あなたの成長は「知ったかぶり」で止まる!無知の知が身につく5つのヒント

「知ったかぶり」が癖になってませんか?

なんとなく知っている気になって「わからない」と言わなかったり、「教えて欲しい」と言えなかったりすることはないでしょうか。

人間は元来「知ったかぶり」をする生き物です。この性質は認知科学者による実験でも明らかにされています。そのため知ったかぶりをすること自体は、何も気に病むことではありません。

しかしそれが癖になり、無意識のうちに知ったかぶりをしているようなら注意が必要です。なぜなら知ったかぶりは人として、ビジネスパーソンとしての成長を止めるからです。

ここでは二人の認知科学者が書いた『知ってるつもり――無知の科学』を参考に、人間の「知っている」「わかっている」の曖昧さを指摘するとともに、知ったかぶりを止め、「自分が知らないということを知る」=「無知の知」を身につけるためのヒントを紹介します。

人間は「よくわからないまま」意思決定をする

まずはそもそもも人間が元来知ったかぶりをする生き物だというのは、どういうことなのかを、医療費負担適正化法(通称:オバマケア)の事例を通じて知っておきましょう。

2010年にアメリカで成立した医療費負担適正化法は、共和党によってバラク・オバマ政権の失策の一つとして指摘されてきた法律です。アメリカ国内ではこの法律の賛否を巡って激しい対立を生みましたが、2013年4月にカイザーファミリー財団が行った調査によれば、アメリカ国民の40%以上が医療費負担適正化法を法律として認識していなかったことはわかっています。

にもかかわらず、アメリカ国民はこの法律に対する立場を明確に表明することはできました。2012年に最高裁判所が医療費負担適正化法の主要な条項について支持する判断を下した直後に、ピュー・リサーチ・センターが行った調査によれば、36%が賛成、40%が反対、24%が意見を表明しなかったという結果が出ています。

つまりこの時のアメリカ国民は、そもそも議論をしている医療費負担適正化法がどういうものなのかをほとんどわかっていないにもかかわらず、40%もの人が反対意見をはっきりと表明していたのです。

このような例は古今東西、枚挙にいとまがありません。このことから、私たち人間が知ったかぶりをして、よくわからないまま意思決定をする性質があることがわかります。

成長には「無知の知」が必要

知ったかぶりが成長を止める

確かにあらゆる事柄について正確に決断を下そうとすれば、あまりにも時間がかかりすぎます。したがってある程度までは知ったかぶりをして、「なんとなく」の認識で決断を下す必要はあります。しかしそれが常になれば、知らないことやわからないことも「なんとなく知っているふり、わかったふり」をすることになるでしょう

こうなれば新たな学びのチャンスは激減しますし、判断ミスによる失敗のリスクも高まります。知ったかぶりはビジネスパーソンとして、人としての成長を止めてしまうのです。

無知の知が身につけば成長し続けられる

しかし私自身はそこを立ち去りながら独りこう考えた。とにかく俺の方があの男よりは賢明である。(中略)私は少なくとも自ら知らぬことを知っているとは思っていないかぎりにおいて、あの男よりも智慧の上で少しばかり優っているらしく思われる。
引用:プラトン『ソクラテスの弁明』久保勉訳、岩波文庫

これはソクラテス哲学を特徴づける思想の一つである「無知の知」のもととなった一節です。人間は知ったかぶりをする性質を持っていますが、その性質に甘んじている限り成長はストップしてしまいます。

その状態から抜け出すためには、自分自身が基本的には何も知らないという前提「無知の知」に立ち、そのうえで意思決定を下す必要があるのです。

無知の知が身につく5つのヒント

しかし無知の知を身につけるのは簡単ではありません。そこで以下では『知ってるつもり――無知の科学』の内容をもとに、少しでも無知の知の境地に近づくための5つのヒントを紹介します。これらを常日頃から実践していけば、無意識のうちに知ったかぶりをしたまま意思決定を下すような事態は防げるはずです。

「何を知らないのか」に意識を傾ける

何か意思決定を行う際、人は「自分が知っている情報」に意識を傾けがちです。しかしそれでは「自分が知らない情報」に目が向かず、知ったかぶりをしたまま意思決定を行う可能性が高くなってしまいます。

そこで「自分には知らないことがある」という前提に立って、「では何を知らないのか」と自問するようにしましょう。そうすれば自分がいかに無知であるかを自覚できるようになり、後から悔やむような意思決定をせずに済むかもしれません。

「知識のコミュニティ」を慎重に選ぶ

人は一人で全ての知識を網羅することはできません。しかし多面的な知識を持つコミュニティに所属していれば、自分以外の人の協力によって様々な知識を得られるようになります。ところがこうしたコミュニティは諸刃の剣でもあります。なぜならカルト教団や自分好みに編集したSNSタイムラインなどのようにコミュニティの知識が偏っているような場合、容易に間違った意思決定をしてしまうからです。

そのため正確な意思決定をするためには、できるだけ信頼の置ける「知識のコミュニティ」を選ぶ必要があるのです。

「自分の中の否定と拒絶」に敏感になる

自分の知識に自信がある人ほど、自分の知らない、あるいはわからない事柄に対して否定と拒絶を強く感じる傾向にあります。自分のプライドを守ろうとして「そんなはずがない」と言ってみたり、考える価値のない事柄だと自分に思い込ませようとしたりするのです。

これは自分が知ったかぶりをしようとしているサインだと言えます。そのため何か新しいことに出会った時には、自分の頭や心の中で否定や拒絶が起きていないかを入念にチェックするようにしましょう。もし否定や拒絶の原因が「知らないから」「わからないから」だとしたら、知ったかぶりが意思決定をゆがめようとしている可能性があります。

「ダニング・クルーガー効果」に注意する

様々な実験や、学校や職場、病院などの現場で、パフォーマンスが低い人ほど自分のスキルを過大評価し、パフォーマンスが高い人ほど自分のスキルを過小評価することがわかっています。このパフォーマンスが低い人ほど自分のスキルを過大評価するという性質は、心理学の世界で「ダニング・クルーガー効果」と呼ばれています。

パフォーマンスが低い人はその分野についての知識がなく、自分が全体のどのレベルにいるかを全く把握できないません。結果、自分を実際以上に高く評価してしまいます。これに対してパフォーマンスが高い人は自分が全体のどのレベルにいるかをある程度把握できるので、「まだ自分は成長しなければならない」と考えるのです。

こうしたパフォーマンスが低い人の性質を知っていれば、「自分はそこそこの実力者だ」と思った際に、「いや待てよ、これはダニング・クルーガー効果ではないか?」と思い直すことができます。きっとそれは、無知の知という前提を思い出すきっかけになるでしょう。

「無知」をポジティブに受け入れる

「知らないこと」「わからないこと」をごまかして、知ったかぶりをしようとするのは、そもそも「無知」をネガティブに捉えているからです。しかし実際のところ、無知にはポジティブな側面がいくつもあります。

バカは小利口に勝る。
引用:堀江貴文『多動力』

例えば堀江さんのこの言葉は、下手に知識を得た結果リスクに怯えて行動できなくなるくらいなら、バカのまま行動に移す人がチャンスを手に入れるということを意味しています。

また1961年5月、ジョン・F・ケネディは1960年代中に人間を月に到達させるという声明を発表しました。しかし実は、当時のケネディにはこのような発言をするだけの科学的根拠は一つとしてありませんでした。

いわば「60年代中の人類の月面着陸」は、ケネディの無知からきた妄想だったのです。ところがアポロ11号は1969年7月20日に月面着陸を達成。見事声明通りの結果を出しました。

無知はチャンスや挑戦を生み、成長へのカギにもなりうるのです。そのため無知を完全に排除しようとするのではなく、ときには無知を自分を成長させるバネとして利用する意識を持つようにしましょう。そうすれば無知であることを必要以上に怖がらなくなるので、結果的に無知の知という前提に立てるようになります。

「間違えられない状況」に備えよう

全てを理解し、その理解に基づいて意思決定を下すのは不可能です。そのため全ての意思決定が正確である必要はありません。しかし仕事や人生において重大な意思決定をする際は、できるだけ正確な判断を下したいもの。その際に自分の無知を自覚したうえで判断をするのか、自覚しないままに判断をするのかは、結果に大きな違いが生まれるはずです。

そうした「間違えられない状況」に立たされたとき、自分の無知に対してどのような態度を取るかを意識的に選べるように、ここで紹介した5つのヒントを日頃から実践しておいてはいかがでしょうか。

参考文献『知ってるつもり――無知の科学』
Career Supli
無知の知について考える良いきっかけになります。ぜひ読んでみてください。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部