいいから黙ってやってくれ」と言ったり思ったりしてしまう人にオススメなのが、「大義名分」を使う豊臣秀吉スタイルです。秀吉は農民などに刀をもたせておくと一揆を起こす危険があるからと、刀狩り令を施行しました。
しかし「黙って刀を出せ」などと言えばそれこそ反乱が起きてしまいます。そこで秀吉は「大仏建立」「来世での救済」などの大義名分を掲げます。農民たちもこの大義に背くわけにはいかず、刀狩りに協力したというわけです。自分の要求を大義名分に言い換えることで、相手から「従わない」という選択肢を奪う。これが豊臣秀吉スタイルです。
●高倉健スタイル
励まし上手を目指すなら高倉健スタイルが効果を発揮します。映画『幸福の黄色いハンカチ』の撮影時のことです。まだ新人俳優だった武田鉄矢さんが山田洋次監督に徹底的にしごかれて「俺ばっかりいじめるんですよ」と愚痴をこぼした時、故高倉健さんは「伸びないやつはしごかねえよ」と励ましてくれたのだそうです。この言葉を聞いて武田さんは宿まで泣きながら帰ったのだとか。
この「伸びないやつはしごかない」という言い方のポイントは、相手が今置かれている状況を肯定することです。「しごかれているという今のお前の状況は、山田監督の期待の結果なんだよ」と言ってやることで、武田さんは自分の状況を肯定でき、また頑張ることができました。「落ち込むな」とか「元気出せ」というように相手の状況を否定するのではなく、肯定する。これが高倉健スタイルの説得です。
説得は「新しい世界」を見せる技術
ここに挙げた4つの言葉、3つの説得スタイルは全て相手に「今見ているのとは違う新しい世界」を見せるための技術です。こちらが見ているのと同じ世界を見せ、共感させれば、相手は自ずとこちらの提案や要求に応えてくれるようになります。
もちろん百発百中の精度を手に入れるには一朝一夕では無理です。しかしまずは一歩、踏み出すことが大切です。そのためにも次の説得の場面から、ここで挙げた方法をぜひ試してみましょう。きっと相手の反応がこれまでと変わるはずです。
参考文献『説得は「言い換え」が9割』
