2015年4月16日にパレスホテル東京で「すごい会議」が一般社団法人として設立された記念イベント「すごい会議フォーラム」が開催されました。
「一般社団法人 すごい会議」とは企業の会議レベルを高めるために活動している団体です。この記事では一橋大学国際企業戦略科教授、楠木建さんの講演、「働きがいと競争戦略」についての要約をご紹介します。

画像出典:すごい会議フォーラム
これこそ至上の経営方針

「儲ける」、このシンプルな3文字の言葉は、パナソニックの創業者である松下幸之助社長、そして、ユニクロで有名なファーストリテイリングの柳井社長の経営方針です。
とても単純ですが商売をするのに、これ以上の方針はありえないと楠木さんは語ります。納税や従業員、顧客、株主の幸せなどは、すべてこの「儲ける」という行為の上に成立することだからです。
しかし儲けるといっても様々な儲け方があります。どのような儲け方が一番良いのでしょうか?楠木さんは、この問いに対して長いこと儲かるように商売するのが一番よいのではないかといいます。
それは長期利益というのがもっとも正直な顧客満足度であると考えられるからです。全然儲かっていない会社にお客様が満足している、という状況は嘘や無理のある不健康な状況ということ。顧客満足がそのまま企業の長期利益に繋がるのです。
楠木さんの仕事であり、この講演のタイトルにもある「競争の戦略」という分野は長期利益をゴールとして、そのための手段を考える仕事だといいます。
稼ぐ力の源泉

よく話題になる、大企業のV字回復のニュース。確かにマイナスからゼロに戻ることは素晴らしいが、この場合のV字回復とは、必ずしも新しく稼ぐ事業を作ったわけではありません。メディアは分かりやすいので本社の数字を見てニュースにしますが、当たり前の話で、稼ぐ力とは個々の事業から生まれます。
そういった事業ベースでの稼ぐ力に焦点をあてて「オポチュニティ企業」と「クオリティ企業」の2つに大別するといろんなことが見えてきます。
商売というのは、競争環境、経営環境、事業環境の中で様々なオポチュニティ(機会)が生まれては消えている。商売は無数のオポチュニティに囲まれています。
その中で、自社の周りのオポチュニティをいかに早く掴まえて、利益に転化するかという考えで経営している企業が「オポチュニティ企業」。
一方、環境面は様々だが、腰を据えて会社の中で、独自の価値を創ることに取り組んでいくのが「クオリティ企業」と定義します。
経済成長下では、勢いにあわせてオポチュニティ企業が全面に出てきます。日本もそういう時代があったし、これまでの中国や、これからのミャンマーはそうでしょう。
そして、成熟した市場では、もうオポチュニティはそんなに期待できないので、明確な立ち位置を持って独自の戦略ストーリーで勝負するクオリティ企業が多くなってくる。これはいい悪いではなく、儲ける軸足が違うという話であるといいます。
クオリティ企業の原動力は
ではクオリティ企業が、独自の価値を作る原動力は何か。これはもちろん人間の要素が一番大きいです。そのため、働きがいのある会社になる必要があります。
働きがいのある会社をつくれれば、そこで働く社員が力を発揮して、そこから独自の立場が生まれます。独自の立場が生まれると、それがますます人々のやる気に火をつけてという好循環になります。
働きがいがあり、労働市場で評価されて、競争市場で稼ぐ力を増していく。この3つを循環させていくのがいい企業なのですが、この3つをつなぐには「すぐれた戦略のストーリー」が必要であるといいます。
そして、この「すぐれた戦略のストーリー」を創るのは経営者の仕事なのですが、なんとこの力はセンスとしかいいようがないと楠さんは断言します。
センスが良い人とは

「センス」が良い人というのはどういう人なのでしょうか?一般的には、直感で良い選択ができる人や経験があまりなくても、物事をうまく実行できる人のことを「センスが良い」ということがありますね。
楠木さんの言うセンスが良い人とは、「具体と抽象の往復」ができる人だそうです。
何か具体的な出来事に直面した際「要するにこういうことだよな」といったん抽象化をし、その人の中で論理を見つけてそれを頭の引き出しにしまっておく。この引き出しの中身が充実しているのが「センスが良い」ということです。
そういう人は問題を解決する時にも自分の論理を引き出して、「問題の要素はこれ、だとすればこうやったら解決する」と具体的なアクションを出すことができます。
楠木さんはこの「具体と抽象の往復運動」こそが戦略ストーリーを構想する核になるといいます。具体と抽象の振れ幅を大きく持ち、頻繁に往復することが「センスが良い」の秘訣なのです。
このようなセンスの良い人は何を見ても既視感を持つといいます。どんな事象も抽象化して自分の持っている論理のどれかを当てはめることができるからでしょう。
育てられない、でも「育つ」

「センスが良い人」は育てることができないと楠さんはいいます。ただし自分で育つことはあるそうです。
現場のイチ担当として仕事をするのではなく「自分が商売をする」という意識で集中することのできる環境はセンスが育つのに適した環境だそうです。
外からの働きかけでセンスを育てることはできなくても、ひとりひとりが働きがいを感じながら能動的に商売をしていけば素養のある人のセンスは育つのです。
楠木さんいわく、センスがあるのは100人の中に2〜3人いれば十分で、大切なのはそれが誰なのかをしっかりと見極めること。
この見極めが出来ている企業と出来ていない企業の差は大きいのです。育たない人は、どう頑張っても育つものではないので諦めること、もとい見極める事が重要です。
センスが育つ土壌はありますか?
あなたの勤めている企業、もしくはこれから転職しようと考えている企業には楠木さんのいうような「環境」がありますか?
あなた次第で、あなたの中のセンスが育つ可能性があるのです。よい環境を選んでください。
[文・編集] サムライト編集部