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「空気」に振り回されてない?
社会人にとって必須のスキル「空気を読む」。しかしこのスキルを無意識に使ってしまうような癖がつくと、それは自分の人生を「空気」に明け渡してしまう呪いになりかねません。
例えば転職は集団の輪から抜け出し、新たな職場で自分の人生を生きるための行為です。そのため「空気」に振り回されたり、呑まれたりしているようでは決して成功させることはできません。
ここでは格闘技界の数々の「空気」を無視して自分だけのファイトスタイル、生き方を貫き続ける総合格闘家青木真也さんの著書『空気を読んではいけない』をヒントに、自分を取り巻く「空気」との正しい付き合い方を提案します。
「孤独」こそが自分を作る
「空気」を読んでばかりいると、知らないうちに自分が空気と同化してしまいます。もちろんそれでうまくいくこともたくさんあるでしょう。しかし集団で群れることを選び、孤独な生き方を捨ててしまうことで、失うものもたくさんあります。
それは自分の頭で考えたり、自分の価値観で判断したりする能力です。周りに合わせているだけでなんとなく生き延びられる日本型経営が崩壊の一途を辿る今の状況では、空気を読むだけの生き方は瞬時に居場所を失う危険と常に隣り合わせなのです。
「なんでみんなと一緒にやるんだ。何かやるときは一人でやれ」
引用:前掲書p22
青木さんは小学生の頃から、お父さんにこんな言葉をかけられて育ちました。結果学校では除け者にされ、現在に至るまで友達はいないと言い切るほど、人と群れない孤独な生き方をしてきました。しかしこの生き方こそが青木さんの人生を切り拓く武器になっています。
青木さんは小中高と柔道の世界に身を置いていましたが、中学時代に顧問の先生にセンスなしの烙印を押されてしまいます。それでもなんとか強くなりたかった青木少年は、レギュラーの選手たちと群れるのを止め、部活動の後にもクラブチームの練習に参加し、鍛錬を積みます。
自分の能力が劣っている以上、他の部員と仲良く群れていたら、レギュラーになれないのは明らかだ。僕が群れてしまっては、レギュラーとの差は一生縮まらない。
引用:前掲書p26
自分に才能がないという自覚もあった青木少年は、そうしてメキメキと実力をつけ、中学を卒業する頃にはチーム内で欠かせない猛者となりました。このスタイルは今に至るまで全く変わりません。青木さんは自身の格闘技人生を「ある意味で隙間を探し続けてきたとも言えそうだ」(前掲書p29)と表現します。「空気」を読んで集団で群れるのではなく、集団から離れ、世間一般が見落としているような方向へずんずん進む。そのあり方が、相手の虚をつくトリッキーなファイトスタイルを生み出しているのです。
「孤独を守る」ための哲学

青木さんはこの孤独を追求する生き方こそが確固たる自分を作り上げることを確信しているため、「空気」によって自分の孤独が侵食される状況を徹底して回避しています。とりわけ「空気」の原因である人間関係は、自分が空気に吞まれる危険性を著しく高めます。以下ではそうした危険を回避するための方法を「貸し借り」「縁切り」「決断」という3つをキーワードに紹介します。
●人間関係は「貸し借り」で割り切れ
どれだけ些細な借りであっても、すぐに返す。「これでイーブンだな」と必ず口に出して、その都度清算したことを確認するようにしている。
引用:前掲書p54
人と食事に行って奢られる。接待を受ける。そうした行動は、自分の孤独を「借りがある」の一点だけであけ渡さざるを得ない状況を生む可能性があります。一宿一飯の恩義やお金の問題だけでなく、仕事を都合してもらったり、出世の便宜を図ってもらったりと、人生において借りを作ってしまう場面は無数にあります。
青木さんはそうした場面に遭遇すると、お金で解決できる問題はお金で解決し、そうでない場合もお互いの合意に基づいた清算を即座に済ませてしまいます。自分の孤独を守るのは、自分の人生を守ることと同義であり、それが脅かされるリスクは早急に潰しておく必要があるからです。
一方で青木さんは貸しを作ることには積極的です。これは単に自分が得をするという考えからではありません。自分に対して拘束力のある借りに対し、貸しは自分の一存で相手との関係を解消できるからです。
●自分を食いつぶす人間関係は「縁切り」すべし
常に自分の価値観を誤魔化さずに行動することが「自分の人生」を生きる上で大切なことだと思う。
引用:前掲書p63
世の中には自分の価値観と合わない人間が必ず存在します。それは会社の上司であったり、地元の古い友人であったり、様々です。中には何年も付き合った恋人がそうだったという場合もあるでしょう。青木さんはそうした相手と無理をして付き合うことに意味はないと言い切ります。
相手を怒らせたら怖いから、相手を傷つけたくないからなど理由はたくさんあるかもしれませんが、それらは自分の人生を犠牲にする理由にはなりません。「もうこれ以上関わりたくない」とはっきり伝え、すっぱり縁切りをすることが、お互いの人生を浪費しないためにも重要なやり方なのです。
「でも将来的に役立つ人間関係かもしれないし」と考える人もいるでしょう。しかし縁切りの後でも利害が一致すればまた手を組むようになるものです。青木さんもかつて所属した「DREAM」という団体を抜ける時、運営スタッフと一悶着あり、それまで築いてきた関係が完全に壊れてしまいます。ところがその半年後、同団体と外国資本団体との大会で、青木さんはその運営スタッフと一緒に仕事をすることになります。
再び手を組むという結果が同じなら、自分の人生を犠牲にして関係を継続するよりも、すっぱり縁切りする方が圧倒的に効率的なのです。
●全ての「決断」は自分で下せ

後悔しない理由として、全ての選択に対して自分で決断しているということが大きい。
引用:前掲書p57
「○○が言っていたから」「今話題になっているから」そうした理由で何かを決断していると、その決断がうまくいってもいかなくても後悔する可能性があります。「空気」を読んで思考停止のまま決断すると、自分以外の何かのせいにしてしまうからです。
これに対して選択肢を自分で吟味し、「これ以上の選択肢はない」と考えたうえで決断すれば、うまくいけば「自分の成果」、うまくいかなければ「自分の責任」と納得できます。
青木さんは一時期格闘技界で流行した「ハイパーリカバリー」という減量方法を例に挙げています。ハイパーリカバリーとは試合前日に体重を計測する格闘技界のルールを利用して、計量直前に大量の汗をかいて体重を軽くし、計量後に水分補給などをして体重を戻すという方法です。計量前後で10kgも体重が変動する選手もいたのだとか。
この方法は試合当日は比較的体重を重く保ったまま戦えるので有利だという考えから生まれたものですが、多くの選手がこの方法を採用するなか、青木さんは取り合いませんでした。
なぜなら青木さんは自分が最大限のパフォーマンスを発揮できるのは、計量前後の体重差が3〜4kgだと考えており、ハイパーリカバリーは自分の体に余計な負担をかけ、パフォーマンスを低下させると判断したからです。現在ハイパーリカバリーの流行は過ぎ去り、計量前後の体重差が小さい方が高いパフォーマンスを発揮できるという考え方が主流になっています。
この考え方は転職活動においても応用できます。周囲の助言や世間の風潮にあてられて「自分も転職した方が良いのかな」などと考えて転職活動を始めるのでは、仮に転職できたとしても「前の会社の方が良かった」と嘆くのが関の山。空気に吞まれないためには自分の頭で考えて、自分で決断することが重要です。
正しい「空気」との付き合い方を身につけよう
一般的な会社員の場合、フリーランスの格闘家である青木さんのように徹底して空気を読まない姿勢をとってしまうと、まともに会社生活を送ることはできないかもしれません。しかしだからこそどこかしらに自分の孤独を守り、自分の人生を守る意識を持っていなければ、あっという間に「空気」に呑まれてしまいます。
それは正しい「空気」との付き合い方ではありません。いきなり青木さんの真似をするのは難しいですが、少しずつ自分の中に孤独を養うトレーニングを積んでいきましょう。それこそが自分の人生を確立する基礎体力になるはずです。
参考文献『空気を読んではいけない』

