巷には「論理」がいっぱい溢れている
論理の力はとても強く、一見論理的に思えるように説明されると、つい説得されてしまいます。そうした論理の力を身に付けたくて「ロジカルシンキング入門」といったタイトルの本を買ったことがある人もいるかもしれません。
ところが、論理的な思考というのは、ともすると誤解や誤認といったミスを起こしやすい思考方法でもあるんです。これに対して「思いつき」とか「ヤマカン」といった言葉で語られがちな直感の方が、実は高い精度を発揮する思考方法なのです。
ここでは論理のなかに潜む落とし穴を指摘するとともに、直感のもつ力を紹介。どうすれば直感を鍛えられるのかについても解説します。
付け焼き刃の「論理」はミスしやすい
近年の学問研究により、人間が実はかなり非論理的に思考するということがわかってきました。わかりやすい例が、心理学が明らかにした「認知バイアス」です。下表は決断を下す際の誤解や誤認を生む原因になる認知バイアスのうち、代表的な3つをまとめたものです。

これらは人間に生来備わったものなので、大なり小なり、思考に悪影響をおよぼしてきます。もしこうした認知バイアスから逃れようと思えば、意識的に思考する必要があります。
つまり論理的思考というものは、付け焼き刃の「なんちゃって論理」ではダメで、慎重な検証を重ねてようやく正しい結論を導き出せるものなのです。
しかし決断を下すたびに、そんな検証を重ねていては何も決められません。ここで直感の出番です。付け焼き刃で論理的思考をするくらいなら、論理的にじっくり考えるのをやめて、「なんとなく」直感で決めてしまえばいいのです。
こう書くとヤケクソのように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。実は直感には論理を超える力が秘められているんです。
「直感」の力を信じてみよう

●そもそも「直感」って何?
稀代の棋士、羽生善治氏は2012年刊の著書『直感力』のなかで、直感を次のように定義しています。
もがき、努力したすべての経験をいわば土壌として、そこからある瞬間、生み出されるものが直感なのだ。
引用:『直感力』p23
棋士は「直感」「読み」「大局観」の3つを武器に将棋を打っていると羽生氏は言います。このうち読みは計算する力であり、論理的な思考力です。一方、直感と大局観は経験を積み重ねてこそ得られるものだとしています。
しかし直感と大局観も、決して論理とはまったく別物というわけではありません。
論理的に考える作業を積み重ね、失敗と成功をしながら、無数の体験をしていく。そのなかで徐々に論理的思考の過程が省略され、瞬時にして結論に行き着く。これが直感の正体なのです。
そのため「直感的判断力に優れている人=天才」などではなく、むしろ「直感的判断力に優れている人=努力家」と言えるでしょう。
●直感を信じると決断速度が上がり、後悔がなくなる
直感で判断を下すということは、付け焼き刃の論理を使ってあれこれ考える過程を省略することなので、必然的に決断までの速度がアップします。目まぐるしくビジネス環境が変化し続ける現代において、決断力の速さは重要なスキルです。
また直感を信じて下した決断とは、すなわち自分を信じて下した決断です。直感による決断は、自分でも説明できないほどの速度で下されるため、「このデータでは◯◯と書いているけど、周りの人は△△と言っているし……」と自分以外を判断要素にする暇がありません。
人間は自分以外の何かを根拠にして決断をすると、失敗した時にその何かのせいにしがちです。しかし直感による決断は、自分自身の感覚だけが根拠です。だから誰のせいにすることもなく、結果を真正面から受け入れられます。
したがって、直感を信じて決断するようになると後悔もなくなるのです。
●直感を鍛える方法
直感は経験の積み重ねから生まれるものですから、才能やセンスに満ち溢れた人でなくとも、努力さえすれば鍛えられます。しかし努力の方向性を間違えば目的を達成することはできません。そこで以下では、効率的に直感を鍛えるための方法を3つ紹介します。
▲「直感のPDCA」を回す
直感は、言い換えれば「なんとなく」です。まだ直感が鍛えられていないときは、成功することもあれば、失敗することもあります。
成功する回数を増やしていくのに必要なのが、「直感のPDCA」です。ただし通常のPDCAと違い、失敗したケースは無視します。なぜなら「失敗するかも」と考えた途端、直感は一気にニブくなるからです。
したがって「直感のPDCA」を回すのは成功した時だけでOK。しかもかっちり計画・実行・検証・改善をする必要もありません。ただなんとなく「このときはうまくいったなあ」と覚えておけば十分です。その記憶が、次の場面で直感を後押ししてくれます。
▲直感を発揮したい分野で経験を積む
直感は経験の積み重ねから湧き上がってくるものです。そのため経験のない分野では、直感は単なる当てずっぽうになります。言わずもがな、成功する確率は格段に落ちます。
そのため仕事や人間関係、趣味など直感を発揮したい分野があるならば、そこで意識的に経験を積むようにしましょう。
もちろん仕事で磨いた直感が趣味で役に立つとか、その逆の現象も十分起こり得ます。しかし大事なのはまず基本。ひとつのことに集中して打ち込むところから始めましょう。
▲リスクやプレッシャーをできるだけ低くする
「失敗したらとんでもないことになる」といったリスクやプレッシャーの存在は、直感を萎縮させてしまいます。
想像してみてください。一か八か、自分の人生がかかった選択を迫られた時に、「なんとなくこっちかな」と直感で決断できるでしょうか。普通の精神力では難しいはずです。
だから最初は自分にとってリスクやプレッシャーの低い状況から、直感で決断を下す練習をしましょう。難易度の高い状況での決断は、もっと直感力がついてからで構いません。
もっと「なんとなく」で生きてみる

付け焼き刃の論理的な思考というものは、人間に備わっている認知バイアスに邪魔をされて、ミスを引き起こしやすい思考方法です。
直感はそうした認知バイアスがつけいる隙を与えず、「なんとなく」のまま正確な判断を下すための強力な武器なのです。
このように書くと難しく考えてしまうかもしれませんが、そんな必要がありません。まずはリスクやプレッシャーを感じない状況で、直感を信じて判断してみること……つまり「なんとなく」で生きてみることです。
それを積み重ねていけば、やがて後悔なく、素早く、的確な判断を下す力が身についていることでしょう。
「うーん、そうは言ってもなあ」と論理的に考えるのはやめて、まずは「なんとなく」で始めてみましょう。
