「芸人だからバラエティ」の価値観は古い!お嬢様芸人たかまつななが仕掛ける、笑下村塾とは?

フェリス女学院出身のお嬢様芸人

フェリス女学院出身のお嬢様芸人としてテレビなどで活躍する一方で、お笑いジャーナリストとしてお笑いを通して社会問題を発信し、全国の高校や大学などへ出張授業に出向いているたかまつななさん。

今回はそんな多方面で活躍するたかまつさんに、お笑い芸人としてのスタイルから自分のオリジナリティの出し方について語っていただきました。

そこには、「お笑い×政治×教育」という独特のポジションで活躍するたかまつさんならではの、揺るぎない信念と熱い想いがありました。

ジャーナリストから芸人へ

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―まず、たかまつさんがお笑い芸人を志したきっかけを教えてください。

私はもともと、ジャーナリストになりたかったんです。そこで中学1年生のときから読売新聞で子ども記者をしていました。私が執筆した原稿が読売新聞に掲載されたのですが、そこで反響があったのは友人のお母さんなど、大人の方達ばかりだったんです。

私は友達など同世代の人からの反響を期待していたのですが…。政治や環境の問題は、あまり身近ではないからか、そこまで反響はありませんでした。

では、どうすればもっと政治や環境の問題を効果的に伝えることができるのか。そんな悩みを抱えていた時に出会ったのが、『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)という本でした。

その本の中で爆笑問題の太田光さんがとてもユニークで分かりやすく、政治の問題についてお話していました。そこで太田さんのプロフィール欄を読んだら「お笑い芸人」とあって、お笑い芸人という職業に感銘を受けたんです。

―ジャーナリストからお笑い芸人という仕事にシフトチェンジをしていったのでしょうか?

シフトチェンジというよりは、私の目的は「政治や環境の問題を様々な人に分かりやすく伝える」ということですので、そのための1つの方法としてお笑い芸人というやり方を考えました。

―お笑い芸人という職業で、政治や環境に関する問題を広めるという活動をされている方は、他にそう多くはないと思います。その中でなぜ、お笑い芸人という仕事を選んだのでしょうか?

私は子ども記者をやっていた経験から、ジャーナリストや記者になるのは、私じゃなくてもいいと思ったんです。それこそ私よりも賢い人や政治などに詳しい人はゴマンといるので。

そこで、自分しかやらない・できない切り口でその目的を達成できる方法を考えました。考えて行き着いた答えはお笑い芸人。お笑い芸人に必要なスキルは、政治や環境の問題を興味のない人にも分かりやすく、面白く伝えることができます。

その他にも、文章を書いたり教員免許を取ったり、大学院をダブルスクールで通っていたりと、この目的を達成するために必要なことは今でも勉強していますね。

厳しい業界を生き抜いていくために必要なオリジナリティ

―たかまつさんの代表的な芸として有名なお嬢様芸ですが、こちらも先程の「自分しかやらない・できない」切り口ならではの芸風だと思います。こうした芸風を採っているのも、厳しい業界の中で活躍していくための自分のオリジナリティなのでしょうか?

そうですね。お笑い芸人に限ったことではないと思いますが、どんな仕事でもオリジナリティを出すことはとても重要だと思います。例えばお笑い芸人で言うなら、ネタの中でオリジナリティを出していくのは当たり前だと思っています。

ですがそこから、もっと本質的な生き方や活動の方向性にまで、オリジナリティを出していこうとしている方はそう多くないと思います。

―なぜ、そうした生き方や方向性にオリジナリティを出している人が少ないのでしょうか?

お笑い芸人で言えばですけど、おそらく活動の方向性やマネジメントを事務所に任せっきりになっているからではないかと思います。

例えばですけど「お笑い芸人だから、テレビのバラエティに出なければいけない」、「お笑い芸人だからステージに立って漫才をしていればいい」といった価値観は、正直もう古いと思います。(もちろん、テレビやライブのお仕事もとても重要ですが)

私は、お笑い芸人だって真剣に政治を語ってもいいと思いますし、お笑い芸人だって絵を描いたっていいと思うのです。最近では、キングコングの西野さんが絵本作家として活動していますよね。

もちろん私も、講演会や出張授業に足を運んだときは真剣に政治について語ります。「お笑い芸人だからこうしないといけないと」締め付けられることはありません。そうしたお笑い芸人の枠に縛られないことは、自らのブランディングをしていく上でとても重要だと思います。

―オリジナリティは自分のネタだけではなく、生き方や仕事のスタイルにも影響をしてくるんですね。自分のオリジナリティを見つけていくにはどうしたらいいのでしょうか?

変に強がったりせずに、いい意味で自分のことを受け入れることだと思います。

例えば私の場合は、英語を話すことができません。ですので海外でのお仕事のときは通訳の方をお呼びします。

また大きな声を出すことが苦手なので、派手なリアクションが求められるコントは向いていませんし、絵も苦手なのでマンガやイラストを使った芸もできません。

ではフリップを使った芸ならできるかな、など自分の得手不得手を分析してトライアンドエラーを繰り返しています。

―自分の苦手なことを思い切って諦めるって、なかなか難しいのではないかと思います。

私たちは子供の頃から、学校教育でなんでも平均的にできることを求められてきました。大学入試などを見てもそうですが、国公立大学に入学するためにはセンター試験で文理問わず一定の学力をつけなければなりません。

ところがそれが社会に出た途端、何か突出した能力を持った人材を求められるのです。人間である以上必ず得手不得手は存在するので、それをきちんと認めて苦手なことは人の力を借りる勇気が必要だと思います。

他の人の力を借りることを苦手に感じている方もいらっしゃいますが、苦手なことにリソースをかけるくらいなら自分の得意なことをより伸ばしていったほうがいいと思います。やはり、苦手なことを無理やりやっても楽しくないですし、生産性も高くないですから。

自分のスタイルを変えるのも覚悟、変えずに貫くのも覚悟。

―様々な個性がぶつかり合っているお笑い業界の中で自分だけのオリジナリティを出していくことは、とても大変なことのように感じます。実際のところ、売れている芸人と売れていない芸人の差ってそうしたオリジナリティの部分に差があるのでしょうか?

一概には言えないですが、それもあるとは思います。長くやっている芸人さんは、基本的にみんなおもしろいです。その中で売れる売れないに差が出てくるとすれば、オリジナリティがあるかないか、時代に合っているかいないかといった個性の部分は大きいと思いますね。

後は「覚悟」の問題もあると思います。

―「覚悟」ですか?

そうです。例えば私は最初、フェリス女学院出身ということをネタにしていなかったんです。なんだかそういうのはかっこ悪いなって思って。

でもある時、「自分の身の回りのことや身に起こったことをなんでもネタにしてやる」と思ったんです。そうしたスタイルの変化も1つの覚悟だと思いますし。

また、お笑い芸人の中で漫才をやっている人ってすごいたくさんいるんですよ。その中で他から頭一つ抜けるために、漫才だけではなく他のアプローチをしてみるのも覚悟だと思いますし、逆に漫才だけにこだわり続けるのも覚悟だとも思います。

つまり、「自分はこの道でやっていくんだ」という選択に腹を括れるかが大切なんです。そうした覚悟を持っている人は口だけじゃなく、自分の覚悟を行動に移しているので。これが売れる売れないの差につながってくるんじゃないかなと思います。

目標は全国200万人!着々と増える”笑下村塾”生

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―たかまつさんが考える「おもしろさ」とは、どんなことでしょうか?

難しい質問ですね(笑)。いろいろありますけど、例えば知的好奇心がくすぐられるものだったり、感情を揺さぶられるものは思います。

後は先程も少しお話しましたが、今まで誰もやったことのないことはとてもおもしろいことだと思います。誰もやったことのないことをやって新しい価値観を生み出すって、とても難しいことですから。だから私の中では、新しいことってすごく重要なんです。

―たかまつさんの今後の活動について教えてください。

今、私は「株式会社笑下村塾」という会社を立ち上げて、高校や大学へ政治の授業をやっています。ただ、現状は私1人で全国に出張授業をしているのでとても全国を周りきれていません。

そこで芸人さん100人で行く出張授業というのを考えています。100人で手分けをして全国各地をめぐり政治の授業をします。私が選挙前に1か月で約2000人に授業をしたので、100人で行けば1年間で低く見積もっても、およそ200万人には授業が可能です。

18歳〜19歳の新有権者が約240万人いるので、そのほとんどの人達に政治の授業を届けられます。これはかなり大きな社会的なインパクトになるのではないかと考えています。直近だとこれが大きな目標ですね。

そのためにまずは私自身がもっと政治の勉強をしたり、お笑い芸人としてのスキルを上げていかなければならないと思います。難しい政治を簡単に説明して理解してもらう、いわば翻訳者としてもっと成長して、その翻訳をもっと実際の教育の現場で広めていかなければなりません。

いずれは会社でチームを作って、テレビ番組などができればいいなと。そんな目標を掲げて毎日がんばっています。

―最後に、今人生の帰路に立っている人に対して、何かメッセージをいただけないでしょうか。

私は常に「やらない後悔よりも、やった後悔」をするべきだと考えています。あの時ああやっておけばよかったって、きっとそれは10年後も同じことを考えるわけで、未来で変えることってできないじゃないですか。ならやってみて後悔するほうがいいと思います。

そして、一生懸命やったら必ず次に繋がると思うんです。絶対に成長するしキャリアアップにも繋がります。

例えば私が今、お笑い芸人という仕事を中途半端にやっていたとしたら、「もう芸能界でやっていけないかもしれない」と思った時にそこで終わってしまうかもしれません。ですが、一生懸命やっていたらそこで必ず得るものがありますし、やろうと思えば転職だってできると思います。

今、自分が置かれている環境のせいにして何もしないで中途半端にしているというのは、1番よくないと思います。自分が覚悟を持ってやると決めたら最後までやり抜く。

責任を全て自分で背負うのはとても大変ですが、やり抜くことができたらそれ以上の充実感や達成感を得られると思います。

Career Supli
お笑い芸人としてステージに立たれている時とはまた異なった、真剣な表情でお笑い・政治・教育についてお話されている姿がとても印象的でした。自分のオリジナリティを模索してそれを極めていくというスタイルは、ビジネスでもとても重要です。たかまつさん、本当にありがとうございました!

[インタビュー・文]内藤 祐介 [編集] サムライト編集部