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ピンチをチャンスに変える身体術
「怒られたら、失敗したらと思うと自分の意思で行動できない」「人前に出ると緊張して思うように話せない」自分にとってどんなに大きなチャンスでも、心も体も不安や緊張に縛られてしまうと、それはあっという間にピンチに変わってしまいます。
これをもう一度チャンスに変えるためには、度胸でねじ伏せるのではなく、緊張や不安を味方に変える方法を身につける必要があります。ここでは能楽師であり、ロルフィングというボディワークの施術者(ロルファー)でもある安田登さんの著書『不安や緊張を力に変える心身コントロール術』の中から、筆者が実践してみてすぐに効果を実感できた身体術を紹介します。
基本の姿勢「スカイフック」
「スカイフック」はロルフィングの創始者であるアイダ・ロルフによって名付けられたイメージ法で、名前どおり天からロープのついたフックでつられるようにイメージすることを指します。このイメージに基づいて立てれば、全身から無駄な力が抜け、体の動きが滑らかになります。
ここで紹介する身体術のうち、最も難しいのは間違いなくこのスカイフックです。しかし安田さんが基本としているという点と、緊張や不安を感じたときの力んだ立ち方の改善が期待できる点で、ぜひとも挑戦したい身体術として紹介します。安田さんが紹介するスカイフックの実現方法は以下の通りです。
<やり方>
1.足を股関節の幅(肩幅よりやや狭め)に開く。
2.膝関節は伸ばしきらずに、膝裏の力を抜いておく。
3.意識を足の裏へ。床と足の裏がどう接触しているかを意識する。
4.足の裏で重力を感じながら、体重がどちらの足にどんな配分で乗っているか、重心はどこにあるかを感じる。
5.足の裏から足首、ふくらはぎという順に緊張を緩めていく。
6.両足や体全体を動かし、足と床の関係性の変化を感じながら、最もバランスの良いポイントを探す。
7.天からロープのついたフックでつられるようにイメージする。
8.足の裏に力を感じながら、軽く膝の曲げ伸ばしを行い、体の軸を意識する。
9.再び天からロープのついたフックでつられるようにイメージする。
<実際にやってみて>
多少なりとも「足の裏で大地をつかんで立つ」という意識ができるようになると、緊張していた下半身の筋肉が緩むのが実感できます。スカイフックを意識すれば背中の筋肉が緩むのが感じられます。難しいのはこの2つを同時に感じることです。意識が重要になるので、はじめはなるべくノイズの少ない環境で挑戦することをおすすめします。
「深い呼吸」を手に入れるための3つのエクササイズ
続いて紹介するのは「呼吸」に関するエクササイズです。安田さんは『荘子』に紹介されている3つの呼吸法、すなわち「吹(すい)」「呴(く)」「呼(こ)」について解説していますが、ここではこのうち「呴(く)」と、これらを会得するための前段階のエクササイズを紹介します。
●肩まわり(菱形筋)をゆるめる
背中上部から中部かけて広がっている深層筋「菱形筋(りょうけいきん)」を緩めるエクササイズです。安田さん曰く、この菱形筋が固まることで肩コリや背中のコリを感じている人が多いそうです。
<やり方>
1.苦しくない程度に上体を前傾させ、片腕を地面に向かってダラリと垂らす。
2.逆の手は太ももに添えるなどして固定しておく。
3.この状態で垂らした方の腕を外側に向かって回転させる。
4.このとき力を入れるのではなく、重力に任せてブラブラとさせるよう意識する。
5.菱形筋が徐々に緩み、腕が地面に向かって伸びるようイメージする。
6.緩んできたら逆側の手も同じように行う。
<実際にやってみて>
「腕が地面に向かって伸びるようイメージする」とありますが、実際にやってみると本当に腕が長くなります。固まった菱形筋が緩んで、腕が本来の位置に戻るからでしょう。また肩まわりの結構も良くなります。どこでもいつでも手軽にできるだけでなく、効果も実感しやすいエクササイズです。ネットなどで菱形筋の位置を確認してから行うと、より意識しやすくなります。
●体の前側(小胸筋)をゆるめる
肩の付け根から胸の中央あたりにかけてついている胸部の深層筋「小胸筋」をゆるめるためのエクササイズです。いくら肩をほぐしていても、この深層筋が固まっていると肩コリは治らず、呼吸も深くなりません。
<やり方>
1.胸で呼吸をしながら、胸の上部の肋骨の溝を指でなぞるようにして、表層筋である大胸筋を緩める。
2.十分ほぐしたら、肩と胸の間のくぼんだ部分を強く押して小胸筋を緩める。
3.小胸筋をイメージしながら肘から動かすように、腕を動かす。
<実際にやってみて>
菱形筋を緩めてから行うと、これだけで呼吸が深くなるのを実感できます。小胸筋が緩むことによって胸郭が広がり、呼吸しやすくなっているからでしょう。一般的なマッサージではあまり力を入れすぎるのはよくありませんが、このエクササイズではやや強めに押すのがポイントとなります。菱形筋同様、ネットなどで小胸筋の位置を確認してから行うと、より意識しやすくなります。
●ストロー呼吸で深い呼吸を手に入れる
3つ目は「呴(く)」の呼吸を会得するためのエクササイズです。緊張や不安は呼吸を浅くします。しかしこのエクササイズを習慣化していれば、たった3分で深い呼吸を取り戻すことができます。
<やり方>
1.ストローを用意する。
2.口を閉じて鼻から息を吸い、ストローをくわえる。
3.口からゆっくり息を吐く。特別深呼吸を意識する必要はない。
4.これを3分間繰り返す。
<実際にやってみて>
非常に単純なエクササイズですが、効果はてきめんです。意識して鼻だけで息を吸っているだけで頭がクリアになっていくのが感じられますし、ゆっくりストローから息を吐くと無意識にしっかりと空気を吐き出せるようになります。緊張や不安を感じる場面でストローがあるとは限らないので、口をすぼめただけでできるように、日頃から練習しておきましょう。
人体最大の深層筋「大腰筋」を緩める
大腰筋は人体最大の深層筋で、胸の下の背骨から太ももの付け根に向かってついている筋肉です。上半身と下半身を繋いでおり、身体の様々な動きに影響を及ぼします。
<やり方>
1.片足を踏み台などに乗せ、もう一方の足を宙に浮かせる。
2.体は壁などに手をついて支える。
3.宙に浮いた方の足を、股関節を支点として前後にブラブラと揺らし、大腰筋を緩める。
4.大腰筋を意識して、足が伸びていくようなイメージで揺らす。
5.徐々に意識する位置を股関節から背中、胸の上部と上げていき、数分間揺らし続ける。
6.逆足も行う。
<実際にやってみて>
「足が伸びていくようなイメージで揺らす」とありますが、数分間行うと本当に伸びているような感覚になります。ネットなどで大腰筋の位置を確認しておけば、エクササイズが終わった後、大腰筋の部分の余計な力が抜けていることがわかるはずです。段差さえあれば手軽に行えるので、日常的に行なって大腰筋をリラックスさせておきましょう。
アゴの筋肉の1つ「翼突筋」を緩める
顔が緊張しているときに緩めると効果がある筋肉が翼突筋(よくとつきん)です。本来この筋肉には「外側翼突筋」と「内側翼突筋」がありますが、自分で行うエクササイズの場合は区別する必要はありません。
<やり方>
1.頬の内側に人差し指を当てて口を開閉し、頬と奥歯の間に固い筋のような筋肉(翼突筋)をさぐり当てる。
2.内側から指を押し当てつつ、口を開閉して緩めていく。
3.緩んできたと感じたら、指をやや下に下げてアゴをあげる。
4.その状態で再び口を開閉して緩めていく。
5.逆側も行う。
<実際にやってみて>
筆者は慢性的に顔の筋肉がこわばっているのを感じていましたが、このエクササイズを1〜2分行うだけで頬の筋肉が緩むのを実感しました。ただし口の中に指を入れるので、衛生的な意味も含めていつでもどこでもやるわけにはいきません。毎晩風呂の中で行うようにすれば衛生面の問題をクリアできるうえ、習慣化もできそうです。
まずは「体」を味方につけよう!
ここで紹介した身体術を無意識的に実践できるようになっていれば、少なからず効果は得られるはずです。しかし本当の意味で緊張や不安を味方にするためには心技体すべてのパフォーマンスをあげる必要があります。またここでは割愛した難しい身体術を会得すれば、さらなるパフォーマンスアップも期待できます。「これだけではどうにもならなかった」という人はぜひ安田さんの著書を実際に手にとってみてください。「気合いだ」「度胸だ」という根性論ではない、目からウロコのしなやかな心身コントロール術を学ぶことができるはずです。
参考文献『不安や緊張を力に変える心身コントロール術』

