Contents
複雑になるほど「結果」は遠のく
私たちは自分の人生をつい複雑にしがちです。「体面」を保つためにあちこちにいい顔をする、SNSのイイね!を稼ぐために試行錯誤をする。あるいは、勤めている会社で「顧客ニーズの多様性」に合わせて商品のラインナップを増やしてみたり、ミスをなくすために何重にもチェック体制を設けたり……。
しかし実はこうして物事を複雑にするほど、「結果」=幸福感や出世は遠のいていきます。
ここではその理由と複雑さの対極にある「シンプルであること」の重要性と、どうすればシンプルであり続けられるのかを解説します。
「複雑さ」がもたらす4つの問題
漢字の多い文章や、やたらと資料の多いプレゼン、選択肢が膨大なファーストフード店。世の中には「もっともらしい複雑さ」が溢れかえっています。しかしこれらは主に以下の4つの問題を生んでいます。
1.無駄が増える。
何十ページ、何百ページの資料が、実際にプレゼン中に役立つことはありません。このときその資料の作成に費やした時間と労力、人件費、印刷代などあらゆるものが無駄になっています。
あるいは社内で何か一つ新しいことをしようとすると、社内中の関係者に承認を得なければならない体制なども無駄の極み。複雑さはとにかく無駄を増やすのです。
2.ストレスが増える。
気軽に入って気軽に美味しいものを食べられればよかったのに、メニューの数が膨大で何を選べばいいのか見当もつかない。そんな飲食店では注文するまでにストレスが大きすぎて、もはや行く気にもなりません。
利害関係が入り組んだ複雑な交友関係になってくると、いざ飲み会を開こうとしても「この人が来るからこの人を呼ぶわけにはいかない」など調整にストレスが生まれます。組織単位でも個人単位でも、複雑さはストレスを生みます。
3.スピードが落ちる
必要以上に漢字の多い文章やカッコ書きの多い文章は読むだけで時間がかかります。法律の条文や裁判の判決文などはその典型でしょう。
複雑さはあらゆるもののスピードを落とします。スピードが落ちれば仕事量も落ち、成果の量も落ちざるを得ません。結果は遠のく一方です。
4.判断を間違える。
結婚相手を選ぶ際に「自分も幸せになりたい。でも自分の親にも喜んで欲しいし、友人たちにも誇れるような相手がいい。性格も大事だけど、経済力も必要だし、子供のためには包容力も必要だし……」と複雑な判断基準を並べてしまうと、なかなか相手が見つからないもの。
すると最終的に焦りが生まれ、最後には本質的な部分を見失って「こんな人と結婚するんじゃなかった」という相手を選んでしまいがちです。
人生でも仕事でも、小さな判断の積み重ねが結果を生みます。複雑さに翻弄されていては、期待するような結果をつかむことはできません。
ここまで複雑さの問題を挙げてきましたが「そうは言っても仕方ない部分はある」と思う人もいるかもしれません。
数々の広告賞を受賞しているApple社のクリエティブ・ディレクターであるケン・シーガルもかつては同じく「ときには妥協も大事だ」と考えていたのだそうです。
しかし故スティーブ・ジョブズに出会って、その考え方は大きく変わります。なぜならジョブズが組織や製品を徹底的にシンプル化するために行動し、それを実現していたからです。
シーガルは著書『最高のシンプル思考 最高の結果を生み出すためのたった1つのルール』の中で次のように書いています。
物事をシンプルにするのは難しい。(前掲書p5)
いかにシンプルに見えても、そこに至るまで過程も同様にシンプルであるとは限らない。(前掲書p4)
シンプルであろうとするには、ときに複雑なプロセスをたどり、多大な労力を割く覚悟が必要です。ですが人生や仕事で結果を出したいなら、その労力を惜しんではいけないのです。
成功者は「シンプルであること」に力を注ぐ
「シンプルであること」に力を注いでいるのはジョブズやApple社だけではありません。以下では3つの「シンプルであること」への試みや考え方を紹介します。
●「体験をシンプルにする」Webデザイン
ロンドンのデジタルデザイン会社フールプルーフは、「ウェブサイトを利用する人の体験をシンプルにする」を自分たちの仕事だと考えています。
そのために彼らが利用しているコンセプトが「フロー」と呼ばれる理論です。これはハンガリーの心理学者が提唱した理論で、人はフローのあるプロセスの中では頭で考えなくても作業手順がわかるというもの。
フールプルーフはWebデザインをこのフロー理論にしたがった要素を取り入れることで、利用者にとって「次に何をすればいいかがわかる」シンプルなサイトをクライアントに提供しているのです。
同社のクライアントは大手企業も多く、大手企業になるほど得てして製品やサービスのラインナップが多種多様で、そのぶんWebサイトも複雑になりがちです。その問題をフールプルーフの仕事は解決しています。
●「好きなことだけやって生きていく」というコンセプト
『明石家さんちゃんねる』『オトナの!』などを手がけた人気テレビプロデューサーの角田陽一郎さん自著の中で「好きなことだけやって生きていく」というコンセプトを打ち出し、そのために以下の4ステップを提案しています。
1.「好きなこと」を増やす。
2.アイデアを生み出す。
3.アイデアを伝えて「仕事」にする。
4.「好きなこと」を仕事としてやり続ける。
※詳細はこちらの記事を参照してください。
私たちは人生において「世間体」や「社会人としての義務」に縛られ、「普通」「みんな」というあやふやな概念に囚われています。
しかしそうした曖昧な概念に判断を委ねていると基準が複雑化してしまい、前述の4つの問題が生まれてしまいます。上記の4ステップを実践するのは確かに骨が折れます。
しかし角田さんが打ち出した「好きなことだけやって生きていく」というコンセプトは、複雑になりがちな私たちの人生をシンプルにしてくれる力を持っています。
●「ホームランを捨ててヒットに徹する」からヒットが打てる
元メジャーリーグ投手の長谷川滋利さんはメジャーリーグの「3,000 Hit Club」(3,000本安打を達成した選手が名を連ねるクラブ)の選手たちを「ホームランを捨ててヒットに徹した職人」と表現しています(スポーツ解説ドットコム)。
この中には2016年にメジャー通算3,000本安打を達成したイチロー選手がいて、彼はかつて「確実に打てる球が来るまでカットできる」と明言して実行したこともあるそうです。
「ただひたすらヒットに集中する」「確実に打てる球が来るまで待つ」もしこの両方を確実に実行できれば、誰でもヒットを量産できます。
もちろんそのためには途方もない努力が必要ですが、誤解を恐れずにいえばそれは大した問題ではありません。
最も重要なのはこうしたシンプルなルールを自分に課し、真っ直ぐに実行した点です。あれやこれやと言い訳して、現実を複雑化していては結果への遠回りをするだけなのです。
時間・お金・気力・体力は「シンプルであること」に注げ
ジョブズが不振のApple社に対して行なった徹底的なシンプル化を、そのような立場にないビジネスパーソンが実行しようとするのには無理があります。
しかし自分の人生や手元の仕事については、十分シンプル化できるはずです。確かにそのためには時間もお金も気力も体力も必要になるでしょう。シーガルが書いたように、「物事をシンプルにするのは難しい」からです。
ですが「シンプルであること」にはそれだけの価値があります。ジョブズのように執念すら感じる姿勢でシンプル化にこだわってもかまいませんし、「これくらいならできるかな」というところから始めてもかまいません。結果を出したいなら、まずは今から一歩を踏み出しましょう。
参考文献『最高のシンプル思考 最高の結果を生み出すためのたった1つのルール』『「好きなことだけやって生きていく」という提案』

