「傷つきやすい」は気のせいではない
他人の痛みや怒り、喜びなどに敏感で、自分の気分が左右されたり、相手が何をして欲しいのかが瞬時に察知できたりする。暴力的な映画やテレビ番組を見ると胸がドキドキして眠れなくなる。他人の何気ない言葉に深く傷つき、いつまでも覚えている。
こうした変化や刺激に敏感で、人と接するだけで疲れたり、くよくよしたりしてしまう自分に悩んでいる「傷つきやすい人」を、アメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士は「Highly sensitive person(HSP)」と呼び、研究対象としてきました。
その研究の中で明らかになったのは、国や性別を問わず5人に1人がHSPだということ、そしてHSPの原因が生まれつきの脳の情報処理能力の高さだということです。
つまり傷つきやすいのは気のせいとか、気にしすぎといった問題ではなく、脳の情報処理能力が高いばかりに小さな細かいことまで気がついてしまい、同じ生活をしていても普通の人よりも多くの変化や刺激に反応してしまうからなのです。
ここではこのHSPがその傷つきやすさを抱えたまま、幸せに生きていくための方法を紹介した書籍『大人になっても敏感で傷つきやすいあなたへの19の処方箋』を参考に、以下の3つの方法を紹介します。
・マイペースを「作る」
・「自分と他人の境界線」を守る
・人間関係を整える
マイペースを「作る」
HSPは変化や刺激に敏感であるがゆえに、小さなことにもすぐ気がついてしまいます。例えば誰かが困っていることに気づく回数が多くなると、見て見ぬ振りをするにも精神力を消費してしまいます。
しかし見て見ぬ振りやめて困っている人を助けていくと、自分のペースが乱れるので結局疲れてしまうのです。HSPは外界の変化や刺激に翻弄されていて、つい自分が疲れていることに気づけないまま動き続けてしまいがち。それでは疲れ果ててしまいます。
これを防ぐための方法が、マイペースを「作る」という考え方です。「マイペースでいたい」と漠然と考えているだけでは、どうしても目先の人助けや悩み相談に引きずられてしまいます。一方マイペースを意図的に作ろうとすれば、より強くマイペースを意識できるようになるのです。
例えば週5回の残業を「週2回まで」と決めてしまって、そのルールを守るために人助けや頼まれ仕事を調整すれば、変化や刺激の少ない自分の時間と空間で心身を休められるようになります。
「飲み会に行くと気を遣いすぎて疲れてしまう」という人は、「2回に1回は断る」というルールを決めておけば、自分の意思とペースで参加できるようになります。
マイペースが乱れるのは自分より他人を優先している証拠。自分なりのルールを決めることで少しずつ自分の意思や心身を優先する習慣(=マイペース)を作っていけば、疲れ切ってしまう前に休息をとれるようになります。
「自分と他人の境界線」を守る
小さなことにも気づくHSPは他人の感情の機微に素早く気づくため、高い共感力を持っている傾向にあります。共感力が高いということは人間関係において大きなメリットにも思えますが、あまりにも高いと「自分と他人の境界線が曖昧になる」というデメリットにもなります。
自分と他人の境界線が曖昧になると、他人を自分と同化してしまい、相手との関係に依存してしまうことになります。
仮に相手が同じように自分と他人の境界線が曖昧な人間であれば「共依存(互いの関係に過剰に依存し、その関係に囚われている状態)」に陥る危険がありますし、相手が自分と他人の境界線を持っている人であれば「重い」と感じて距離を置かれてしまいます。
どちらにせよ傷つくリスクを負うのです。こうした問題はHSP以外の人にも起こり得ますが、HSPでは特に起こりやすいといえるでしょう。
HSPが自分を守るためには、自分と他人の境界線をしっかりと意識して守る必要があります。そのための効果的な方法のひとつが「一人でやる趣味を作る」です。映画を観たり、小説を読んだり、あるいは登山やマラソン、バイクや自転車などでも構いません。
要は「自分だけの世界」を明確に意識する時間を作るのです。すると他人と接した時に、自分と他人の境界線がわかりやすくなり、「これ以上は境界線を越えてしまっている」と認識できるようになります。結果自分と相手を同化することがなくなるため、傷つくリスクを回避できるのです。
人間関係を整える
面倒見がいい人には色々な人が近づいてきます。もちろんその中に一生涯の友人になる人もいるかもしれませんが、同時に面倒見の良さを利用してやろうと考えている人がいないわけではありません。
HSPは高い共感力や小さな変化にも気づけるという性質上、面倒見がいい人が多い傾向にあります。そのためむやみに交友範囲を広げてしまうと、あっという間にキャパシティを超え、疲れ切ってしまいます。
これを防ぐための方法が、人間関係の整理です。仕事上どうしても必要な人間関係は別として、「一緒にいて疲れる友人」「一緒にいるときは楽しくても、別れたあとどっと疲れる恋人」といった自分が損をするような人間関係は、極力整理してしまうのです。
そうした人たちと距離を置けば、必然的に心地よい人間関係だけが手元に残ります。残った人間関係は、HSPの性質が原因で仕事やプライベートで疲れてしまったときも支えになってくれるでしょうし、自分としても支えになってあげられるでしょう。
結果必要以上に疲れることなく、幸せを感じながら生きていけるようになるはずです。
「傷つきやすい自分」と一緒に生きていこう
HSPはそうでない人よりも疲れやすく、傷つくのを恐れて新しいことに挑戦できなかったり、人との交流の場を避けてしまいがちです。そのため「自分は他人と違う」「どうして自分はこうなんだ」と自己嫌悪に陥るケースも少なくありません。
しかし小さな変化や刺激にも敏感に気づけるということは、大切な人が落ち込んでいたり、悲しんでいたりした時に真っ先に救いの手を差し伸べられるということでもあります。傷つきやすいのはデメリットばかりではないのです。
HSPの性質は生まれもったものですから、必要以上に自分を否定しても仕方がありません。ここで紹介した3つの方法を実践しながらHSPとしての自分を受け入れ、「傷つきやすい自分」とうまく一緒に生きていくという方向を模索してみてはいかがでしょうか。
参考文献『大人になっても敏感で傷つきやすいあなたへの19の処方箋』

