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個人への中傷、企業の誇大商法、国家の陰謀・・・虚偽情報の「手段と目的」
「嘘が世界を半周したころ、真実はまだズボンを履こうとしている」―これは英国の宰相チャーチルが第二次世界大戦中にした発言で、嘘についての格言録として有名です。
いまは嘘情報の戦場はネット上に移り、世界規模で「フェイクニュース」が個人攻撃から国家レベルまで蔓延しています。米国の大手メディアを滅多切りにするトランプ大統領は、ひょっとすると「フェイクニュース」の使い手なのかも知れません。
センーショナルな見出しで、事実よりは読む人の感情や共感に訴えて、「いいね」や「シェア」を誘導する。問題なのは「ファクト(事実)」が置き去りにされていることです。
端的に言えば、ある意図を持った攻撃者にとって「フェイクニュース」それ自体が「手段」であり、同時に「目的」でもある。しかもネットを巧みに利用した偽情報は、あっという間に拡散しながら世論操作を仕掛ける。これこそ脅威そのものです(シンクタンク調査員)
口コミで限定的だった嘘情報はなぜ世界規模になったのか?
人間関係が希薄化する前は、嘘やデマの広がりは限定的で「口コミ」が中心でした。
〝炎上〟という言葉もありませんでした。ところがネット時代を迎え状況は一変しました。
例えば、芸能人の不倫が週刊誌の「〇〇砲」で衝撃的に暴露されると、見出しの強さもあって情報はSNSにシェアされ、しかもスキャンダラスに厚化粧してリツイートされます。
元の情報はフェイクニュースに仕立てられ、多くの人に共有されることになります。
ソーシャルメディアにUPされれば加速度的に情報は拡散・共有され、餌食にされた人の悲痛な叫びが聞こえるようです。フェイクニュースに国家機関や企業が介在すれば、宣伝工作や世論操作は規模も大きく、もっと狡猾に発信されるでしょう(メディアジャ―ナリスト)
フェイクニュースを仕掛ける攻撃者にとってソーシャルメディアが、格好な主戦場(プラットホーム)になっている現実。顔が見えない相手と気軽に繋がり、おしゃべりする日常・・・
不安や不快を煽る「フェイクニュース」の〝ひょっとしたら〟という手法

米大統領選で「ローマ法王がトランプを支持した」との偽情報はあまりにも有名ですが、
熊本地震では20歳の男性が「動物園からライオンが脱走した」といたずら気分で投稿。同時に街をさまよっているライオンの画像も添付され、被災者に追いうちをかけました。
私たちの身の回りには「ひょっとしたら」という不安に付け込んだ偽情報が一杯。
しかもフェイクニュースの攻撃者は衝撃的な見出しを仕立て、受け手が欲しい情報をもっともらしく発信して、情報の操作→誘導→拡散→共有を仕掛けるのです。
なんだか心理戦の様相を呈しています。国の機関や企業などの場合は、ネット上でフェイクニュースと見破られないために誘導したい情報・コンテンツを作るなど、大掛かりで組織的です。世論操作の他に印象操作という手法も使われます(メディアジャーナリスト)
ネット上に溢れる「フェイクニュース」の何が問題なのか

「ネットの噂が元ネタ」―最近この言葉をよく聞きます。ネット上にUPされた情報をベースに「取材をせずに記事を書く」。味付けはかっての〝イエロ―ジャーナリズム〟のDNAを引き継ぎ扇情的で興味本位そのもの。元ネタの見出しに踊らされる場合もあります。
何が正しく、何が間違っているのか。そんなことはおかまいなし。ネタが面白ければ既存のメディアや現場記者がパクることもある。なんとも由々しき事態が起こっています。
しかも自浄作用の機能が低下すれば、ネットメディアに押され気味の新聞は、信頼の低下と部数の大幅減。一方ネットはさらに機能が進化。スピードと拡散を武器にフェイクニュースが暴走を繰り返すと、世論形成や意思決定が損なわれることに(シンクタンク調査員)
「事実は二の次」という事態にどう立ち向かえば良いのでしょうか。フェイクニュースの問題点は社会の「分断」と「混乱」が加速する、と指摘するIT専門記者もいるほどです。
増殖する「フェイクニュース」にどう向き合うか!

FacebookのザッカーバーグCEOはフィルタリング仕組みを改良。閲覧画面に表示されるニュースの量を2割減にして、信頼に足る情報を優先的に流し、Googleも疑わしいサイトを検索結果から排除するなど、困難な戦いを強いられています(メディアジャーナリスト)
それでも扇情主義、偏向、誤報が溢れている、とザッカーバーグ氏は嘆いています。
例えば、最初に嘘情報に接するネットユーザーが「おかしい!」と見分ける対処法は・・・
・重要なニュースは一つの記事だけでなく、他の主要なサイトも報じているか
・記事に筆者名が記載してあるか、掲載時期はどうか
・ニュースの情報源が明記してあるか、データーの出典や根拠はどうか
・画像は加工や修正を施されていないか、どこかで見た写真の引用ではないか
・記事に現場の雰囲気や記者の息づかい、リアリティが感じられるか
シンクタンク調査員は上記をチェックするだけで、偽情報かどうか判別できると指摘。
これらはフェイクニュースの見分け方、事実がどうかを判断する〝裏取り〟と言えます。
偽情報と対峙し見破るための「裏取り」というメディアの生命線
「甘いささやき」「極端な誇張」「偽りの証言」・・・これは人事案件に関する対面取材で、ネタ元の巧みな話術で受けた感想。熱弁に前傾姿勢になりながらも「?」を付け、何人かの記者に動員を掛けて「点」から「面」の裏取りを行い、結果ガセネタだった(社会部記者)
もし「裏取り」を怠っていれば、嘘の証言でガセネタが紙面を飾ったことでしょう。
それどころか新聞社の信用を損ない、部数や広告出稿も打撃を受けることになります。
■「裏取り」→マスコミで、取材の内容が正しいと判断できる証拠を集めること
報道できる内容かどうか裏付けを取ること(デジタル大辞泉・小学館)
いかにファクトを確認することが大事か。あのNHKもファクトチェックのチームを立ち上げています。情報が錯綜するネット時代は、従来の「裏取り」では不十分かも知れません。
ちなみにキャリアサプリの責任編集者は情報の「裏取り」をどうしているのでしょうか?
なるべく一次情報にあたるように意識していますが一次情報に自分で当たれないものは、各ジャンルの信頼できる専門家を見つけています。話題になっている記事にどんな反応を示しているか確認する方法が、一番間違いがないかなと思っています。Twitterで専門家のリストを作り、ウォッチするようにしています(キャリアサプリ編集責任者)
何が事実なのか、嘘なのか?チェックが機能しないと仕掛け人の思うつぼ
やっかいなのは情報提供者と日常的に交流もあり、それなりに社会的地位がある人の場合。
そんな人がまさかガセネタを・・と第一報だけで記事にすると痛い目に遭ってしまいます。
前出の社会部記者は、「何が正しい情報なのか」「何が嘘なのか」―エビデンス(証拠)の収集や検証は当然、「センセーショナルなニュースほど、疑ってかかるべき」と警告しています。
ネットの進歩で嘘情報も実に巧妙。ネットサ―フィンを繰り返し、刺激的な情報を下敷きにしている紙媒体の記者もいるでしょう。ネットの噂が元ネタという図式です。メディアの発信ツールが変化しても、裏取りが基本動作には変わりありません(シンクタンク調査員)
メディアに係わる人達は、それぞれの立ち位置で、裏取り・検証の重要性を訴えています。
誰でも偽情報を操れる「フェイクニュース」との戦いはエンドレス!
誰でも情報を発信・共有・シェアできるソーシャルメディアが舞台のフェイクニュース。
瞬時に何万回、何十万回と〝炎上〟しながら蔓延する拡散力に脅威を感じてしまいます。
当初は「フェイクニュース」を見破る〝裏取り〟を軸に取材を進めました。
ところが偽情報は個人の人権侵害から、災害や民族紛争、情報機関から国家間の陰謀まで、ワールドワイドに拡散中で、まるで高度に訓練された作戦のよう・・驚愕しました。
もちろん対抗手段としてFacebookなどはファクトチェック機能を実装し、怪しい情報はシェアしないとのユーザーの声も聞きました。「見分け方」などの本も出ています。
最近はネットに存在する危険から守るために、「ネット・リテラシー」の必要性やフェイクニュースのスピードに対して、出来事の検証や解説を主体に「スローニュース」も提唱されています。裏取りが軸ですが、それでも現実には追い付かない(メディアジャーナリスト)
気が付けば自分自身が「フェイクニュース」の被害者であり、加害者でもある現実。
情報の闇や仕掛けに対抗するには〝裏取り〟の有効な手法を構築するしかないのかも・・
