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現代アート、先入観で毛嫌いしていませんか?
これまで、美術入門として「名画の見方」や、構図や配色にまつわる「2つのコツ」について紹介してきました。
今回は、最も理解が難しいとされる、現代アートについてです。
近年、世界的な経営者やリーダーが美術館やギャラリーに足を運び、現代アートを学ぶ機会が増えてきています。現代アートはとそれほど現代社会と強いつながりがあります。
経営者たちは現代アートの何を見ているのか。
今回はそこも踏まえて、紹介していきたいと思います。
現代アートはなぜ難しいのか

「これは、本当にアートなのか?」
「何がすごいのかわからない」
「何を伝えたいのか、わからかない」
など、戸惑いだけでなく、不快感があることもあります。
あえて不快感を喚起するような作品も多くあります。
現代アートはなぜそのような作品が多いのでしょう。現代アートには、経済、人種、歴史など、現代社会の問題を問いかけているものが多く、自分の価値観に合わないものや知識がない内容には戸惑いが生まれ、親しみを持てないものが多いです。
中には、アート自体の問題や美術史、美術批評について問いかける表現もあり、広く門が開かれた内容でないことも多々あります。
でもだからこそ、自分にとって今までなかったような価値観や考え方を知ることもできるのです。
みんなが知っているんだけれども気がつかなかったり、近くにあるんだけれども見過ごしてしまうものに、アーティストは焦点を合わせている。それは稀有な力ですよね。(中略)
そうやって自分の価値観に気づかされることも、アートを見るという経験の面白さでもある。
(『すべてのドアは、入り口である。現代アートに親しむための6つのアクセス』63-68頁より)
その読み解き方をある程度知っておくと、現代アート観賞がより楽しくなります。
代表的な現代アートの先駆者3人
1.マルセル・デュシャン 《泉》
男性用便器を芸術作品に見立てた、センセーショナルな作品。
これは意外性を突いただけではなく、「日常にあるものでも、観点を与えればそれが全く新しいオブジェに成り得る」という作品の表面上だけを見ていた時代からの決別を示し、”思考で楽しむ芸術”を生みだしています。
それまで芸術作品に求められていた「物語性」や「技術性」などは存在せず、彼はコンセプトや観念によって作品が成り立つことを証明したともいえます。これがいわゆる「コンセプチュアル・アート」です。
彼以降様々なコンセプチュアル・アートが生まれ、今も現代アートに大きな影響を与えています。
また、レディ・メイド(既製品を芸術作品として使用すること)という言葉が浸透したのも、デュシャンの作品がきっかけでした。
このように、様々な思想・考え方が登場し、新たなアート言語が多々出現したことも、現代アートの特徴です。
2. ヨーゼフ・ボイス 「7000本の樫の木」

ヨーゼフ・ボイス《7000本の樫の木》wikipediaより転載
パフォーマンスアートの先駆者ともいうべき、20世紀の芸術家でありながら、社会家だったボイス。彼は、脂肪や蜜蝋、フェルトなど、通常では使わないような素材を用いた立体作品やインスタレーションを数多く残しています。
彫刻作品において「社会彫刻」という新しい概念を編み出し、彫刻や芸術の概念を教育や社会変革まで、幅広く活動したことでも知られています。
画像の作品は、プロジェクト「7000本の樫の木」。これは樫の木をカッセル市内に植樹するというプロジェクトです。
樫の木の根本には玄武岩を一緒に埋め、樫の木は「生」を、形を変えない玄武岩は「死」を象徴しています。ボイスはこのふたつの要素が存在することによって世界は構築されていることを暗示しています。
その他、ボイスの有名な作品は「私はアメリカが好き、アメリカも私が好き」。
これは、ボイス自身がニューヨークの画廊の中で、1週間コヨーテと暮らし、実際のアメリカ人とは接触しないというパフォーマンスです。
(コヨーテはアメリカ先住民では神聖視されている動物ですが、後に白人によって迫害された。そのコヨーテをアメリカの真の姿と捉え、この作品ではコヨーテとのみコミュニケーションをとろうと試みたもの)。
先住民の文化を排除し、発展したアメリカ社会を批判したものとされています。
このように、社会に対して疑問を投げかけたり、行動を促すような手法を用いたりするのがボイスの芸術活動です。彼はパフォーマンスアートとして20世紀のトビラを開いた人物の一人でした。
3. ジャスパー・ジョーンズ《Flag. 1954–55》
アメリカにおけるネオダダやポップアートの先駆者として重要な役割を果たした代表的な作家です。
この作品は、厚みも奥行きも無い二次元の国旗を、二次元の画面に描くという手法ですが、絵画自体が「物」であると強調され、それゆえに、その後様々なアーティストに影響を与えた作品でもあります。
ではなぜこの作品が影響ある作品になったのか。
この作品が注目された理由は、いわゆる現代アート以前に存在していた「モチーフ」「テーマ」「オマージュ」などから離れ、星条旗という「誰もが知っているもの」で、それ自体が図柄であることでした。
これまでの作品の定義は「作品=モチーフと絵画性」でしたが、この作品にはモチーフがない。つまり、キリスト教の気配も、自然への賛美も、人類の悲劇も描かれていない。アメリカ国旗という誰もが知るものを選んだ段階で、もはや差のつけようがない。そうすると、「どう描くか」だけが照準になります。そうすることによって、「作品=絵画性」となりました。
現代美術において、「この絵なら、自分でも描けるのでは」と思ってしまうことがあります。確かに、その絵を見ながら、それを描くという点で言えば、それは可能だと言えます。
ですが、現代美術において大切なのは、その視点、価値観、作品に込めた解釈。
その発想がいかにユニークで類似性がないものなのか。それが現代アートの評価のひとつとなっています。
現代アートを楽しむ3つの方法
現代アートを楽しむ方法とは何でしょうか。
先の3人の事例にあるように、説明があることでより理解が深まるということがわかると思います。説明のないまま、アメリカ国旗を見ても、モチーフ性などに考えを馳せることは一般の鑑賞者にはなかなか難しいことです。
では、現代アートの楽しむ方法を簡単に3つご紹介します。
これは現代アートに限らず、美術観賞を楽しむ際にも有効です。
1.作家のことを事前に調べておく
展覧会場では、ランプだけが展示してあるなど、唐突すぎてわからないことが多くあるもの。何のテーマを専門にしているのか、どういう表現方法なのかを知っておくと、より早く理解することができます
2.解説をきちんと読む
現代アートは解説の文を載せたパンフレットやリーフレットがおいてあることが多いので、それに目を通したり、前述したように作家や作品に関する情報を集めておくと、よりよいでしょう。
3.リアルタイムを生かす
現代アートの場合は、作家が生きていることが多いので、ギャラリーなどの場合は、実際に話してみるという方法もあります。
先ほど、現代美術は経済、人種、歴史などの現代社会の問題を問いかけていると述べましたが、もちろん、そういったことを扱わない作品もたくさんありますし、現代アートの見方・味わい方はそれだけでありません。ただ単純に作品を見るだけで感動する作品も多々あります。
しかし、そういった現代社会の問題や美術に関することを知っておかなければ、現代アート全てを本当に理解することは難しいと言えます。現代アートが、そのテーマについて「考える」きっかけとなり、それが現代アートの「面白さ」や「意義」にもつながっていくはずです。
現代アートは、作品を見て考えたり、語る人がいないと完成しない、あなたの関与を最も必要としている芸術ジャンルでもあるのです。(同、あとがきより)
現代アートの展覧会はギャラリーなどで無料で開催されていることもあります。ぜひ一度、事前にリサーチをして、足を運んでみてください。
参考文献:『すべてのドアは、入り口である。現代アートに親しむための6つのアクセス』 原田マハ、高橋瑞木 著、祥伝社、2014年
