ネットスラングの登場はネットメディアの〝映し鏡〟か

ネットスラングの登場はネットメディアの〝映し鏡〟

「ネット文化のヘソ」―ともいわれるネットから生まれた様々な言葉。その中でも最も批判の的になっているネットスラングは、「ツイッター語」や「ギャル語」などと親戚付きあいをしており、流行語大賞にも影響を与えています。

例えば、意にそぐわない意見や主張に対してイナゴのように群がり炎上させるのが「ネットイナゴ」。ネットの中だけで強がりを言う人を内弁慶ならぬ「ネット弁慶」。ネットでアレコレ指南をすることを「ネット指南」と言うそうで「炎上」もネットスラングから誕生した言葉と見てもいいでしょう。

作家で野間文芸新人賞を受賞した中沢けいさんは、ネット上の言論や管理についてシビアな発言をしています。前述したスラングは中沢さんがコラムで取り上げたものですが、ネットと人々の関わりについて次のように記しています。

私もまたネットで情報を得て、ヘイトスピーチデモのカウンターに出たり国会前に足を運んだりしている。それで覚えたネットスラングが幾つもある。まず、最近は旧来のメディアでも目にする『ネットウヨク』。短くして『ネトウヨ』と言うことが多い。数々のネットスラングが生まれるほどネットは生活の中に入り込み、路上の生活を変えている(日経8/23付文化面抜粋)

中沢さんは動画サイトで「ヘイトスピーチをする人間は3歳児のようなものであり、反論するのではなく叱りつけるしかない」と厳しい発言もしています。

ヘイトとスラングは違うかも知れませんが、通底では通じるものがあるかも・・

いまアカデミックな分野でネットスラングの論考が盛んに行われ、言葉の出自や属性、社会的影響力などが興味深く分析されています。

ネット上のニュースは百花繚乱のように活況。スマホ向けのキュレーションメディアの進化や、まとめサイトの多様化でネット語が生まれる環境としては申し分ない。例えば、スラングが一発屋芸人のようなワンフレーズコピーとして市民権を得たり、友達だけにしか通じない符丁としての言葉が横断的に広がったり・・スラングが引き金になって、ネットと実際のリアルな活動が結びついているのも最近の特徴。ただ威圧的なスラングが問題なのです(メディア評論家)。

「どうせネットスラングだから」と軽視出来ない、単におもしろがれない、はしゃげない危険性を、スラング自体が持っている現実。実はここにスラングの発信者と対象者、ウエブ関係者、私たちとって悩ましい問題があるのです。

毒にも風刺にもブラックユーモアにもなるスラングの功罪

Group of Young People celebrating Halloween on Tokyo Street

ネットスラングって「社会を映し出す言葉だよね」と「爆買い」や「DQN」「ツンデレ」の意味をネットユーザー、それもヘビーユーザに投下しようとしたら、「うぜー!」と一笑されそうです。

それでも雨後の竹の子にように、ネット上にはスラングや兄弟分のツイッター語、ギャル語、新語・造語が発信者の様々な意図や思惑でアップされています。ここだけの話ですが「お年寄りにも分かるネットスラング大辞典」を出版したらブレイクしそうです。なにしろネタと珍解説には困らないのですから・・・

「オワコン」→一時流行ったが、いまはすでに賞味期限。人気がない人。
「ツンデレ」→ツンツンしているが二人きりになると甘えたりすること。
「メシウマ」→他人の不幸でご飯がおいしいこと。他人の不幸は蜜の味。
たまたま目に付いたネットスラングを3つだけ紹介しましたが、ジャンルは多岐に渡っており、身の上・身の下話から生き様、時代の閉塞や孤立感・・など時代に寄り添いながらも、漂流感や彷徨がベースになっています。

時代はカオス状態にあり、格差社会で閉塞状態になってくると、ストレスの発散や対象人物への個人攻撃、威圧が増える傾向にあります。言葉のヴァイオレンス、暴力的なスラングが目立ち、中にはネットの秘匿性を利用して学歴オタクを装い、上から目線で自作自演の内容も目につきます。確かにネットスラングは時代を写す鏡ですが、その風景は暗転しています。もうちょっとウイットに富んだセンスのある言葉が欲しいものです(シンクタンク研究員)。

「情報通信学会」の会員でメディアプロデューサーは、スラング発信者の投稿行為を次のように分析しています。

1. 横の連帯感を持ち合わせているよりは、孤立している人の投稿が多い
2. ゆるやかな連帯感を持ち合わせている場合は、グルーブに適した符丁のような言葉が目立つ
3. ネットの特徴として都市部、地域との発信地の地域格差はなく、若者文化の主体の内容でもない
4. 男性的な言い回しの多様で、そのため威圧的な言い回しが多い

年末に新語や造語、ヒットしたドラマの台詞や歌詞のフレーズが「その年の有り体を捉えている言葉」と選ばれています。新語・流行語大賞です。しかし一方では、ネットメディアは政治・経済から恋愛やセックス指南まで幅広いジャンルの情報を提供しています。ネット流行語大賞も新設されていますが、それだけネット語やスラングの投稿が活発になったためでしょう。

ネットスラングの文脈が活字メディアに与える影響

Toyota Announces Push For Environmetally Friendly Vehicles

「取材をしないネットメディアには、匀いや身体性がない」
気鋭のジャーナリストの発した言葉が引っ掛かります。取材の原則論で鉄則ですが、ネットに溢れるスラングやツイッター語などの言葉や文脈が、ウエブマガジンを発信基地としてどう生かされるでしょうか。

取材対象と対峙する取材法は活字もウェブも変わりませんが、筆者が紙に刻むように記す紙媒体と、字体が上下にスクロールされて、活字のリアリティが軽いウェブとでは、主題が同じでも書かれた重さは明らかに違うかも。一方スラングなどのネット語がネットでは市民権を得て、投稿者のセンスや新たな表現手法が注目される中、ウェブ流の新しい模索が必要になるかも知れない。活字とウェブを同じ天秤で比較すること自体、無理がある(雑誌記者)

「ネット時代のノンフィクションのあり方」は別の機会に取材するとして、
ネットスラングは一過性、一発屋として短い賞味期限を終えるのでしょうか・・・

実はネットメディアはスラングやネット語、さらに絵文字や動画の導入など、独特の表現ツールを保有し、情報ごとにキュレーションメディアとして様々なジャンルを細分化するなど、メディアの新しいモデルを創り始めている。ミクロ的にネットスラングを特化させることも興味深いが、ネットメディアの新たな文脈、コミュニケーションツールとして大局的に捉えた方がエキサイティング。ウェブ編集者もスラングなどネット語に徹底的にこだわり、それこそキュレーション情報として提供したらおもしろくなります(メディア評論家)。

もちろん「豆腐メンタル」は生きていくのが困難なほど繊細で、豆腐のように脆弱な精神のこと。「股下デルタ」は女性における股下と太ももとの間に出来る三角形のこと・・こうしたスラングは文学作品のレトリックの手法としても使われそうで、言葉の変化が社会ネットワークの変化をもたらしそうです。

スラングの話題拡散はネット時代の象徴か?

「すべてネットで学んだ」という孤独な若者がビジネスを始めたらどうなるか。ネットを狂信する若者と社会の荒廃を描いた米映画「ナイトクローラー」が話題になっています。

■メディアを信じない、ネットで疑似体験し、なんの躊躇なく現実社会に相対する。メディアの荒廃だけでなく、社会そのものの荒廃も描かれています。

「ネット世代の闇を暗示しているのか。スラングという不思議な言葉や符丁がどんな背景で発信されたのか。言葉の出自がはっきりしないだけに、笑を誘う誇張したフレーズに不気味さを感じる」とはメディア評論家。

ネットをサーフィンして「情弱」と「常考」のスラングが目につきました。今回の主題に関係ある「情報弱者」と「常識的に考える」という意味でした。

スラング一つひとつには、きっと投稿者の喜怒哀楽が詰まっているのに、みんなで共有出来ないもどかしさを感じるとの声が聞かれました・・・

[文]メディアコンテンツ神戸企画室 神戸陽三 [編集]サムライト編集部