マインドフルネスを身につけて、常識を疑え【『世界中のトップエリートが集う禅の教室』出版記念トークショー】

「マインドフルネス」を知っていますか?

今、Googleの社内研修でも取り入れられ、世界の優秀なビジネスマンの間で話題となっている「マインドフルネス」をご存知ですか?

第一人者であるジョン・カバット・ジン博士の定義によれば「今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく、能動的に注意を向けること」。自分自身の内面を客観的に見つめ直すことで、心のコンディションを整えることができるという考え方や、そのためのトレーニングのことを言います。

そのマインドフルネスや、その根本にある禅をビジネスマンにも馴染みやすいように解説した本が、『世界中のトップエリートが集う禅の教室』。5月某日、その出版を記念して著者の川上全龍さんと、協力者の石川善樹さんのトークイベントが開催されました。

川上さんは、グローバル企業のCEOやハーバード大学の学生など年間5000人に禅やマインドフルネスを教える、由緒ある禅寺の若き僧侶。その執筆に協力した石川さんは予防医学を研究する傍ら、ヘルスケアやウエルネスの講演を幅広く行っている医学博士です。

マインドフルネスの重要性を知る二人がイベントで語った話題は、大きく言えば「常識を疑う」こと。私たちがいかに無意識に常識にしばられているか、ここからは、石川さんが議題として投げかけた、私たちの常識を疑う問いを4つほど抜き出し、考えを深めていきましょう。

『どうして晴れが“いい天気”?』–『それは主観が決めている』

著者の川上全龍さん

著者の川上全龍さん

マインドフルネスを見につける以前から、もともとあらゆることに疑問を持ちやすかったという石川さん。彼は子供の頃に散歩をしている時に、「今日は良い天気ね」と言われて、「“良い天気”ってなんだ?」と考えたとのこと。「晴れているのが“良い天気”なら、雨の日は“悪い天気”なのか?“良い”ってなんだ?」と。

川上さんは“いい天気”という言葉は非常に仏教的だと話します。仏教では「良い・悪い」とは、相対的な価値判断で、自分自身が頭の中で作り出しているものだと考えます。

そのような主観を排していくのが、禅の瞑想であり、マインドフルネスの目的です。自分というフィルターを通して世の中を見ることをやめることで、物事の本質的な部分を見つめ直すことができます。

『「時間がない」ってどういうこと?』–『人生における優先順位がつけられていないということ』

執筆の協力をした、石川善樹さん。Tシャツのマークは川上さんと共同開発したマインドフルネスアプリ「MYALO」

執筆の協力をした、石川善樹さん。Tシャツのマークは川上さんと共同開発したマインドフルネスアプリ「MYALO」

石川さんの知人で「時間がない」が口癖の女性がいるそうです。石川さんはそれが不思議で、「『時間がない』ってどういうこと?」とその方に尋ねたと言います。1日24時間は誰にでも与えられているにもかかわらず、なぜ時間がないのか。

石川さんがその方と話した結果、「仕事が日々やることの優先順位2番目以下になっていて、1番やりたいことができていないから」という結論に達したそうです。毎日優先順位1位の活動を設定せず、ただ状況に流されて生きていれば、時間がない=やりたいことができていない、と思うのも当然だと。一人一人に与えられた時間の総量は決まっているのですから。

川上さんはこの議題に対して、自分たち宗教家の本当の仕事は「新しい生き方を考えること」だと説きます。そんな川上さんが人々に問いかけたいのが、「どういう風に死にたい?」という質問。私たちは“死”と隔離されて生きているため、明日死ぬかもしれないということがわかっていないとのことです。

明日自分が死ぬかもしれないと思って、生きる意味を深く考える。その上で、自分の人生における優先順位1位を見つけられれば、私たちが時間に追われることもなくなるのではないでしょうか。

『1+1の答えは?』–『2じゃないこともある』

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誰でもわかるような、「1+1の答えはなんだと思いますか?」という問い。もちろん、多くの方は「2」だと答えるでしょう。しかし、「1+1=2」が成り立つ前提には、特有の約束があります。「1+1」の答えが「2」でない世界も数学者は考えてきました。そして、現実世界には「1+1」が2でない世界で考えたほうが、うまく説明できる出来事が数多くあります。

この話題から川上さんは、自分が“正しい”と思っていることは、絶対に“正しい”わけではないということを説明します。同じように、日本の常識は必ずしも世界の常識ではありません。そこで、川上さんは旅行を勧めます。自分の常識が通じない世界に一歩踏み出す。そのことが自分の視野を広げ、新たな発想の種となるのです。

『人間の成長とは何か?』–『自己中心性から離れること』

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石川さんはマインドフルネスを始めた効能について「自分の感情のパターンに気づけた」と話しました。それを受けて川上さんは、「感情を受け入れてコントロールすることで自分中心の考えから離れることができる。そのことできっと自分の幸せや他人の幸せに行き着くことができる」と語りました。

そこで石川さんが最後に投げかけたのが、「人間の成長とは何か」という議題です。石川さんの考えによれば、それはまさに川上さんが語ったように、自己中心性から離れることだとのこと。

自身の成長をモチベーションとするビジネスマンは多いと思いますが、スキルセットを磨く前に、なんのために成長したいと思うのか、問いを立てるところから始めてみてはいかがでしょうか。

参照:『世界中のトップエリートが集う禅の教室』
Career Supli
マインドフルネスが重視する「今を大切に」という考え方は、アドラー心理学に通じるところがありますね。
[文]渡邉聡一郎 [編集]サムライト編集部