Contents
東京じゃなくても「起業」はできる。
「起業」や「転職」を考える人にとって、「場所」はとても大事です。ノマドワーカーなどのように「場所にとらわれない働き方」が浸透しつつあっても、やはり「どこで働くか」はビジネスの成功に大きく関わってきます。でも今やその答えが「東京」だけではなくなっているのをご存知でしょうか。
ここでは「ローカルベンチャー」をキーワードに、これからの「起業」と「地方」の関係について考えます。
地域への想いがビジネスを切り拓く−大崎下島
広島県呉市、大崎下島。古来海上交通の要衝として利用され、1994年には重要伝統的建造物群保存地区に登録されるほど歴史的な町並みを今に残す瀬戸内の島です。ここで名物・鍋焼きうどんの「尾収屋」、地元工芸品や土産品を販売する「薩摩藩船宿跡脇屋」、地元素材を活かしたメニュー構成が魅力の「船宿cafe若長」の3店舗を経営するのが井上明さん(36)。
奥さんの実家である呉にIターンした際に、観光ボランティアに参加し、現在の本拠地となる御手洗地区を初めて訪れます。ゴミ一つ無い町並みや伝統的な暮らしやモノへの接し方に感動した井上さん。手探りではあるものの、お店の運営を軌道に乗せ、将来的にはゲストハウスの経営も視野に入れているそうです。
はじめに「船宿cafe若長」をオープンさせた時、井上さんはこんな確信を持っていたのだそうです。「ほんの少しのアレンジでいい。元がおいしいのだから大丈夫」。また「小さくてもできることから初めて、気づいたところをどんどん変えていけばいい」とも言います。
地域の良さを信じ、小さなところからコツコツと積み上げていく。ミカンの段々畑や害獣・イノシシの商品化、御手洗地区の空き家の活用など島中の「ビジネスのタネ」を探し続ける井上さんだからこそ、「何も無いように見える」大崎下島にビジネスのチャンスを見つけられたのかもしれません。
地域の力を集約化する−鯖江

福井県鯖江市は日本製のメガネの95%を生産するメガネのメッカ。近年では少しずつ注目を集め、セレクトショップでの扱いや雑誌でも取り上げられるようになりました。しかし海外製のメガネにシェアを奪われて、同地の工場の経営は日増しに苦しくなっています。
その状況を打破しようと立ち上がったローカルベンチャーが「オーマイグラス」です。インターネット販売での無料試着を実現しただけでなく、全国1000店舗の町のメガネ店と提携することでレンスの処方や度数の確認ができるサービスを展開し、少しずつ存在感を増しています。
同社が提携する鯖江の工場のほとんどは2〜3人程度の家族経営。かつては分業化・細分化したメガネの工程を、各工場が別々に処理している状況でした。オーマイグラスはインターネットでの販売力を利用して各工場を集約化し、鯖江全体を盛り上げることに成功しています。バラバラになってしまった「地域の力」をもう一度つなぎ合わせて新たな価値を生む。ローカルベンチャーにはそんな力もあります。
ローカルベンチャーの発祥地−西粟倉村

画像出典:Wikipedia
2004年の平成の大合併の際、合併を拒み、一つの村として自立する道を選んだのが岡山県・西粟倉村(にしあわくらそん)です。同村はローカルベンチャーの発祥地とも呼ばれ、ベンチャー支援の中心となっている「株式会社 西粟倉・森の学校」の代表取締役・牧大介さんは東京などでローカルベンチャーについての講演も開いています。
大阪の製薬会社で2年間勤め、生まれた場所である西粟倉に戻った國里哲也さんは、故郷の森を手入れした際に出る間伐材を、保育遊具や保育家具に作り変えて収益化する「木の里工房 木薫」を経営。彼をパイオニアとして「酒うらら」「じゅ〜く」「木工房ようび」など数多くのローカルベンチャーが立ち上げられています。
牧大介さんは西粟倉村でこれだけローカルベンチャーが育つ理由に、村の移住者への柔軟な受け入れ体制を挙げています。村外の若者が村に見出す「ビジネスのタネ」は、村で暮らしてきた年配の人たちには理解が難しい場合もあります。
しかし西粟倉村の人々は「わけわからんけど、まあいいか」とチャンスを与えてきたのだそう。この大らかさが同村を「ローカルベンチャーの発祥地」たらしめたと言うわけです。
西粟倉村では今も起業型地域おこし協力隊を募集したり、「ローカルベンチャースクール」を開催するなどして「挑戦者」を求めています。興味がある人はぜひホームページを覗いてみてはいかがでしょうか。
土着のベンチャーを加速させろ−秋田
東京と秋田に本拠地を置く教育ベンチャー「ハバタク株式会社」の共同代表・丑田俊輔さんが仕掛ける田舎発・事業創出プログラム「ドチャベン・アクセラレーター」という動きがあります(ドチャベン=土着ベンチャー)。世界トップクラスのスピードで人口減少が進む秋田ですが、同時に学力・重要無形民俗文化財数で日本一、食料自給率で第2位を誇るヒトもモノも充実している土地でもあるのです。
「ドチャベン・アクセラレーター」はこの秋田で起業する人の支援を行うプログラム。残念ながら2015年の「ビジネスプランコンテスト」は10月31日が締め切りですが、こうした動きは全国でも広まりつつあります。
「2020年までに100名のチャレンジャーを輩出」すると宣言しているのは宮崎スタートアップバレー。地域クラウドファンディングの「FAAVO」事業責任者である斎藤隆太さんなどが中心になって「宮崎にチャレンジしやすい文化を創る」ために立ち上げられた有志団体です。
プレゼンテーション大会や、スタートアップ企業などとの共催イベントを3ヶ月に1度の頻度で開いたり、クラウドファンディングの支援をしたり、場合によっては資金提供もしてくれます。ローカルベンチャーへの入り口は、すでにあちこちに開かれているのです。
未来を掴むローカルベンチャーとは?
移住定住促進メディア「MACHI LOG」の主宰者であり、NPO法人まちづくりGIFT代表理事を務める岡田拓也さんはこう言います。現在決定されている地方創生のための補助金制度は、「地方版総合戦略」によれば2019年度で打ち切られる可能性が高いからです。行政が主導していたり、行政の補助金に依存しているローカルベンチャーでは、未来を掴み取ることはできないというわけ。
では具体的にはどうすればいいのでしょうか。岡田さん曰く「お金を稼ぐことにフォーカスすることと、それを地域資源(人・モノ)を生かして取り組んでいくこと」。挑戦するだけでなく、きちんと収益化できるシステムを作り上げなくてはなりません。さらにそれが「地域の良さ」「地域の力」と紐づけられている必要もあります。
これらに着目して地域の競争力を鍛え上げておけば、補助金が切れたとしても生き残っていける、というわけです。
地方はもっと面白くなる!
岡田さんは「3年以内に、生き残る地域と、衰退する地域にはっきり分かれる」と断言します。これは「ローカルジャーナリスト」として地方創生の最前線にいるからこそ、肌身に感じる現実でしょう。
しかしだからこそ、自分の愛する地域を「生き残る地域」にするために、みんなが本気で知恵を絞る時期が今です。人材や資源が投入されて、地方はこれから急速に面白くなります。もし「起業」や「地方」について考えているなら、一歩踏み出すのは今をおいて他にありません。
参考書籍『ソトコト』No.193
