「あなたは今、どんな仕事をしていますか?」
「あなたは、一体どんな人ですか?」
これらの問いに対する答え、あなたはいくつありますか?もし、1つずつしか答えられないとすれば、ぜひとも、松岡正剛氏の『知の編集術』という本を手にとってみてください。
そこには、“編集”という方法を用いて、あらゆる物の考え方について書かれています。松岡氏は編集者であり、多くの著作を世に生み出している大家です。
編集にまつわる本だけでなく、本に関する著作も多く、「千夜千冊」という読書サイトを知っている人も多いのではないでしょうか。
この本には、物事が多面的に見えるようになるだけではなく、考え方そのものについて書かれてあります。
その考え方をマスターすることで、先程の問いに対する答えが一気に増えるだけでなく、日常の会話や、社会問題、明日着る服について考える時も、以前とは異なる考え方をするようになるでしょう。
それでは今回は、松岡正剛氏の『知の編集術』『知の編集工学』を中心に、その考え方に迫ってみたいと思います。
誰もが毎日編集をしている
松岡氏の言う“編集“とは、単に情報を書物などの形にするといったことでなく、頭の中で情報を束ねたり、表現の順序を考えたりといった、人間の知的営み全体のことです。
つまり、日常の会話も編集、映画も編集、芸人のネタも編集、スポーツのルールさえも編集。
そう、“編集“は、実はあらゆる場面にひそんでいるんです。雑誌の編集や映像の編集だけではなく、日々の生活や仕事を動かしているのも、実は「編集」の力。
松岡氏が提唱する“編集工学”では、編集を以下のように捉えています。
記憶と想起、選択と行動、認識と表現といった情報のIN /OUT のあいだにひそむ営みを「編集」と捉えます。 編集は、情報を取り扱う創造的な行為であり、コミュニケーションの奥で躍動するエンジンです。
この“編集工学”を学び、編集のプロセスや機能を意識的に取り出し、技術として高めることによって、日々の生活・仕事がさらに効率よくなったり、新たな方法を発見できるでしょう。
“編集”は、どんな仕事にも役にたつのか?

では、この“編集”が、具体的に仕事にどのように役に立つのでしょうか。
効率を上げること? 儲けること?
松岡氏曰く、「仕事というのは、そのシステムにかかわっていく」ということです。そのシステムは、複雑かつ何種類もあり、編集とは、そのシステムの問題を見つけ、その問題を解決することです。
松岡氏曰く、仕事とは、
(1)問題を立てる
(2)その問題を解決するためのしくみをつくる
(3)そのためのシステムと共演する
(4)そのシステムは社会とつながっていることを知る
(5)それゆえどんな仕事もシステムの複雑性にかかわっていくことになる。
この5点でできているのです。
松岡氏は「二十一世紀は、方法の時代になる」と述べています。”方法”とはつまり、”主題(議論すべき問題などのこと)”ではなく、解決を見出す方法こそが大事であるということです。
すでにわれわれは二十世紀においてだいたいの主題を提出し、その展開が意外にも難題をたくさんかかえていることを知った。たとえば平和、たとえば教育問題、たとえば安全保障、たとえば経済協力、たとえば環境保全、たとえば飢餓脱出……。これらは地球上のどんな社会にとっても、いまた最も重要な主題として認識されている。(中略)つまりどのような主題が大事かは、だいたいわかってきて、ずらりと列挙できているにもかかわらず、それだけではけっしてうまくはいかなかったのである。それゆえ、おそらく問題は「主題」にあるのではない。きっと、問題の解決の緒はいくつもの主題を結びつける「あいだ」にあって、その「あいだ」を見出す「方法」こそが大事になっているはずなのだ(39ページ)。
例えば、花屋さん。今の花屋さんは単に花を売るだけではなく、ギフト屋でもあり、ライフコーディネーターでもあります。そうなると、花の知識が豊富なだけではやっていけません。
知のありようが変わると、仕事の内容も変化します。
あなたの仕事は何でしょうか? そしてその仕事は、ただの花屋さんではなく、一体ほかにどんな知がついているのか、考えてみてください。
そうするだけでも、自身の仕事のあり方、身についている知とこれから身につけたいと思っている知のあり方も変わってくるのではないでしょうか。
思考力にも表現力にもつながる、六十四の編集技法

では松岡氏の“編集工学”にはどのようなものがあるのか、『知の編集術』より少しだけ紹介したいと思います。
編集には、「十二の編集用法」があり、そこからさらに、六十四の編集技法にわかれています。大きく分けると、「編纂」(5つ)と「編集」(59こ)の2つに二分されます。
たとえば、“情報群を意味単位に分節して編集すること”については、「編定」「要約」「凝縮」の3つの技法があると述べられています。
また、“隠れたアイテムや意味やイメージを連想的に拡張する”には、「暗示」「相似」「擬態」「象徴」の4つの技法があります。こういった方法が全部で64個。それらの方法は決して難しいものではありません。
むしろ普段から意識せずに私達が使用していて、意識せずに使っているものばかりです。しかし、そこには、私達の認識・思考・連想の仕方から記憶・再生・表現の仕方にいたるほどんどの方法が網羅されています。
この「六十四の技法」を知ることで、より意識して編集技法を使うことができます。興味を持った方は、ぜひ本を手にとってみてください。
「知」の編集をしよう

今、世の中は情報が大量にあふれています。何を選択するのか。また、どんなふうに編集するのか。その決断を私達は日々迫られています。
『知の編集術』では、それを鍛えるべく「編集稽古」という形の問題と模範解答が掲載されています。
その内容は、ごく身近な問題を取り上げているにもかかわらず、ふだん使わないような頭の使い方をするため、まさに書名通り、「知」の編集。
興味を持った方は、松岡氏の著書を手にとり、情報過多の時代を生き抜くために、必要な“知”を、身につけてみてください。
参考文献:松岡正剛『知の編集術』 松岡正剛『知の編集工学』
[文] 遠野蒼[編集] サムライト編集部