説明が苦手な人は「表現のフォーマット」で物語る力を鍛えよう!

説明が苦手な原因はどこにある?

プレゼンのように、複数人の前で発表するのが苦手……。
初対面の人と何を話していいかわからない……。
面白い出来事があっても、うまく人に伝えられない……。

どんなにとっておきの話題でも、内容が相手に伝わるように整理されていなければ届きません。何かについて説明する、つまり物語るために必要なのは「どこからどう話せばいいか」のフォーマットをもつことだからです。

ここでは、日頃からライターとして物語ることを仕事にしている筆者が、いくつかの「表現のフォーマット」を紹介したいと思います。

「物語る力」はキャリアを大きく左右する

「口先ではダメ。実際、行動に起こすことが大事」というのは、一見とてもまっとうなことを言っているように思えます。確かに行動を起こせるかどうかは非常に大事です。しかし同時に、「口先」も同じくらい大切です。

この点に関して、現代経営学の発明者ピーター・ドラッカーの次の言葉は、とても示唆に富んでいます。

最底辺から一段上がったら、しゃべったり書いたりした言葉で、どれほど他人に影響を与えられるか、それが実態としての自分の能力を規定する。
−−−ピーター・ドラッカ−−−
引用:『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』p10

この言葉が正しければ、どんなに問題の本質を見極める能力に長けていても、どんなに数値分析の能力に長けていても、それらをしゃべったり書いたりして他人に伝えられなければ、評価もされず、出世もできません。

誰しもが自分の能力を正しく評価されたいはず。そのためには何かを相手に伝わるように説明する「物語る力」を鍛える必要があるのです。

「表現のフォーマット」の引き出しをもっておこう

では、どうすれば物語る力を鍛えられるのでしょうか。選択肢は色々あります。

・異業種交流会や、合コン、街コンなど初対面の人と会うことに慣れる。
・井上ひさしや池上彰など、物語る力の高い文筆家の本を書き写す。
・立川談志や古今亭志ん朝など、超一流の落語家の落語を聴く。 など

これらはいずれも効果的なトレーニング方法です。しかし「ムリ」「面倒そう」「すぐに飽きてしまいそう」と思う方も少なからずいるのではないでしょうか。

そこでここでは、今日から、いっそ今からすぐに試せる手軽な方法を紹介します。実は説明の手法にはいくつかの「表現のフォーマット」があり、型通りに話を進めていくだけである程度伝わる話にすることが可能です。

公式を知らない人が、数学の問題を解くために膨大な時間をかけてしまうのと同じように、表現のフォーマットを知らない人はなかなか伝わる話し方を身につけられません。フォーマットを知っているかどうかは、物語る力を鍛えるための近道なのです。

表現のフォーマットには色々なものがありますが、以下ではシンプルな型を目的別に3つ見ていきましょう。

●フォーマット1. 論理的に意見を述べたい

社内での会議や取引先との打ち合わせなどで「論理的に意見を述べたい」という目的にぴったりなのが、『東大で25年使い続けられている「自分の意見」の方程式 最強のアウトプットの作り方』で紹介されているフォーマットです。

誰も否定できない客観的な事実からスタートさせ、その事実の問題点を指摘し、自分の立場や価値観を表明した上で、何かしらの提案を行う。このフォーマットに沿って話したり、書いたりするだけで、最低限の「意見」の体裁が整います。

このフォーマットに沿って情報を集めていくのもアリですし、手持ちの情報をフォーマットに当てはめて意見を形作っていくのもアリです。フォーマットを知っていれば、自分の意見を述べるために足りない要素は何かが一目瞭然になるので、情報収集の効率もアップします。

●フォーマット2 .ストーリー的な面白さを伝えたい

友人との世間話や、異性との雑談のなかで「ストーリー的な面白さを伝えたい」というときに使い勝手のいいフォーマットが、脚本術のベストセラー『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』で紹介されているものです。

最初に「状況設定」で何について、誰についての話かを提示し、「事件」をきっかけに登場人物が乗り越えるべき障害となる「葛藤」に話を移したら、もう一度「事件」を用意してオチである「解決」へと向かいます。

たとえば昔話の「かちかち山」なら、おじいさんとおばあさん、タヌキが登場するまでが「状況設定」で、タヌキがおばあさんを殴り殺すのが最初の「事件」です。

ウサギが現れてタヌキの背中の薪を燃やしたり、火傷に唐辛子を塗り込んだりするのが「葛藤」で、泥の船が沈み始めるのが第二の「事件」。ラスト、助けを求めるタヌキに「おばあさんを殺した罰だ」とウサギが言う場面が「解決」です。

ハリウッド映画の多くもこのフォーマットにしたがっているので、映画を観るときに意識してみるだけでも、物語る力を鍛えるトレーニングになります。

●フォーマット3. わかりやすさを重視したい

聞き手にわかりやすく説明することを重視したい場合は、『英語ライティングの原理原則』で紹介されているフォーマットがおすすめです。

上図は、本書のなかで「階段型」と呼ばれる論理展開の方法で、ここに文と文のつながりの基本として紹介されている「既知の情報→未知の情報」というフォーマットを組み合わせたものです。

ひとつ前の文で言った内容にかぶせる形で次の文を展開していくと、聞き手や読み手が置いてきぼりにならずに、わかりやすく話を展開していけます。

ポイントとしては最初の一文と最後の一文で「言いたいこと」をはっきり言うことです。そうすることで自然と「今からの話で私が言いたいのはこういうことです」という導入と、「今までの話で私が言いたいのはこういうことでした」というまとめを組み込むことができます。

なお本書はタイトル通り英作文の本ですが、伝わりやすい文章の作り方を1文単位から説明してくれているので、物語る力の基礎を鍛えるのにぴったりの参考書となっています。

フォーマットを活用して物語る力を鍛えよう

何かについて説明するには、フォーマットだけではなく、フォーマットを形作るための素材(ネタ)も必要です。

しかし安価な材料でも、上手に調理すればある程度美味しい料理を作ることができます。物語ることも同じで、フォーマットを使って素材をきちんと整理してやれば、「伝える」という目的を達成するのは可能になるのです。

面白いネタを見つけてくるのは簡単ではありませんが、フォーマットは練習さえすれば使いこなせるようになります。説明が苦手な人は、まずフォーマットを活用して物語る力の基礎を身につけるところから始めてみてはいかがでしょうか。

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最初の一文と最後の一文で「言いたいこと」をはっきり言う。これだけでも覚えておきたいですね。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部