デキるヤツは酒の飲み方もうまい
「飲みニケーション」が死語になりつつある今、仕事の出来不出来に酒の飲み方は関係ないと思っている人もいるかもしれません。しかしリーガロイヤルホテルオペレーション統括部料飲部次長であり、自身もマスターバーテンダーを務める古澤孝之さんは「それは違う」と断言します。
企業の重役や国賓を含む延べ80万人以上のお客を接客してきた古澤さんにしてみれば、デキる人には「法則」があるのだそうです。ここではその「出世酒の法則」をまとめた著書『カウンターの中から見えた「出世酒の法則」』を参考に、出世するお酒の飲み方を提案します。
なぜ「酒」で出世できるのか?
なぜお酒の飲み方で出世の有無が決まるのでしょうか。それは一流のお酒の席には「入念な準備」や「行き届いた心配り」、そして「相手本位」があるからです。
ネットだけで下見・予約した店に実際に行ってみると、お客にまともに挨拶もできないような接客をしてきたり、トイレが汚かったりと散々な経験をした人は少なくないはず。もちろんそうしたお店にも非はありますが、そのお店を選んだ人にも責任はあります。
もしこれがプレゼンの場面なら、資料の部数を間違えたり、出席者の飲み物を用意できていなかったりするのと同じです。ところで、グラスの中にクリオネのようなモヤモヤしたものが浮かんでいるのを見たことがあるでしょうか。これは完全にその店がビールサーバーの清掃をサボっている証です。
万が一接待中にそのことに気づいたら、店員さんにさりげなく伝えて交換してもらいましょう。そうした細かい点に配慮できる人を、きっと接待相手は信用してくれるはずです。
また、相手の好みや今飲みたいものを聞いたり、あるいは飲みの席での会話を盛り上げるための質問をするなど、「聞く姿勢」も出世酒の法則の1つ。「自分のおすすめ」を押し付けたり、自分が話したい商談の続きをすぐに始めるのは、二流・三流の飲み方なのです。
出世したければ「ダイキリ」を飲め

Handsome bartender serving cocktail to beautiful woman in a classy bar
古澤さんが「出世酒」の代表格としてあげるのが「ダイキリ」です。ダイキリとはラムとレモンジュース(あるいはライムジュース)と砂糖の3種類でつくられる、すっきりとしたカクテル。カクテルの中でも3本の指に入るほど人気なので、飲んだことがある人も多いかもしれません。
しかしこのカクテルはバーテンにとって自分の実力が最もわかりやすく出るものなのだとか。古澤さんはこのカクテルを後輩たちの成長のバロメータとして作らせることもあると言います。なぜかというとこのカクテルの味を決めるのが「酸みと甘みの絶妙なバランス」だからです。コンマ1mlの分量の違いで大きく味が変わるので、美味しく作るためには非常に繊細な技術が要求されます。そして古澤さんいわくこの繊細なバランス感覚が、出世するビジネスマンの資質と共通しているのです。
対してダイキリと同じくらいファンの多い「マティーニ」は人それぞれの好みが多様なカクテルの1つですが、これを好む人は「自分流の飲み方」にこだわりを持っている人が多いのだとか。もちろんそれもお酒の飲み方の1つですが、「相手本位」が重要となる出世酒の法則にはそぐわないカクテルなのです。
お店を味方につける3つのポイント

バーに行けばバーテン、小料理屋なら女将や主人など、お店の人を味方につけるのも「出世酒」の法則の1つです。味方が多ければ多いほど、より効果的に接待をすることができるからです。お店の人を味方につけるために知っておきたいポイントは次の3つ。
1.お店の人には「丁寧な挨拶」。
2.出されたお酒は一滴残らず飲む。
3.時には「○○さんに任すよ」と接待のコーディネートを頼む。
丁寧な挨拶とは来店時の「こんばんは」だけではありません。注文する時に「すいませーん!」「おにいさーん!」と大きな声で呼ぶのではなく、「お願いします」と丁寧に呼ぶ。従業員が接客をしてくれたら、その都度「ありがとうございます」などと声をかける。そうした相手を尊重する姿勢がお店を味方にしていきます。
注文したお酒を残さないのも、お店側への思いやりです。自分が誰かに飲み物や料理を作って、残されたらどう思うでしょうか?不信感とは言わないまでも、相手との信頼関係が強まることはないはずです。きっちり最後の一滴まで飲んで、「おいしかったです」と挨拶する。その積み重ねが信頼関係になっていきます。
そしてある程度信頼関係ができてくれば、接待の場をお店側に任せるのもより強い味方にするためのポイントです。その接待が上手くいく回数が増えるほど、両者の信頼関係はより強くなっていきます。
「使えるお店」を見極める3つのポイント

古澤さんに言わせれば、接待に使えるレベルのお店かどうかは文字どおり見ればわかります。見るべきポイントは次の3つです。
1.トイレ
2.グラス
3.来店時の「いらっしゃいませ」
トイレ掃除は人が嫌がる仕事です。トイレの清掃が行き届いていて臭いなどもしないということは、嫌がる仕事を丁寧にする従業員がいるということ。いくら立派なインテリアで飾っていても、掃除が行き届いていなければその他のサービスにもほころびがある可能性が高くなります。
グラスについては冒頭でも触れたように、生ビールのグラスの中にクリオネのようなものが浮かんでいればサーバーの掃除をサボっている証拠。逆に飲むためにグラスを傾けた回数だけ、ビールの泡がリングになっている場合(「エンジェルリング(天使の輪)」と呼ばれます)、それはグラスの手入れが完璧な証拠です。
意外に見落としやすいのが3つ目のポイントです。お店に入った途端「何名様ですか?禁煙・喫煙どちらになさいますか?」などとマニュアルを必死に暗唱してくるお店は、お客本位の接客ができないお店だと古澤さんは言います。料理やお酒はもちろんですが、本当に接客に使えるお店かどうかはこの3つのポイントで見極めましょう。
たかが酒、されど酒
お酒は「たかが嗜好品」です。しかし嗜好品だからこそ、お酒の席でのやりとりは相手の信頼関係に直結します。たかがお酒、されどお酒。「飲みニケーションなんて死語だ」と思っている人も、「お酒の席はどうにも苦手」と感じている人も、今一度お酒との関係を見直してみてはいかがでしょうか。
参考文献『カウンターの中から見えた「出世酒」の法則』
