資本主義アップデート!家入一真が提案する「小さな経済圏」とは?

「小さな経済圏」という選択肢

口には出さずとも、どこかにひっそり抱いているなんだか生きづらいという気持ち。「会社に勤めて働くこと」「結婚して、子供を育てること」そんな世の中が当たり前とする生き方に対して、どこか自分にフィットしていない気がしている人は、きっと少なくないはずです。

クラウドファンディングサイトCAMFIRE取締役を務める家入一真さんは、様々な事業を通じてこうした「なんだか生きづらい人」たちの居場所を作ってきました。

ここでは家入さんの新著『なめらかなお金がめぐる社会。あるいは、なぜあなたは小さな経済圏で生きるべきなのか、ということ。』を参考に、家入さんが提案し、仕事や消費、ひいては人生における新たな選択肢となる「小さな経済圏」について紹介します。

資本主義をアップデートするビジネス

●システム「資本主義」の機能不全

多くのところで指摘されている通り、今世界が採用している「資本主義」というシステムが少しずつ機能不全を起こしています。例えば「平等」の概念。

平等には資本主義的な「機会の平等」と社会主義的な「結果の平等」がありますが、今の日本に対してこの機会の平等が徹底されていると断言できる人はいないでしょう。

競争におけるスタートラインにせよ、競争から一度脱落した人が復活する仕組みにせよ、まだまだアップデートの余地があるのです。

こうした「スタートラインに立てない人」「競争から一度脱落した人」に居場所を与える仕組みがあれば、日本の資本主義は少しだけアップデートできるはず。

以下で紹介する無料ECサイト「BASE」と株式会社ハッシャダイの「ヤンキーインターンシップ」は、そんな資本主義をアップデートするための小さな、しかし力強いビジネスモデルの一例です。

●無料ECサイト「BASE」

画像出典:BASE

「BASE」は初期費用・月額費用ともに0円で、ネットショップを開設できるサイトです。このサイトは当時大学生だったBASE株式会社CEOの鶴岡裕太さんが、「地方に住む彼のお母さんでも使えるようなECサイトが作りたいという思いがきっかけ」(引用:前掲書p88)で作ったもの。

つまりITの知識やスキルがない人でもECサイトが始められる、つまり「スタートラインに立てない人」を手助けするというコンセプトが根幹にあるのです。

テンプレートを使うだけでオリジナルのECサイトが作れたり、面倒な手続きをしなくてもクレジットカードなどの決済方法を利用できたりと、ECサイトを始めるというハードルを大幅に引き下げるサービスを提供しています。

また、BASEでは自分が描いたイラストや画像をアップロードするだけで、オリジナルデザインのTシャツやスマホケースが作れたり、ショップブログを運営側がキュレーションしてショッピングメディア「BASE Mag.」に掲載してくれたりと、独特な視点からのサポート体制も備えています。

2012年から始まったこのサイトの現在のネットショップ数は40万以上。ひとつひとつの店舗の規模は小さいかもしれませんが、この店舗数は他の大手ECサイトを圧倒する多さです。

●株式会社ハッシャダイの「ヤンキーインターンシップ」

画像出典:YANKEE INTERN

家入さんが「いま最も注目している若手起業家」として名指しする久世大亮さんが代表取締役を務める株式会社ハッシャダイ。「ヤンキーインターンシップ」は同社が提供しているサービスで、16〜22歳の東京以外在住の中卒・高卒者限定のインターンシッププログラムです。

海外研修や英会話研修、人間力研修や就活講習、著名人や企業の講習などのカリキュラムが無料で受けられるほか、東京での生活体験期間の「職・食・住」の全てが無料。

これは協力企業や公的機関、採用企業などからの支援金・報酬・紹介料でビジネスモデルを構築しているからです。しかもインターンとして提携企業で働いた分は、給料も支払われます。

大卒に比べて就職先の選択肢が圧倒的に狭まるだけでなく、自身の世界観も狭くなりがちないわゆる「ヤンキー」たちに可能性を見つけてもらう。ヤンキーインターンシップにはそんな想いが込められています。

このサービスの最大の魅力は、ともすると「綺麗事」になりかねないコンセプトを、しっかりビジネスとして昇華している点でしょう。どんなに社会的、道義的意義があったとしても、それがビジネスとして確立しなければ継続できませんし、後発も生まれません。

資本主義をアップデートするためには、あくまで資本主義のルールの中で、資本主義の機能不全を解決する方法を見つけなければならないのです。

「大きな経済圏」から「小さな経済圏」へ

●資本主義をアップデートするための「CAMPFIRE」という発想

家入さんがこれまで立ち上げてきた事業には、激安レンタルサーバー「paperboy」やプロジェクトベースで働くコミュニティ「解放集団Liberty」、現代の若者たちの駆け込み寺をコンセプトとするシェアハウス「リバ邸」、無料のプログラミング合宿サービス「青空学区」などがあります。

家入さんは著書の中でこれらの事業を並べ、「自分が色々やってきた数々の活動や経験は全てCAMPFIREというブラットホームに落とし込めると思っている」と書いています。

なぜならCAMPFIREのサービスを利用すれば、これまでは「お金がない」で諦めていたたくさんのアイディアを、手数料8%という低コストで実現できる可能性があるからです。

それがたとえ5万円でも10万円でも、「スタートラインに立てない人」「競争から一度脱落した人」がチャンスをつかむきっかけになります。

CAMPFIREを始めとするクラウドファンディングのサービスというのは、そうしたこれまでの機会の不平等を是正する機能を持っているのです。

●「小さな経済圏」が必要とされる時代

これまで個人の消費や貯金に回されていたお金が、クラウドファンディングによって循環し始める。こうした先に家入さんが見ているのが、「小さな経済圏」というコミュニティです。

個人や地域レベルで小さなつながりを持ち、支え合っているコミュニティのことを、僕は「小さな経済圏」と呼びたい。引用:前掲書p7

高度経済成長期は日本に「大きな経済圏こそ正義」という価値観を浸透させました。大きな経済圏は「成長」や「拡大」を目指します。そのためには「成長率」や「前年対比」のような一定の指標が必要とされ、それこそが幸せの指標だとされます。

しかし今の日本でこれらの指標だけが幸せと直結していると考えるには無理があるため、その結果大きな経済圏の中で「生きづらい」と感じる人も増えているのです。こうした人たちが生きるべきなのが、小さな経済圏というコミュニティです。

●「小さな経済圏」のある海士町


島根県の隠岐の海に浮かぶ島の一つ「海士町(あまちょう)」は、本土からフェリーで片道4時間ほどかかる人口2,400人の町です。家入さんはこの町に出会ったときに初めて「小さな経済圏」という言葉を思いついたのだそうです。

この町の生活は都会的な便利さとは隔絶されたところにあります。ショッピングモールもコンビニもなければ、ECサイトの「翌日配送」も常に対象外です。

そのため未だに住民間での物の貸し借り、物々交換が当たり前。お互いが支え合うのが当たり前なのでたくさん稼いで、事業を拡大して……という大きな経済圏的発想もありません。

だからといって日本の地方にありがちな疲弊感があるわけではありません。海産物をインターネットを利用して販売したり、隠岐牛のブランディングに成功したりしながら、人口の10%にも上る移住者(しかも20〜30代が大半)を集め、財政破綻の危機も乗り越えています。この町は、小さくてもちゃんとした経済圏として成立しているのです。

●「小さな経済圏」では信用力がモノをいう

小さな経済圏では、「個人や地域レベルで小さなつながりを持ち、支え合っている」がゆえに信用力がお金と同じような価値を持ちます。例えばTwitterのフォロワー数が1万人いても、その中に1人もその人を信用していなければ経済圏は生まれません。

一方でフォロワー数が50人でも、その中の10人が「この人のためなら10万円まで支援できる」と思っていれば、それだけで100万円分の何かができることになります。

ソーシャルメディア上での影響力を測定する「Klout」や、自動車配車サービスの「Uber」、民泊サービスの「Airbnb」といったビジネスモデルのほか、YouTuberという職業なども信用力がモノをいう世界です。

ではこうした世界に飛び込むにはどうすればいいのでしょうか。家入さんは元「日本一有名なニート」phaさんとの対談の中で、次のようにアドバイスしています。

同じような活動をしている人の近くでゆるっと手伝ったり、そこに属してみたりとかしながら、少しずつ自分の経済圏を作っていけばいいと思います。引用:前掲書p127

まだ信用力の蓄えのない人が、いきなり小さな経済圏を作ろうとしてもなかなかうまくいきません。しかしすでにある経済圏にお邪魔させてもらって、その中で信用力を蓄えていけば、自ずと経済圏につながっていく、というわけです。

「なんだか生きづらい人」にも居場所がある

インターネットのなかった時代には、個人にとって今いる場所が全てで、「生きづらい」と思っても我慢するしかありませんでした。しかし今や選択肢は無限にあり、自分では「夢物語」だと思っている生き方を実践している人たちがたくさんいて、その人たちとつながることだってできます。

「なんだか生きづらい人」にも、居場所はあるのです。転職・独立・起業・移住などいろいろな選択肢がありますが、そのコンセプトに「小さな経済圏を作る」というエッセンスを加えてみてはいかがでしょうか。

参考文献『なめらかなお金がめぐる社会。あるいは、なぜあなたは小さな経済圏で生きるべきなのか、ということ。』


Career Supli
どこか生きづらいと感じている人はぜひ読んでみてください。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部