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勘違いしやすい「ギブアンドギブ」の精神
「ギブアンドテイクはやめて、ギブアンドギブの精神を実践しよう」近年堀江貴文さんをはじめ、名だたる成功者たちが与えることの重要性を説きはじめています。これに感化されて、「よし、積極的に自分から与えていこう。そうすれば回り回って誰かが何かを与えてくれるはずだ」と考えた人もいるのではないでしょうか。
しかしこの考え方では残念ながら成功者にはなれません。なぜならこれは偽物の「与える」思考だからです。そこで知っておきたいのが多くのプロアスリート、経営者へのメンタルトレーニングで知られる辻秀一さんが著書『「与える人」が成果を得る』で紹介している本当の意味での「与える」思考です。
ここでは辻さんの紹介する「与える」習慣の基本と、簡単な実践方法について解説します。
「与えた分だけ返ってくる」はもうやめよう
「よし、積極的に自分から与えていこう。そうすれば回り回って誰かが何かを与えてくれるはずだ」という考え方は、簡単に言えば「与えた分は必ず返ってくる」というものです。
しかし自分以外の誰か(もしくは何か)からの見返りを求める以上、それは「与えられない」「与えられても時間がかかる」というリスクを常にはらんでいます。何かしらの結果とは、常に他人や運も含む多要因・他要因によって生み出されるからです。
にもかかわらず見返りを求めている人は見返りがないとモチベーションや集中力、実行力を失ってしまい、パフォーマンスを低下させてしまいやすくなります。これでは結局成功することなどできません。
「認知脳」から「ライフスキル脳」に切り替える

ではどうすればいいのか。答えの一つは脳の切り替えにあります。辻さんは20世紀を代表する心理学者の1人であるM.チクセントミハイが提唱した「フロー理論」に基づいて、人間の脳にはフローな状態とノンフローな状態があるとしています。
さらに辻さんはフローな状態を「機嫌が良い心の状態」、ノンフローな状態を「機嫌が悪い心の状態」と定義づけ、より高いパフォーマンスを発揮するためには、自分を機嫌が良い心の状態であるフローな状態にしておくべきだと指摘します。
しかし実は私たちが日頃使っている脳は「認知脳」といって、ノンフローな状態になりやすい脳です。認知脳は「環境」「出来事」「他人」という3つの要素に意味付けをして世界を認識し、分析や論理づけなどを行う役割を担っている重要な脳ですが、ついネガティブな意味づけをしてしまうという欠点があります。
そのため自分をフローな状態にするためには、「環境」「出来事」「他人」という外的な要因をもとに世界を認識する認知脳ではなく、自分の「好き」や「楽しい」をもとに世界を認識し、自分の機嫌を取ることができる「ライフスキル脳」を積極的に使えるようになる必要があるのです。
この認知脳とライフスキル脳という2つの脳を自分の思うように切り替え、両方の強みを生かした脳の使い方を「バイブレイン」と呼びます。認知脳は現代人がこれまで使いこなしてきた脳で、いわば母国語のようなもの。したがって現代人が意識的に学び、身につけるべきはライフスキル脳の使い方と言えます。
ライフスキル脳の鍵は「与える」思考

ライフスキル脳を使えるようになるための鍵こそが、冒頭で触れた「与える」思考です。辻さんによれば、この思考は次の3つの思考が原則となっています。
○応援思考
○感謝思考
○思いやり思考
単純化して言えば、誰かや何かに対して「頑張れ」「応援しよう」と思うこと、「ありがたい」「ありがとう」と思うこと、思いやろうと考えること。これらが「与える」思考の基本であり、全てなのです。
しかしここで注意したいのが、5W1Hを考えないことです。誰に、いつ、どこで、何を、どのようにして応援や感謝、思いやりを与えればいいのかと考え始めると、必然的に与えたあとの結果や見返り、損得を考えてしまいます。これは認知脳の分野で、ライフスキル脳の分野ではありません。
したがって「与える」思考を身につけるためには、「ただ与える」ことを知らなければなりません。誰かを何かのために応援するのではなく、ただ「頑張れ」と応援する。何かに感謝することで自分が得をするから感謝をするのではなく、ただ「ありがとう」と感謝する。見返りを求めずに思いやりの心を持つ。
そうした思考がライフスキル脳に働きかけて自分の心が整っていけば、自然と機嫌が良くなり、パフォーマンスが上がります。パフォーマンスが上がれば自分の本来の力が発揮できるようになり、結果的に成果や成功につながるというわけです。これが多くの成功者が指摘する、本当の意味でのギブアンドギブの仕組みなのです。
「与える」思考を習慣化する4ステップ

とはいえ「いきなりただ与えろって言われても……」と感じる人が大半ではないでしょうか。辻さんによれば、それは自分自身がフローな状態であることに価値を見出せていないからです。フローな状態であること、つまり機嫌が良い状態でいることが自分にとって価値のあることだと心底納得がいけば、人は自然と「与える」思考をするようになるからです。
フローな状態であることに自分から価値を見出せるようになり、「与える」思考を習慣化するためには、次の4ステップを踏んでいく必要があると辻さんは言います。
①脳と心の仕組みを知る【知識】
②知識をもとに心を整える思考を意識する【意識】
③心が整ってフローな感じを実際に感じる【体感】
④体感したフローの体験を誰かと共有する【シェア】
引用:前掲書p111
知識とは頭で理解する部分、すなわちここまで解説してきたような内容です。これをもとに自分の機嫌がパフォーマンスにどんな影響を与えているか、自分の機嫌は今どんな感じか、「ただ与える」とはどんな思考なのかを意識するようになるのが2つ目のステップです。
多くの人は自分の機嫌や自分がフローな状態にあるかどうかを気にしたことさえありません。そのためこれらを意識するだけでも、心が整い、パフォーマンスが向上することもあります。実際辻さんのクライアントには、朝礼で自分たちの感情や機嫌、フローの価値を意識する習慣を続けたところ、それだけで売り上げが20%アップしたという企業もあるそうです。
こうしてフローな状態とその効果を体感していくうちに、自分の中でのフローの価値が高まっていきます。これがステップ3です。そうなればあとはステップ2とステップ3を繰り返していくだけでも、「与える」思考が身についていきます。
しかし余裕があるのであれば、誰かに話したり、SNSに書き込んだり、もしくは一人でつぶやいたりノートに書き出したりして、体感したことをアウトプットしましょう。人の脳はアウトプットすることで自分の頭にそのものの価値を定着させる性質があるため、より「与える」思考の価値を強力にインプットできます。
機嫌がいい自分なら、なんだってできる
想像してみてください。心が安定していて、大抵のことには動揺せず、いつも「楽しいな」と上機嫌でいる自分……なんだってできるような気がしてくるのではないでしょうか。そんな自分を手に入れるための方法こそが、真のギブアンドギブである「与える」思考なのです。
辻さんが著書の中でも書いているように、ライフスキル脳による思考は技術なので訓練が必要です。そのため一朝一夕に習慣化できるものではありません。しかしそれが実現できれば、一流スポーツ選手や経営者のように常に自分の最大パフォーマンスを発揮できるようになります。ぜひこれを機に、真のギブアンドギブを身につけてみてはいかがでしょうか。
参考文献『「与える人」が成果を得る』

