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ビジネスパーソンにとって重要なスキル
ニコニコ動画の川上量生氏、テスラモーターズのイーロンマスク氏、Amazonのジェフベゾス氏、国籍、企業規模、業界は違えども彼ら優秀な経営者に共通している特徴が1つあります。それは抽象化能力の高さです。
この抽象化能力は経営者ではなくともすぐに商品・サービスがコモディティ化する時代のビジネスパーソンにとって重要なスキルとなるでしょう。
そもそも抽象化能力はなぜ必要?

一橋大学大学院の経営学者楠木健氏は優れた経営者はこの抽象化能力が高いと指摘します。
「優れた経営者は問題に直面したとき、「横の具体に飛ぶ」のではなく「具体を抽象化する」ことで、自分の原理原則を磨き上げ、そこで培った原理原則を別の具体に適応していくのです。」引用:何を聞いても柳井正の答えがブレない理由
楠木氏は名著である著書「ストーリーとしての競争戦略 第7章」においても抽象化の意義について説いています。その中でもセブンイレブンとZARAのビジネスを抽象化している事例がわかりやすいです。この2社は異業種ですが、抽象化することで共通した原理が浮かび上がります。
セブンイレブンの場合は各店舗ごとに日々の顧客のニーズを探り商品を発注する裁量が与えられています。ZARAの場合は小ロットで様々な商品を作り、売れる商品だけ残していき、さらに顧客の反応をもとに色やデザインも変えていきます。
この2社は何か似ていませんか?2社とも先に売れ筋商品を決めて売るビジネスではありません。
日々の業務で顧客から得たフィードバックをもとに後追いで確実に売れる商品を売っていく「目標追尾型ミサイル」という原理が存在するのです。
この「目標追尾型ミサイル」という原理はコンビニのセブンイレブンとファッション小売のZARAという異業種でも通用するものです。
そうなると、他業種に応用可能な原理であると言えるでしょう。具体例を抽象化して原理に昇華させることで別の場面でも使える汎用性ある知識を獲得できるのです。
次に優秀な経営者たちの抽象化の思考回路を覗いてみましょう。
川上氏の抽象化事例

川上氏の著書「コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと」では、ジブリ関係者と共に働きながら「コンテンツとは一体何なのか」コンテンツの本質を追求していく川上氏の抽象化思考を垣間見ることができます。
彼はコンテンツを様々な角度から分析しました。まずアリストレスの著書「詩学」を参考に、人間はコンテンツを楽しみながら現実世界を学習することで生存を有利にしてきたのではと推測します。
そうなると、コンテンツとは現実の模倣であり、シミュレーションであると定義づけました。さらに、コンテンツには遊びの要素があり、遊びこそがコンテンツの原型であると考えます。
そして、最終的には「コンテンツとは”遊び”をメディアに焼き付けたものである」と定義づけました。
川上氏は具体を抽象化することに長けていることは明らかです。ジブリで観察したことを断片的に記憶するのではなく抽象化することでコンテンツの原理を発見。自分の知見にまで昇華させているのです。
イーロンマスク氏の抽象化事例

みなさんご存知の稀代の起業家マスク氏。人間を火星に送り込む計画もあるという宇宙事業開発SpaceXでマスク氏が最初にぶち当たった壁は輸送手段となるロケット代でした。
通常のビジネスパーソンなら安いロケットはないか探し回ることでしょうう。しかし、マスク氏は違いました。
「そもそも、なぜロケットは宇宙に行けるのか、どのような法則で動いているのか、そしてロケットはどのような物質で構成されているのか」そこから考えました。
このように科学的な真理から事象を捉える考え方を「第一原理思考」と言います。この「第一原理思考」は本質を抉り出す抽象化思考と言えるでしょう。
第一原理思考で考えると既存のロケットで宇宙に行く道理はないのです。ロケットを構成しているアルミ合金、チタン、銅、炭素繊維等の材料費の原価はいくらなのか調査。
すると、材料費自体は従来のロケットの市場価格の2%ほどだと判明。さらにロケットを自社で製造することで製造工程の合理化を進めロケット1台の打ち上げ費用を10分の1近くまで削減したのです。
ジェフベゾス氏の抽象化事例

the original napkin sketch by Jeff Bezos on the ingenious #businessmodel of #Amazon pic.twitter.com/6COdFjn86v
— Tony Pietrocola (@tpietrocola) 2016年4月17日
ベゾス氏はAmazonのビジネスモデルを思いついた瞬間に紙ナプキンの裏に図をメモした逸話が有名です。このような図解そのものが抽象化となっています。このシンプルな図にベゾス氏の抽象化能力の高さが伺い知れます。
Amazonは20年以上前の他EC企業が在庫を持たないことが常識とされていた時に物流センターを持ち在庫を持つことに踏み切っています。
その行動をとった根底にはこの図にあるような「顧客体験を向上させること」を軸としたプラットフォーム戦略の存在があります。
現在、Amazonはドローン配達や留守宅の中まで荷物を届けるなど様々な施策に取り組んでいます。一見、常識から外れているように思われる施策もすべてこの抽象化した図のビジネスモデルに立脚しています。
抽象化能力を鍛える
1.図解する
前述のジェフベゾス氏は紙ナプキンにビジネスモデルの例を思い返してください。非常にシンプルながらもAmazonのビジネスモデルの核となる部分が抽出されています。
そもそも図とは複雑な事象を抽象化したものです。常に図解して考える癖を持つことで抽象化能力を鍛えることができます。
2.問いを立てる
セブンイレブンは各々の店舗が日々の顧客の嗜好を捉えて商品を発注する裁量が与えられ、ZARAは小ロットで様々な商品を作り、売れる商品だけ残していき、顧客の反応をもとに色やデザインを変えていく。
これだけだと各々のビジネスを知るだけで終わってしまいます。なぜそのような形態を取っているのか問いを立てることが重要です。
3.読書する
上記の経営者をはじめ名だたる経営者は皆大変な読書家です。上記1.2のトレーニングにプラスして読書は抽象化能力を身に着けるために有効な手段です。
大量に広範なジャンルの読書をすることにより大量の具体的事象に触れ、そこから原理を抽出する抽象化のトレーニングが可能です。
イーロンマスク氏は学生時代には毎日10時間本を読んでいたと言われます。また起業家になってからも、それぞれのジャンルの専門書を徹底的に読みこむことで専門家レベルの知識を有していると言われています。もちろん、私たちはそこまでしなくてもよいかもしれません(笑)
しかし、まずは自分が興味のあるテーマの本を手に取ってみましょう。読み進めながら頭の中で本の内容を図解してみたり、問いを立てながら読書を始めると良いでしょう。抽象化能力が次第についていき、きっと今までとは世の中を見る視点が異なってくるでしょう。
