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トランプ政権誕生間近!
2017年1月からいよいよアメリカ第45代大統領に、ドナルド・トランプ氏が就任します。当選直後には世界中の金融市場が動揺する「トランプショック」が起きましたが、今後も彼の言動は世界に大きな影響力を与えるでしょう。
しっかりと「アメリカがどういう国なのか」を知っておかないと、ビジネスの流れはもちろん、世の中全体から取り残されかねません。そこでここでは池上彰著『そうだったのか!アメリカ』を参考に、アメリカという国の読み方について、4つの視点から解説します。
なぜアメリカには強い経済的影響力があるのか?
「トランプショック」でもわかるようにアメリカ国内の大きな動きは、そのまま日本を含む世界中の経済にまで影響を及ぼします。トランプ氏が公約で掲げている「TPP反対」や「米中貿易改革」なども、今後世界経済に少なからず影響を与えるでしょう。
しかしなぜ一つの国の国家元首が決まったり、その国家元首が経済的な改革を提唱するだけで、世界経済に影響が出るのでしょうか。これはアメリカの「ドル」が世界経済の基準になっているからです。日本の経済ニュースでも「1ドルが○円」ということはあっても、「1,000円が○ドル」ということはありません。これは他の国でも同じで、概ね世界の経済はドルを基準に自国の通貨の価値を表現しています。
このような仕組みになったのは実に70年以上前のことです。第二次大戦終戦間際、アメリカの首都で開催された連合国44カ国の代表会議で確立した「ブレトンウッズ体制」がそのきっかけです。ここで決定されたのは以下の3つです。
1.ドルを国際的な基軸通貨とする。
2.財政危機に陥った国に対して融資をする「国際通貨基金」の創設。
3.経済発展の援助をする「世界銀行」の設立。
この3つの決定事項はつまるところ、ドルを世界中に拡散し、世界経済の前提をドルにするためのものでした。まずドルが基軸通貨になるということは、すべての通貨は「ドルといつでも交換できるから価値があるもの」になるということです。ドルが他の通貨の価値の基準になれば、世界経済はドル抜きでは考えられなくなります。
次に財政危機の国が国際通貨基金から借り入れるお金はドルであり、世界銀行が援助をする際に使うお金もドルです。つまり国際通貨基金や世界銀行が機能すればするほど、ドルはどんどん世界に拡散し、影響力を増していくのです。
ブレトンウッズ体制が確立してから70年余りの間に、確かにドルの価値は下がりました。これは以前は1ドル=360円で固定されていた為替相場が、現在100円程度になっていることからも明らかです。しかしそれでもドルが世界の基軸通貨であることは変わりません。だからこそアメリカ国内の動きがダイレクトに世界経済に影響するのです。
なぜアメリカは「再び偉大に」なりたいのか?
トランプ氏の選挙スローガンは「アメリカを再び偉大に」でした。このスローガンを掲げたトランプ氏を当選させたということは、アメリカは再び偉大になりたがっているということです。なぜアメリカは国家としての偉大さにこだわるのでしょうか?
これはアメリカが現在もなお「帝国主義国家」だからです。この場合の帝国主義は植民地時代のように積極的に領土拡大を目指すものではなく、政治・経済面でのゆるやかな支配関係を目指すものです。
とはいえアメリカの歴史のほとんどは、前者の積極的な領土拡大に費やされてきました。アメリカ建国期の白人たちによる、ネイティブアメリカン(原住民)から暴力的な領土の略奪は映画などでも再三描かれてきた歴史です。
第二次大戦後、アメリカもこのような明らかに非人道的な帝国主義を実行しなくなりました。しかし1950年の朝鮮戦争では当時親米の独裁政権だった韓国政府を支持し続け、1950年代中頃から本格化したベトナム戦争では親米の腐敗政権をサポートし続け、南米ではキューバやパナマ共和国などの反米政権をことごとく攻撃しています。
この根底にはアメリカ大陸の西へ領土を広げていた西部開拓期に掲げられた「マニフェスト・ディスティニー(明白なる使命)」があります。すなわち世界中にアメリカの「理想」を広げるという神が与えた使命です。これを遂行するという大義名分のもと、アメリカは世界を支配し、「再び偉大に」なろうというわけです。
こうした発想は「神」「国家の使命」といった概念がすっかり薄れてしまった日本人にとっては理解しがたいものかもしれません。しかしトランプ氏のスローガンに賛同したアメリカ国民の中には、確実にこの「マニフェスト・ディスティニー」が根付いているのです。
なぜアメリカは「宗派」「宗教」にこだわるのか?
トランプ氏が副大統領として共和党でインディアナ州知事だったマイク・ペンス氏を副大統領に指名した際、このペンス氏の宗派が問題になりました。ペンス氏が同性婚や中絶に強く反対するキリスト教保守派だからです。
大統領予備選では既存の共和党政策を無視した独自性で人気を博したトランプ氏だったため、支持者から「どうして?」という声も上がりました。これは日本では起こり得ない反応です。日本では政治と宗教をとにかく徹底的に切り離したがるため、選挙において宗教が話題になることは稀だからです。
なぜアメリカが「宗派」「宗教」にこだわるのかというと、多くのアメリカ人が自国を「神のもとにある国」と信じきっているからです。その信念は日常生活だけでなく、政治や司法、経済や教育にまで貫かれています。
例えばキリスト教保守派のペンス氏が同性婚に反対するのは、旧約聖書『創世記』に登場するソドムとゴモラという街が同性愛に溺れて堕落したために神によって滅ぼされたことに由来しています。
またペンス氏が中絶に反対するのも『創世記』で神が言った「産めよ、増えよ、地に群がり、地に増えよ」が根拠となっています。中絶はこの神の言葉に反する行為だから認めない、というわけです。
他にもアメリカでは「進化論を学校で教えるべきか否か」について裁判沙汰になり、最後には進化論を教えた教師が有罪とされて罰金刑に処されたこともあります。現在も保守傾向の強い州では保護者の抗議を恐れて、生物の時間に進化論を教えないという教師がいるのだとか。「神が作った人間が、猿から進化したなどと馬鹿げたことを言うな!」というのです。
これも日本では信じられない話ですが、あらゆる面で「宗派」「宗教」が問題になるのがアメリカという国です。
なぜアメリカでは「移民」が問題になるのか?
ワシントンに本部を置くシンクタンク・ケイトー研究所によれば、トランプ氏はアメリカ国内の不法移民を徹底的に国外追放すると宣言しています。また「国内で生まれた子供に対してアメリカの市民権を与える」という現行制度の廃止や、オバマ大統領が進めてきた「一定条件を満たした不法移民に対する一時的な強制送還の免除制度」などの廃止も掲げています。なぜアメリカではこれほどまでに「移民」が政策の争点になるのでしょうか。
それはアメリカの歴史が「旧移民」と「新移民」の歴史だからです。建国の礎を作ったイギリスのピューリタンに始まり、アイルランド、ドイツ、イタリア、スイス、フランス、そして日本と時代が進むごとに、様々な地域や国から新天地を求める人々がアメリカに押し寄せてきました。
ある地域や国から新たに移民が来ると、新移民だった人々が旧移民となり、それまでの低賃金労働や劣悪な生活環境から逃れ、アメリカ社会の一つ上の階層に上ります。一方新たに入植してきた人々は新移民となり、それまで別の人々が属していた階層に入ります。アメリカの歴史ではこのローテーションが何度も繰り返されてきたのです。
このローテーションはアメリカの総労働力を増加させ、国の発展に貢献してきました。しかし同時に深刻な労働問題も生みました。例えばある工場で時給10ドルで働いていたアメリカ人がいたとします。あるとき新移民が流れ込んできて、そのアメリカ人と同じ仕事を時給6ドルでやり始めました。すると工場はアメリカ人を解雇し、新移民を雇うようになります。このように新移民は既存の雇用を奪う可能性を大いにはらんでいるというわけです。
この問題が現在メキシコ国境のテキサス州をはじめ、アメリカ各地で深刻化しています。にもかかわらずオバマ大統領は不法移民に対する規制を緩和するという政策に出たため、関係各州から激しい反発を受けました。トランプ氏はこのオバマ大統領のやり方を全面的に否定し、「アメリカ人のためのアメリカ」を標榜したのです。
ビジネスマンとして、日本人として
ニュースやバラエティなどでもアメリカは頻繁に登場します。そのためいつの間にかアメリカのことを「知った気」になってしまいがちです。しかしここで挙げた4つの切り口だけを見ても、知らなかったアメリカの行動原理があったのではないでしょうか。ビジネスマンとして、そして日本人として、アメリカについてはもっとよく知って置く必要がありそうです。
参考文献『そうだったのか!アメリカ』
