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使い方によって時間は平等ではなくなる
時間は誰にでも平等にあります。しかし同じ時間を与えられていても、それを楽しむのか、苦しむのかは人によって違います。楽しい時間は短く感じ、苦しい時間は長く感じた経験は誰にでもあるはずですが、これは感じ方によっては同じだけ与えられた時間の長さにも違いがあるということです。
ここでは「時間学」を展開する知覚心理学者・一川誠教授の著書『「時間の使い方」を科学する』を参考に、限られた時間を最大限に活用する時間の使い方について解説します。
時間が平等でなくなるとき

時計が示す正確な時間に対して、私たちが体感する時間は人や状況によって大きく変動します。ではどんな時に時間は延びたり縮んだりするのでしょうか。その要因は6つあります。
1.実際に経過した時間
→実際に経過した時間が長くなるほど、体感する時間も長くなるのは当たり前です。
2.体験された出来事の数
→1日の間に1人の人に会うのと、10人の人に会うのとでは後者の方が「1日が長かったな」と感じるはず。同じ時間の間に体験する出来事が多くなるほど、時間は長く感じます。
3.時間経過に向けられる注意の回数
→同じ時間でも、その間に何度も「この作業を始めてから○分経った」と確認していれば、その時間を長く感じます。
4.他の感覚からの影響
→味覚が聴覚や視覚からの影響を受けるように、時間感覚も他の感覚からの影響を受けます。大きな画面と大きな音で映像を見て過ごす方が、小さな画面と小さな音で過ごす時間よりも長く感じ、広い空間や明るい空間で過ごす方が、狭い空間や暗い空間で過ごすよりも時間は長く感じます。感覚がキャッチする情報量の多さと言い換えてもいいでしょう。
5.感情
→感情によっても体感時間は変わります。特に恐怖心は時間を長く感じさせることがわかっています。
6.身体の代謝
→代謝が激しい状態ほど時間は長く感じられ、代謝が下がるほど時間は短く感じられます。年齢を重ねると時間が短く感じるのには、代謝も関係しているとされています。
これらを前提として、以下では限られた時間をいかに有効活用するかについて考えていきましょう。
なぜ楽しい時間は短いのか?

楽しい時間が短く感じるのは、体感時間を変化させる要因のうち「3.時間経過に向けられる注意の回数」が原因です。私たちは楽しいことに夢中になると「時間を忘れて」没頭します。
すると時間経過に対して注意を払わなくなり、結果体感時間が短くなるというわけです。しかし誰しも楽しい時間をより長く味わっていたいはず。楽しい時間を体感的に引き延ばす方法はないのでしょうか。
まずは「2.体験された出来事の数」を増やす方法を考えてみましょう。同じ楽しい体験をしていても、より多くの情報量を取り込めば、体感時間が伸びるはずです。これを実現するには、物事のディテールに注目してみましょう。
一本のアニメを観ていても、ストーリー展開を追っているだけではなく、作画・構図・声優の演技・音響・演出など細かなところに注目するだけで「体験する出来事」は大幅に増えます。
作品が生まれる背景や監督のこれまでの作品傾向なども事前に調べておけば、さらに情報量は増加します。これだけでも「楽しい時間」はぐっと長く感じられるでしょう。
しかし事前情報があると楽しめない体験もあります。そのような場合は「代謝を上げる」「感覚的な刺激を増やす」の2つが有効です。例えば仲間とフットサルを楽しんでいる時に、プレイしていない時間が長く感じるのは代謝が低下しているからです。
その時間をより楽しみたいのであれば、積極的にプレイして代謝を上げるようにします。また空間が広く明るくなるほど感覚的な刺激は増えるので、インドア趣味よりもアウトドア趣味の方が実際の時間よりも楽しい時間が続くように感じます。
なぜ「待ち時間」は長いのか?
楽しい時間が引き伸ばせるなら、苦しい時間を縮めることもできるはずです。苦しい時間の代表といえば「待ち時間」ですが、これもまた「3.時間経過に向けられる注意の回数」が大きな要因となっています。
これを解消するためにはまず時間経過以外に注意を向ける必要があります。美容室や病院などの待合室に、さまざまな雑誌が置いてあるのはこれが理由です。「待つ」という行為から注意をそらし、他に興味を持ってもらうための工夫なのです。
今ならばスマホを使えばぐっと苦しい時間を紛らわせます。もちろんこの時間に興味のあるビジネス書などを読めば、「待ち時間に読んだ内容で新たなひらめきを得た!」と苦しい時間を楽しい時間に変えることも可能です。
またこうして「待つ」こと自体から注意をそらし、別のことに集中すると「2.体験された出来事の数」も少なくできます。本に集中していれば「前の順番に人が受付の人と話しこんでいる」「後から来た人が受付で『もっと早くならないのか』とゴネている」といった出来事も、気にしなくて済むからです。
あるいは「待ち時間はあと○○分」という見通しを立てたり、いっそ「眠る」というのも有効な方法です。前者はその時間まで別のことに注意を向けていられるので、時間経過への注意の回数を減らせますし、後者は体験する出来事の数が減るうえ、代謝も下がるので体感時間はぐっと短くなります。
前述した1から6までの要因のうち、時間を長く感じさせるものを徹底して減らすことが「苦しい時間」短縮への最善の方法です。
「充実した時間」とは何か?
「充実した時間」というのは人によって違いますが、これを体感時間の観点から考えることは可能です。
人が「充実している」と感じるかどうかは、記憶によって左右されます。例えば小学校時代を思い出してみましょう。これくらい過去の話になると、「楽しかったことは覚えているが、細かいことまでは覚えていない」という人が多いはずです。
そのような記憶に関しては「あの頃は充実していた」とは言いにくいのではないでしょうか。一方で大学時代を思い出してみてください。比較的最近の出来事なので、記憶している出来事も多いはずです。そしてその数に比例して充実度も変わってきます。
これは人生全般において同じです。そのため忙しすぎていちいち記憶している暇がなかったり、マンネリ化したルーティンワークばかりで記憶するべき出来事が少ない場合も、充実感は得られません。
「楽しい」と感じるだけで、何も考えずに過ごしていても、記憶に残る情報は少ないので、これもまた「充実している」とは感じられないはずです。したがって、多忙になりすぎないようにホッと一息をつく時間を作ったり、新しい趣味や使ったことのない通勤路などでマンネリ化した日常に変化をつけることが重要です。
それらはそのまま人生全体の充実度にもつながっていくでしょう。
限られた時間を引き延ばせ!
物理的な時間を引き延ばすことはできませんが、自分が感じる時間を引き延ばすことは可能です。楽しく、充実した時間をできるだけ長く、濃く体験すれば、それだけ人間性にも深みが増します。
人生全体を通した満足度も大きく変わってくるでしょう。これをきっかけに平等に与えられている時間をフル活用して、誰よりも人生を満喫してしまいましょう。
参考文献『「時間の使い方」を科学する』
