使えるビジネス書、価値観が変わるビジネス書
ビジネス書は毎日のように出版されて書店などに並びますが、正直なところ玉石混交で値段以下の内容しかない本もあれば、値段以上の内容がある本もあります。筆者は仕事柄、おおよそ年間200冊以上はビジネス書を読んでいますが、そのうち「これは良い本だった!」と言い切れるものはごく少数です。
ここではそんな筆者のビジネス書の読書体験の中で「これは使える」「これは読むと価値観がアップデートされる」と言い切れる本を10冊選んでご紹介します。どれも読みやすく、わかりやすい本ばかりなので、気になるものがあったらぜひ手にとってみてください。
年間200冊以上読むライターが選んだオススメの10冊
■『成功する人は偶然を味方につける 運と成功の経済学』
著:ロバート・H・フランク 訳:月沢李歌子

コーネル大学ジョンソンスクール経済学教授が書いた、経済学の視点から運がもたらす影響力について解説した一冊。
たくさんの実例を紹介しながら、いかに成功のために運が必要で、運が不足すると失敗してしまうのかを検証するとともに、どうすれば運を味方につけることができるのかについても実例に基づいて解説してくれています。
また本書は、成功のためには運以外にも才能・努力が必要不可欠としながらも、多くの人が自分の才能や努力を過大評価しており、運の影響力を軽視しているという指摘もしています。
ハウツー本のように「今日から使える幸運になる方法」が書かれているわけではありませんが、才能・努力・運に対する世間一般の考え方から脱却し、科学的研究に基づいた客観的な考え方にがらりと変えてくれる力を持った本です。
■『伸びる会社は「これ」をやらない』
著:安藤広大

著者は組織コンサルティングを主幹事業とする株式会社識学の代表取締役社長を務める人物。本書は「上司は部下のモチベーションを上げるべき」「上司は部下の仕事のプロセスも評価に入れるべき」「マネジメント層は部下との飲みニケーションも大切にするべき」といった、ともすると常識のように語られるマネジメント論を全て一蹴します。
そのうえで、なぜこうしたマネジメントをしない方が組織がうまくいくのかを気持ちいいほど明快な論理で解説。そのわかりやすさは、この本を読み終えるだけで著者の頭の中にあるマネジメントの基礎が読者の頭にインストールされるレベルです。
実は本書のレビューには「共感できない」「実践したら組織が崩壊する」といった内容も少なくありません。確かに本書のマネジメント論は一見すると冷徹で、人間味がないように思えます。鵜呑みにして、何も考えずに実践すればトラブルにもなるでしょう。
しかし筆者はこの本を読んで、その根底にある「正しい努力が評価されるべき」「上司は部下の出した結果の責任を全て背負う器を持つべき」といった厳しくも情熱的な哲学を感じました。内容を自分の中で噛み砕いて、その本質を理解できれば「マネージャー、リーダーとしてかくあるべし」を学ぶことができる良書となるはずです。
■『転職の思考法』
著:北野唯我

元ボストンコンサルティンググループで、現在は「職業人生の設計」の専門家として活動する著者が書いた、自分のマーケットバリューを引き上げるための思考と行動についての本です。
人生100年時代を迎え、大半のビジネスパーソンが転職を経験するであろう現代日本においては、特定の組織で役に立つだけの人材は生き延びられず、職種や業界といったより広い世界で通用する人材が求められるようになります。
その中で重要なのが、個々が持つマーケットバリューです。本書でもこのマーケットバリューの測り方や重要性がわかりやすく説明されています。
しかし「個人としてのマーケットバリューが重要だ」という話は、著者以外の本でも散々説明されています。本書の価値は重要性を指摘するだけに止まらず、その先の「どうすればマーケットバリューを引き上げられるのか」を非常に具体的な切り口で説明してくれている点にあります。
・これから伸びる業界の見極め方
・中途採用の人間が活躍できる会社の見極め方
・仕事の「楽しさ」の見つけ方
ビジネス書の大半はこうした切り口になった途端に、「そんな方法は現実的に難しいだろう」という話になりがちです。しかし本書で紹介される方法は「これなら自分でもできそうだ」という単純さを持ちながらも、しっかりとした説得力も持ち合わせているのです。
すでに社会に出ている人はもちろん、これから社会に出る学生にもすすめたいバイブル的一冊です。
■『黄金のアウトプット術』
著:成毛眞

著者はマイクロソフト元社長であり、現在は書評サイトHONZ代表などを務める人物。本書ではインターネットやSNSによるインプット過多に陥った現代人に対し、もっとアウトプットに時間と労力をかけるよう呼びかけています。
本書はアウトプットを「書くアウトプット」「話すアウトプット」「見た目のアウトプット」に分類し、それぞれのセクションで現実的な方法を提案しています。例えば書くアウトプットなら感想や決意表明を文章にするのではなく、何かを紹介する文章にするようアドバイスをしたり、接続詞の使い方や読みやすい文章にするためのリズム感を解説したりといった具合です。
筆者は書くアウトプットは得意ですが、話すアウトプットがとてつもなく苦手でしたが、本書の「聞き手全員に好かれようとするな」というアドバイスのおかげで随分気楽に人前で話せるようになりました。
アウトプットという分野での「使えるハウツー本」としては、自信を持っておすすめできる一冊です。
■『リーダーの教養書』
著:出口治明、楠木建、猪瀬直樹ほか

各分野の有識者11名による全130冊のブックガイドです。テーマは歴史、経営と教養、経済学、リーダーシップ、日本近現代史、進化生物学、コンピュータサイエンス、数学、医学、哲学、宗教。紹介される本は基本的にキャッチーさとはかけ離れており、正直なところ「読むのが大変そう……」という本ばかりです。以下に何冊か例をあげておきましょう。
『想像の共同体』 ベネディクト・アンダーソン
『フランス革命の省察』 エドマンド・バーク
『サピエンス全史』 ユヴァル・ノア・ハラリ
『銃・病原菌・鉄』 ジャレド・ダイアモンド
『監獄の誕生』 ミシェル・フーコー
しかし信頼の置ける著者陣がブックガイドをしてくれているため、どのような視点で読めばいいかはすでに示されています。そのためいきなりこれらの本に挑戦するよりも、いくらかは楽に読み進めることができるはず。
筆者がここで紹介しているような本を「物足りなさそう」と感じる人は、ぜひこの一冊から手に取ってみることをおすすめします。
■『なぜかまわりに助けられる人の心理術』
著:メンタリスト DaiGo
お茶の間の人気者から華麗に転身し、いまや億単位の年収を稼ぎ出している著者が書いた、まさに「猿でもわかる」レベルまで噛み砕いた心理テクニックの本です。そのため何をすればタイトル通りなぜかまわりに助けられる人になれるのかが、すんなり理解できます。
ただし、もしかすると一般的なビジネスパーソンなら、この本に書かれてある内容ぐらいならすでに実践済みなのかもしれません。というのもこれを読んで感銘を受けた筆者自身は、幼少期から現在に至るまで「人に助けてもらうこと」「人に頼ること」が極端に苦手な人間だからです。
しかしそんな人が読めば、きっと「そうすれば人に助けてもらえるのか!」と目からウロコが落ちること間違いなしです。
もう少し器用に生きて、今より楽をしながら今以上の結果を出したいという人には、確信を持っておすすめできる一冊です。
■『なぜ危機に気づけなかったのか ― 組織を救うリーダーの問題発見力』
著:マイケル・A・ロベルト 訳:飯田恒夫

多くのビジネス書は「失敗を恐れず、挑戦しよう」と言いますが、大半の人にとってやはり失敗は怖いものです。しかしそれならば問題発見力を磨いて、より早い段階で問題解決に動き出せるようになればいいのではないでしょうか。
そのための考え方や方法を豊富な事例とともに紹介しているのが、アップルやモルガン・スタンレーなどでコンサルを担当した経歴を持つ経営学者の手による本書です。本書はリーダーが優れた問題発見者になるためには以下の7つのスキルと能力を身につける必要がある、と言います。
・情報のフィルターを避ける。
・人類学者のように観察する。
・パターンを探し、見分ける。
・バラバラの点を線でつなぐ
・価値のある失敗を奨励する。
・話し方と聞き方を訓練する。
・行動を振り返り、反省のプロになる。
著者はこれら7つについて1つずつ章を設け、徹底的な実地調査に基づいた理論を展開していきます。
本書の特筆するべき魅力として、理論編の前の実例編が読みものとして非常に面白いという点が挙げられます。登場人物たちが危機に直面するまでのプロセスが、緊迫感たっぷりに描かれているのです。そのため内容が記憶に残りやすく、理論編の内容もすんなりと頭に入ってきます。
「失敗が怖くて挑戦ができない」という人には、ぜひ手に取ってほしい一冊です。
■『「好きなことだけやって生きていく」という提案』
著:角田陽一郎

『明石家さんちゃんねる』や『オトナの!』などを手がけた人気テレビプロデューサーによる、「好きなことだけやって生きていく」ための指南書です。
人工知能の発達を受け、「好きなことをやれ。生産性の低い嫌いなことをやっていても、コンピュータに仕事を奪われるだけだ」という論調のビジネス書は、大量に出版されています。しかしそんな中で本書は、稀に見る現実的な方法論で「好きなことだけやって生きていく」方法を紹介してくれています。
「好きなことならなんでもいい」ではなく、「そもそも好きなことって何か?」という定義から始めたり、一つの好きなことがダメでも別の好きなことで生きていくためのリスクヘッジの方法、そこからビジネスを生み出すためのアイデアの作り方、それをビジネスにしていくための方法を実践例とともに紹介したりと、まさに痒いところまで手が届く構成になっています。
もちろんこれ一冊で好きなことだけやって生きていけるようにはなりません。しかしそうなるためのスタート地点として、あるいはロードマップとして、手元に置く価値のある一冊だということは間違いありません。
■『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』
著:山口周

電通やボストン・コンサルティングでの経歴を持つ著者による、ビジネスの最前線で存在感を増す「美意識」の重要性と磨き方を解説した本です。
ごく大雑把に説明すると、変化のスピードが増した現代のビジネスにおいては、答えを出すまでに時間のかかる論理的思考では変化についていけないため、より素早く判断を下せる直感力=美意識が必要とされているという話です。
本書はこれを世界のビジネスの現場や脳科学の研究などを踏まえたうえで、様々な視点から解説してみせています。
筆者は仕事柄、論理的思考には慣れています。また取材などに行っても「部下がもっと論理的に考えてくれれば、うまくいく仕事が増えるのに」と頭を抱えているマネジメント層は少なくありません。そのため論理的思考の重要性については、それこそ飽きるほど意識してきました。
しかし本書は「論理的思考は単なる基礎にすぎない。これからのリーダーには美意識が必須だ」と言います。この発想の転換は、論理的思考の欠如に頭を悩ませている段階では決して起こりえません。その意味で本書は読者の価値観をアップデートしてくれる一冊と言えます。
■『才能の正体』
著:坪田信貴

著者は『ビリギャル』の著者でもあり、塾講師としてだけでなく企業コンサルタントとしても活躍する人物です。本書の冒頭で著者は、今まで1300人以上の受験生を「子別指導」してきた経験と心理学の知見を織り交ぜ、世間一般の人が持つ「才能」のイメージの間違いを指摘しています。
そしてそのうえで個人やチームとして才能をどのようにマネジメントしていくかを解説しています。
この本を読むと「自分は才能がない」「あの人は才能がある」というふうに、才能という言葉がいかに言い訳としてばかり使われているのかがわかります。また、こうした才能という言葉の使い方が、その人自身の才能を潰してしまう強力な毒なのだということもわかります。
この本は読者の才能についての考え方をアップデートし、「できない」と逃げていたことに目を向けさせてくれます。
年功序列賃金や終身雇用がもはや幻想となりつつある現代日本においては、今後個人の才能をいかに生かすかが非常に重要な課題になります。本書はそのような時代を生き抜くための、心強い味方になってくれるはずです。
この10冊はきっかけにすぎない
ここで紹介した10冊は、どれも非常に読みやすく、わかりやすく書かれています。そのためうがった見方をすれば「難しい部分は省略した、不十分な本」と言うこともできます。しかし1冊で全ての内容をカバーしている本など存在しません。
なぜなら必ず著者の立場や価値観が反映されているからです。それはここで紹介した10冊も同じです。
重要なのは網羅的に書かれているかどうかではなく、次のステップへのきっかけになってくれるかどうかです。この10冊の本は、その意味では非常に優秀な10冊だと筆者は考えています。このブックガイドが、皆さんにとって何かしらのきっかけになれば幸いです。
