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押せば崩れる「豆腐メンタル」から脱け出したい
結果を出している経営者や、組織から認められているマネージャーなどは得てして強靭なメンタルを持っています。逆になかなか結果が出せない人、周囲から評価されない人ほど、押せば崩れる豆腐のようなメンタルを持っている傾向があります。
能力はあるのに、あるいはやりたいことはあるのに、豆腐メンタルが邪魔をして前に進めない。そんな状況から脱け出したい。
今回はそんな人のためにメンタルトレーナーの岡本正善さんの著書『打たれ強さの秘密 タフな心をつくるメンタルトレーニング』を参考にしながら、心を強くする6つのトレーニングを紹介します。
メンタルを強くするための6つの要素
以下で紹介する6つのトレーニングは、それぞれメンタルを強くするために必要な6つの要素に対応しています。すなわち「呼吸」「緊張」「集中」「イメージ」「目標設定」「リズム」です。
メンタルを強くするにはこの6つの要素をコントロールできるようになる必要があります。6つの要素はそれぞれ密接につながっていますが、図示すると以下のような関係性を持っています。
「メンタルを鍛える」というと何か特殊能力を手に入れるかのように考える人もいるかもしれません。
しかしそれは間違い。「強靭なメンタル」とはすなわち「本来の自分」なのです。いわゆる強い人間というのは自分の強さも弱さもきちんと受け入れて、そのうえでどうするかを決断できる人を言います。
一方で弱い人間というのは自分の強さを認められず、自分の弱さは隠したり見て見ぬ振りをしたりして、いつまでたっても動き出せない人のことです。
では本当の意味で強くあるためには、どんなトレーニングをして、どんな考え方をすればいいのでしょうか。以下で紹介していきます。
「呼吸」を1日5分×1週間で身につける

●自分の呼吸リズムを知るためのトレーニング
まずは5つの要素のパイプ役となる「呼吸」のトレーニングから始めましょう。やり方は非常に簡単。
「吐く時間は数時間の2倍かける」「口から吸って鼻から吐く」「落ち着いた環境で行う」この3つの条件を満たした呼吸を、1日5分×1週間やるだけです。
呼吸のリズムは「自分が一番楽だと思うリズム」でOK。無理に長くしたり、短くしたりする必要はありません。これだけで脱豆腐メンタルの第一歩が踏み出せます。
●呼吸は「潜在意識」へのアクセスツール
「たかが呼吸」と思うかもしれませんが、一流のスポーツ選手などもメンタルトレーニングの第一歩は自分の呼吸リズムを熟知するところから始めています。
なぜなら呼吸は「意識」と「潜在意識」のどちらにもアクセスできるエクササイズだからです。
例えば内臓の活動はどう頑張っても意識によるコントロールはできません。会議でのプレゼンやディスカッションを無意識でやることも普通は難しいでしょう。
しかし呼吸は無意識でもできて、かつ意識的に深くしたり浅くしたりすることもできます。したがって呼吸は意識と潜在意識の両方にアクセスできるといえるのです。
メンタルの強さを手に入れるにあたって潜在意識は非常に重要です。潜在意識で「失敗するかもしれない」と思っていれば、いくら意識で「失敗なんてしない。大丈夫だ!」と言い聞かせても、つい体は失敗する行動を取ってしまいます。
逆に潜在意識が「成功する」と確信していれば、自然と成功ルートに入っていきます。自分の呼吸リズムを知ることは、この潜在意識へのアクセス方法を知るということなのです。
「条件付け」で緊張状態を味方につける

●緊張状態をコントロールするためのトレーニング
強いメンタルを発揮するための前提条件のひとつ「緊張」。これをコントロールして「いい緊張感」で物事に臨むためのトレーニングが以下の方法です。
1.緊張を感じたら、自分のリズムで呼吸を行う。
2.息を吐きながら、あご、肩、腕、胸、腹、腰、太もも、ふくらはぎ、つま先の順に力を抜いていく。
3.吸うときに力を込め、吐くときに力を抜く。
4.体の部位ごとに30秒程度の時間をかけ、じっくり行う。
1〜4を実践すると一度緊張状態がリセットされ、そのあと潜在能力によって状況にふさわしい「いい緊張感」に調整されていきます。
その経験を重ねていくと、徐々に「この呼吸をしたら、自分はいい緊張状態に入る」という「条件付け」が行われ、どんな状況でも本領が発揮できるようになって生きます。
●「不安」「緊張」の正しい考え方
「そうはいっても不安になったり緊張したりする」と思うかもしれません。しかしそれは、この2つの概念を間違って捉えているからです。
不安と緊張は、元来人類に備わっている「本気スイッチ」です。不安が「このままではマズイ。なんとかしないと」という警告を体に与えると、体は緊張し「よし、やるぞ」というスイッチを入れる。原始時代で言えば、このあと逃げるか、戦うかのいずれかの選択を全力で実行するわけです。
これが不安と緊張の本来の役割なのに、メンタルが弱い人ほど潜在意識の本気スイッチを「不安になっちゃダメ」「緊張しちゃダメ」と意識で無理にオフにしようとします。
これではパフォーマンスが下がって当然です。もちろん不安も緊張も暴走すればマイナスに働きますが、うまくコントロールできれば最強のカンフル剤になるのです。
1日5分×1週間の「集中力増強」トレーニング

集中力不足の状態で仕事をすれば失敗するのは当たり前。しかし「集中しなきゃ」と思ってもどうにもなりません。「集中しなきゃ」という意識は「集中していない自分」という潜在意識を作り出すからです。
この状況から脱け出すには、「集中できる自分」を作り出す訓練を積む必要があります。やり方は以下の通りです。
1.自分のリズムで呼吸を行う。
2.手のひらのどこか一点をじっと見つめる。
3.5分間何も考えないように努める。
4.何か考えが浮かんだら、「考えが浮かんだ自分」を受け入れて、もう一度集中する。
5.これを1週間続ける。
こうして「呼吸」と「集中状態」を結びつけておけば、またしても潜在意識に条件付けが行われます。スイッチを入れれば、集中できるようになるのです。このトレーニングがカフェや電車などの集中しづらい環境でできるようになれば、かなり集中力が増している証拠です。
1日5分×1週間の「イメージ力増強」トレーニング
●五感全てでイメージするトレーニング
悪いイメージに囚われると潜在意識が引っ張られ、実際に悪い結果を呼び寄せます。逆に良いイメージを描ければ良い結果を呼び寄せることが可能です。
そのためには潜在意識にできるだけ強烈にイメージを焼き付けなければなりません。そこで役立つのが五感すべてを使ったイメージトレーニングです。
『打たれ強さの秘密 タフな心をつくるメンタルトレーニング』で紹介されているのは、お風呂に入っている自分をイメージするトレーニングです。
シャンプーの香り、お湯の温かさ、リラックスした気持ち、鼻の頭の汗、浴槽から溢れ出るお湯の音、湯気が充満している浴室……できるだけ詳細にイメージします。最初は風呂から出た直後に自分のリズムで呼吸をしながら行い、徐々に時間と場所を変えていきます。
●イメージ力は潜在意識と行動を加速させる
このイメージ力を活用すると、例えば「今のプロジェクトを成功させたあとの自分」とか「転職に成功して毎日が充実している自分」といったイメージも自在に思い描けるようになります。
そうすれば潜在意識もそのイメージに向かって動きだし、実際の行動へとつながっていきます。
京セラの創業者稲盛和夫氏は著書『生き方』の中で、成功したときのイメージをカラーで思い描けるようになるまで考え続けろと書いていますが、これは「イメージ力を鍛えろ」というメッセージに読み替えられるでしょう。高いイメージ力は大きな成功をもたらすのです。
「正しい目標設定」の習慣を手に入れる

●目標設定のトレーニング
イメージ力が高まれば、目標設定のトレーニングに移行できます。本来目標とは「考えただけで心がワクワクして楽しくなるもの」です。
しかし社会で目標というと「ノルマ未達」「前年比減」といった重苦しい単語と結びつきがち。
それは自ずとパフォーマンスを下げ、メンタルの弱体化へとつながっていきます。この状況から脱出するためのトレーニング法が、以下の4ステップです。
1.理性抜き、理屈抜きで「3年後のなりたい自分」をざっくりと思い描く。
2.「3年後のなりたい自分」の詳細をイメージしていく。誰といて、どんな気分で、どんなものを見て、聞いて、嗅いで、触って生きているか?
3.「3年後のなりたい自分」に結びつけて「2年後のなりたい自分」「1年後のなりたい自分」を細かくイメージしていく。
4.最後は「3年後のなりたい自分」になるために「今日何をすればいいか」までイメージする。
これを1日数分実践してみましょう。なおあくまでトレーニングなので、4でイメージした内容を実行しなくてもかまいません。しかしもちろん実行してもかまいません。
●「目標」と「失敗」と「他人」の関係
他人に押し付けられた目標ほど心が踊らないものはありません。心が踊らなければ潜在意識のスイッチも入らないので、パフォーマンスも上がりません。
強靭なメンタル=本来の自分からはどんどん遠ざかってしまいます。実はこの関係は失敗についても同じです。本来他人がいなければ「失敗」は存在しません。
「間違ってるぞ」とか「あの人、できてない」「どうしてできないの?」といった他人からの言葉や視線が、「失敗した!」という気持ちにさせ、私たちをその結果に縛り付けるのです。
個人的な趣味で何かうまくいかなかったときのことを思い出してみましょう。自分だけの世界で失敗しても「あ、やっちゃったな。次はこうしよう」とすぐにやり直したり、改善策を考えたりできるのではないでしょうか。
このように考えると、いかに失敗に、そして他人に囚われていることが馬鹿馬鹿しいかがわかるはずです。
もちろん仕事での失敗で他人からの視線や意見を無視することはできません。しかし少なくとも「失敗した!」という気持ちに囚われて、その場で打ちひしがれる必要はないのです。
「体のリズム」=「体内時計」を正常化する
●毎朝の起床で「体のリズム」を作るトレーニング
イメージトレーニングで鍛えたイメージ力は、「自分のリズム」を作り出すためにも役立ちます。
例えば「朝早く起きよう」と考え、アラームを6時に設定し、実家にモーニングコールを頼んでも起きられない人がいます。
こうなる原因は物理的な環境だけ整えて、自分の潜在意識での環境が整えられていないからです。
・時計の「6:00」の文字
・アラームの音
・まぶた越しに感じる朝日
・布団の外の空気の温度
・目覚めた時の清々しい気分
自分のリズムで呼吸をしながら、そうした「起床後の自分」を詳細にイメージしておけばアラーム前に目がさめるはずです。
このようなイメージトレーニングを重ねれば、就寝時間が遅くても体のリズムを崩さずに生活できるようになります。
●「自分のリズム」=「自分のペース」
体内時計が重要になるのは何も起床時だけではありません。「○時になったら仕事モード」「○時になったらプレゼンモード」というように、毎日の生活の中では自分のモードを切り替えなければならないタイミングが無数にあります。
しかしそこで体が心についていかないと、結局集中を欠いたり、緊張をコントロールできずに失敗し、「やっぱり自分はダメなんだ」と落ち込みかねません。
だからこそ自分のリズムでモードを切り替えられるようにトレーニングが必要です。この意味で「自分のリズム」=「自分のペース」と言い換えることができるでしょう。
呼吸とイメージで自分のペースを取り戻す。毎朝の起床イメージトレーニングは、そのための練習なのです。
あとは実戦に臨むべし

ここで紹介するトレーニングは概ね「1日5分」で終わります。真面目な人ほど「そんなんじゃ足りない!もっとできる!」とトレーニング時間を延長したくなるかもしれません。
しかしそれは本末転倒です。これらはあくまで強靭なメンタル=本来の自分を取り戻し、結果を出すための練習だからです。きちんと練習を積んだら、あとは毎日の実戦の中で磨いていけばいいのです。くれぐれもトレーニングのためのトレーニングにならないよう注意しましょう。
参考文献『打たれ強さの秘密 タフな心をつくるメンタルトレーニング』
