社会心理学が明かす「信じる者は救われる」がマジな理由

人を信じる? 信じない?

「知らない人を信じられる? それとも信じられない?」

こう尋ねられたら、みなさんはどう答えるでしょうか。もし「信じられない」と答えた人は、これからの時代で損をするかもしれません。

というのも、インターネットが普及し、知らない人同士がつながるチャンスがますます増えていく時代において、人間一般を信じる人ほど得をしやすいことが社会心理学によって明らかにされているからです。

他人を簡単に信じられる人は人間関係が広がりやすく、人間関係が広い人はいろいろな価値観や世界を知ることができるので、人生も豊かになる、ということはなんとなく理解できるはず。

しかし頭ではわかっていても、「正直者が馬鹿をみる」という言葉が思い浮かんで、むやみに人を信じることが怖く感じる人も多いのではないでしょうか。

以下では「信じる者は救われる」が本当である根拠を説明するとともに、人生を充実させるために必要な「信じる力」についても解説。この力を鍛えるための方法についても紹介します。

社会心理学的に「信じる者は救われる」は本当

信頼の解き放ち理論は、特定の条件(社会的不確実性と機会コストのいずれもが高い状況)のもとでは、他者一般を信頼するという特性が、結果として本人の利益をもたらす可能性のあることを指摘するものである。
引用:『信頼の構造 こころと社会の進化ゲーム』p86

社会心理学者の山岸俊男氏は、著書の中でこのように書いています。これをごく簡単に言い換えると、次のようになります。

相手が信頼できるかどうかがわかりにくく(社会的不確実性が高い)、同時に今いる会社や家族といったグループに所属し続けることの損失が大きい(機会コストが高い)状況においては、「人をとりあえず信じてみる」という人ほど得をしやすい。

日経・経済図書文化賞受賞を受賞した『信頼の構造 こころと社会の進化ゲーム』はこのことを、自分たちのチームで行った実験や、他国のチームが行った実験を踏まえて論証しています。

「相手が信頼できるかどうかがわかりにくい」状況

会社や家族のように互いの情報を共有し合うコミュニティのほか、たとえば行ったことのないお店や街のコミュニティなど

「今いる会社や家族といったグループに所属し続けることの損失が大きい」状況

「別のグループに移った方がメリットが大きい」状況。極端な例ではブラック企業や、DV家庭など。

この2つの条件を満たす状況下では、知らない人をとりあえず疑ってかかる人よりも、知らない人をとりあえず信じてみる人のほうが、得をしやすい。

つまり人間一般を信頼することは、人を今いる場所から解き放つ力がある−――だから山岸氏はこの理論を「信頼の解き放ち理論」と呼んだのです。

「信じる力」は退化していく

しかし世間一般では、「信じる者は救われる」よりも「正直者が馬鹿をみる」という、不用意に他人を信じることを戒める考え方のほうが主流です。

確かにテレビニュースで詐欺事件などが報じられると、世の中が悪意に満ち溢れているようにさえ思えてきます。「正直者が馬鹿をみる」の精神で、ことごとく人を疑ってかかった方が、失敗は少ないように思えるかもしれません。

ですが、このような考え方をしていると「信じる力」が退化していき、ますます人を信じられなくなってしまいます。

というのも、山岸氏らの研究によれば、人をとりあえず信じてみる「お人好し」ほど、実は相手を信頼できるかどうかを見極める能力が高く、逆に疑り深い人ほどその能力が低いことがわかっているのです。

なぜなのでしょうか。筆者の見解によれば、その原因はトライアンドエラーを経験しているかどうかにあります。人をとりあえず信じてみる人は、大なり小なり裏切られる体験もするはずです。

そうして経験値を積み重ねていくと、徐々に「この人は信じて大丈夫か、危ないか」の直感が高くなり、結果的に信じる力が鍛えられていきます。

するとひますますいろいろな人を信じるようになるので、どんどん信じる力が強くなっていくわけです。

これに対して疑り深い人は、最初から「人は信じられないものだ」と決めつけているため、トライアンドエラーをしようとしません。

場数が踏めなければ信じる力が鍛えられることもないため、ますます裏切られることが怖くなります。結果として信じる力が衰え、思わぬところで詐欺や、身内の裏切りに遭ってしまいます。

だから人生を豊かにしていくためには、「とりあえず信じてみる」ことで相手が信頼できるかどうかを見極める能力を鍛えることが大切なのです。

「とりあえず信じてみる」のトレーニングを積もう

とはいえ、いきなり「とりあえず信じてみよう」と言われても、よく知らない他人を信じることに慣れていない人は不安に感じるはずです。

でも心配はご無用。要は慣れの問題です。最初はもし裏切られてもリスクが低い場面から始めて、「なんだ大丈夫じゃないか」という経験を積み重ねていき、段々と許容できるリスクの範囲を広げていけばOK。

「ちょっと怖いけど、裏切られても最悪の事態にはならないかな」という状況なら信じてみて、「裏切られるのが怖くてたまらない」という状況なら信じなければいいだけの話です。

たとえば以下のようなシチュエーションは、「とりあえず信じてみる」のトレーニングを積むのにもってこいです。

・初めて行ったお店のおすすめを「とりあえず信じてみる」
・旅行先で出会った初対面の人のおすすめの観光地を「とりあえず信じてみる」

居酒屋の店員さんに「一番好きなメニューは?」などと聞いて、「これです」と言われたら、「じゃあそれで」と言ってみる。旅行先で出会った初対面の人が「観光するならここがいいよ」と言うのなら、それを鵜呑みにして行ってみる。

「そんなしょうもないことでいいのか?」と思うかもしれませんが、まずはそこからでいいのです。経験を積み重ねていって「美味しいメニューをすすめてくる店員さんかどうか」「自分好みの観光地を勧めてくれるのはどんな人か」がわかってきたら、徐々にリスクの高い状況で試していきましょう。

最終的に「自分の能力を評価して、新しい事業に誘ってくれる人」「儲かる投資案件などを紹介してくれる人」など、裏切られた場合のリスクが高い状況でも、「あ、この人なら大丈夫だな」と直感的に判断できるようになれば、信じる力が鍛えられた証拠。

その頃には今よりずっと人生が豊かになっているはずです。

「悪意」に怯えていても、人生は前進しない

「お人好しは馬鹿をみる」という言葉を鵜呑みにして、あるかどうかもわからない他人からの悪意に怯えているだけでは、一向に人生は前進しません。

インターネットのさらなる発展や、人材の流動性がますます高まっていくこれからの時代においては、「とりあえず信じてみる」姿勢こそが、人生を面白くするのです。

信じる力がまだ弱い人にとって、いきなり人を信じるのは怖いかもしれません。しかしそれも、「とりあえず信じてみる」を実践しながら、少しずつ許容リスクを広げていけば気にならなくなります。

無駄に人を疑うのはやめて、まずは小さな「とりあえず信じてみる」→「なんだ大丈夫じゃないか」から始めましょう。

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山岸俊男さんの著書は必読の名著です!ぜひ手にとって見てください。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部