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言葉でちゃんと伝えられてますか?
「あいつは俺の言うことを全く理解してない!」「どうしてわかってくれないんだ!」自分が考えていることや感じていることを、言葉にして誰かに伝えてはいるものの、それがきちんと伝わらずにもどかしい思いをしている人は多いのではないでしょうか。
そんな時私たちはついつい「あいつが悪い」などと他人のせいにしがちですが、残念ながらそんなことをしても伝えたいことはいつまでも伝わらないままです。
ここではそんな状況から脱却するために、国内外30以上の賞を受ける、電通のトップコピーライター・梅田悟司さんの著書『「言葉にできる」は武器になる』を参考として、想いをきちんと言葉にするための思考法を提案します。
言葉にできないのは「考えていない」から
梅田さんは著書の表紙に「『言葉にできない』ことは、『考えていない』のと同じである」と書きました。本来何かを伝えようとして言葉を使う以上、そこには意見や気持ちなどの「伝えたいこと」がなくてはいけません。「そんなこと、わかりきっている」と思うかもしれませんが、実はこの伝えたいことを突き詰めて考えられていない人が、世の中の大半を占めるのです。
相手に批判や指摘をされて、咄嗟に口をついて出た言葉はもちろん、伝えたいことがあったはずなのに一度話し始めるとうまく伝えられないという場合も、結局はきちんと伝えたいことについて考えていないからです。
ではどうすれば伝えたいことについて考えられるようになるのでしょうか。梅田さんは誰かに向かって使う「外に向かう言葉」の前に、無意識のうちに頭の中で自分が発している「内なる言葉」に意識を傾けるべきだ、と言います。
美味しいものを食べた時に頭の中で響く「これ美味しい!」や、感動的な映画を観た時に頭の中で考える「素晴らしい映画だった」も、すべて内なる言葉です。
この内なる言葉を意識的に捕まえられるようになると、それを丁寧に育てられるようになり、重みと深みのある外に向かう言葉を使えるようにもなるのです。
以下ではこの捕まえた内なる言葉を、3つのステップで育てる方法を解説します。この3つのステップは梅田さんが「思考サイクル」と呼ぶもので、これを繰り返しているだけで、内なる言葉の語彙力がどんどん増え、伝えたいことを考えられるようになっていきます。
ステップ0:考えたいことを決める

梅田さんの思考サイクルの解説に入る前に、まず「考えたいこと」を決めておきましょう。お題は何でも構いません。
・人生において、大事なことは何か?
・本当にやりたいことは何か?
・10年後、どんな生活をしていたいか?
・今の会社でどんなポジションを築きたいか?
・どんな人と結婚したいか?
・来週末はどんな時間を過ごしたいか? など
ここでお題を決めておけば、これ以降の内容がより具体的に理解できるはずです。それでは思考サイクルのステップ1から解説していきましょう。
ステップ1:アウトプットする
最初にすることは頭の中でごちゃごちゃになっている内なる言葉を、目に見えるように紙に書き出すことです。この時に用意するのはたくさんのA4サイズの一枚紙と、太めのマジックペン。この場合の紙は綴じられたノートではいけません。その理由は次の3つです。
1.バラバラの紙を机の上に一度に広げることで、自分の内なる言葉を俯瞰できるから。(この作業はステップ2以降で必須となる)
2.ノートの罫線は、余計なことを考えずに思いついた言葉を書き出すのにに邪魔になるから。
3.A4用紙なら大きな文字で書くことができるから。(文字の大きさは自信の大きさ)
2つの道具を用意したら、設定したお題に沿って思いついた言葉をとにかく書き出していきましょう。途中で「こんなのでいいのかな?」と思ってもまずは書き出します。ここではまず内なる言葉を書き出す習慣を身につけることが第一です。
ステップ2:拡散させる
ステップ1のアウトプットされた内なる言葉は、まだ自分の中で突発的に生じたものにすぎません。ステップ2ではこれを拡散させ、言葉を完成へと導いていきます。
A.内なる言葉を深める・進める・戻す
まずは3つの問い、「なぜ?」「それで?」「本当に?」で内なる言葉を深めたり、進めたり、戻したりしてみます。「なぜ?」と問うと内なる言葉を掘り下げ、より抽象度の高い、本質的な問題について思考を深められます。
例えば「人生において、大事なことは何か?」というお題に対してステップ1で「結婚」という言葉が出てきたとしましょう。これに「なぜ?」と問いかけて出てくる答えには「誰かと一緒に幸せを共有したい」「辛い時も誰かとなら乗り越えられる」などが考えられます。
「結婚して、それで?」と問われれば「子供が欲しい」とか「いい親になりたい」といった、思考を前進させるような答えが出てくるでしょう。「本当に結婚が大事なの?」と問われれば「結婚にこだわらなくても、大切な人がいれば良い」という、思考を一歩前に戻して冷静に見直すような答えが出てくるかもしれません。この3つの問いを使えば、1つの内なる言葉をより多くの内なる言葉に拡散できるのです。
B.内なる言葉を分類する
次に行うのはAで増加させた内なる言葉をグルーピングする作業です。この時のポイントは横軸に「内なる言葉の方向性」(「過去・現在・未来」や「やりたいこと・やるべきこと」など)をとり、縦軸に「内なる言葉の深さ」をとって整理していきます。内なる言葉の量が多い場合は、はじめに大きくニュアンスで分けて、そのあと軸に沿って分類していきます。
C.内なる言葉を「完成」に近づける
ここまですると、自分のお題に対する内なる言葉=思考にどんなヌケやモレがあるかが見えてくるはずです。例えば恋愛についてのお題を考えていて、書き出された内なる言葉が「自分がどうしたいか」ばかりであれば、「相手に対して何ができるか」という部分を改めて考えることもできます。客観的に自分の思考を見つめ直し、その盲点を埋めていく。この作業により、内なる言葉を一度「完成」に近づけてしまいましょう。
ステップ3:化学反応を起こす
ステップ3では「完成」に近づけた内なる言葉に、3つのステップで化学反応を引き起こし、より洗練させていきます。
ア.内なる言葉を寝かせる
ステップ2までをきっちりこなしたら目安として2〜3日程度、内なる言葉を寝かせます。一度寝かせたら再びステップ2のCをやってみましょう。すると作業に没頭していた時には見えなかったヌケ・モレに気づくことができたり、思わぬ着想を得ることができます。
イ.内なる言葉の真逆を考える
次に行うのは「自分の常識の範囲外」「今の自分では考えが及ばないこと」に内なる言葉を進める作業です。そのためにはここまでの内なる言葉の真逆を考える必要があります。
「できる/できない」「やりたい/やりたくない」「自分/相手/第三者」など様々な視点から内なる言葉を反転させてみましょう。するとどんどん内なる言葉の語彙力は増えていき、外に向かう言葉の重みや深みにつながっていきます。
ウ.内なる言葉を違う人の視点から考える
最後のステップは具体的な人物を思い浮かべて「あの人だったらどう考えるだろうか?」と複眼的に考える作業です。これは自分の中の先入観や常識を突き崩す効果があるとともに、他者への想像力を養うトレーニングにもなります。
言葉の重み・深みは考えた時間だけ増していく
ステップ1からステップ3を繰り返すことで、内なる言葉の語彙力はどんどん重みと深みを増していきます。確かに時間のかかる作業ですが、かけた時間の分だけ「外に向かう言葉」も洗練されていき、自分の切実な想いが伝わる言葉を扱えるようになっていくはずです。
言葉の力は筋トレと同じ。「思考サイクル」トレーニングをコツコツ繰り返すことで、言葉の力は強くなっていきます。「伝えられない」「わかってもらない」という人は、まず内なる言葉をアウトプッとするところから始めてみましょう。
<参考文献>『「言葉にできる」は武器になる』
