バラエティ・プロデューサーの角田陽一郎さん
好きなことで生きていけたらいいなって思いますよね。キャリアサプリでも様々な角度から、好きなことをして生きていくための方法やマインドについてご紹介してきました。
今回はこのテーマでお話を伺うのにぴったりのバラエティ・プロデューサーの角田陽一郎さんにインタビューさせていただきました。
TBSに約20年在籍し、『さんまのスーパーからくりTV』『金スマ』『オトナの!』など、数々の番組をヒットさせ、現在はフリーランスとしてさらに活躍の場を広げている大注目のクリエイターです。
角田さんは数多くの著名人と一緒に仕事する中で、魅力的に見える人、成功している人の多くはなぜ成功したのかを考えたところ、その答えは「好きなことだけやって生きているか」からという結論に達したそうです。
そして彼らに共通する点を丁寧に実践することで、特別な才能のある人たちだけではなく、やろうと思えば誰でも、好きなことだけやって生きていくことが可能だと言います。
本当にそんなことができるのでしょうか。速射砲のように次々と繰り出される切れの良いトークに圧倒されながらも、色々とお話を伺ってきました!
夢=好きなことではない
― 今回の著書で4冊目になりますが、なぜ今『「好きなことだけやって生きていく」という提案』を出そうと思ったんですか?
当初この本は「好きなことだけやって生きていく」ための勉強論として出そうと考えていました。
しかし編集者から勉強論だと伝わりにくいという指摘があり、最終的に「こういう生き方はどうですか」という選択肢を示す『という提案』の文字をタイトルにつけました。
「好きなことだけやって生きていく」というと、多くの人が自分が昔から抱いている夢や、なりたい職業だけを好きなことだと考えてしまいがちです。
「夢=好きなこと」という考え方に縛られすぎているので、今自分が抱いている好きなことだけやって生活できるだろうかと不安になったり、自信がなくなったりしてしまうのですが、そもそも夢だけが好きなことであると考えることに問題があります。
そうではなくて、普段の仕事や生活で経験すること、他人から得た知識、自分の失敗や面倒くさいことまで、あらゆることをおもしろがり、好きを増やしていけばいいんです。
そうやって「好きなこと」を創造していくことで必然的に「好きなことだけやって生きていける」確率が高まっていきます。それが「好きなことだけやって生きていく」ための最大のコツです。
他人のつまらないは信用しない

― 好きなことを創造していくという発想は、多くの人が考える「夢=好きなこと」という呪縛から解放する素晴らしい発想だと思います!どうしたらどんなことでもおもしろがれるような人になれますか?
気になることがあったらなんでもすぐに知ろうとする習慣をつけることが大切だと思います。
世の中のすべてのことは好きなものになる可能性がありますが、人は知らないものを好きになることができません。
逆にそのことについて知っていることが増えれば増えるほど、好きなことになる可能性が高くなります。
人が何かについて嫌いだと思う時は、そのことについてよく知らない、食わず嫌いであることが多いと思います。
― 確かに知識がないことはおもしろがることができませんね。取材を通じて知ることで興味を持つことも多いです!
僕は他人のつまらないという意見を信用しません。ネットに多くの情報が溢ふれていますが、他人の評価などあてになりません。
誰かが大好きだと言った映画をつまらないと非難する人は、もしかしたらそれをおもしろがるだけの知識やセンスがないだけかもしれません。
つまらないという気持ちからは、何も生まれません。
逆に、他人のおもしろいは全面的に信用した方がいい!人がおもしろいと言うものには、その人を熱中させる理由が必ずあります。
売れるための理屈は、売れているものからしか学べません。
キングコングの西野さんや水道橋博士さんは、僕が「あの映画おもしろかったですよ」と言うと、忙しくても無理やり時間を作って絶対に観に行きます。
お二人よりも忙しい人はそんなにいないと思うので、人からすすめられたら興味を持ったことは、すぐに観たり聞いたりするように意識してみてください。
― 著書の中の「自分の好奇心に躊躇しない」という水道橋博士さんの言葉がありましたが忙しい人ほどフットワークが軽いんですね!インプットした情報はどのように整理していますか?
観た映画や読んだ本の感想は基本的にBlog、Twitter、Facebookなどのデジタル上に記録するようにしています。
おすすめはおもしろいと思ったことを毎日Twitterでつぶやくことです。
そして2つ以上つぶやいたら、その関係のない2つのつぶやきをつなげてみてください。
つなげるときに2つの共通項が何かを考え、そこを軸にアウトプットをふやしていくとオリジナリティのある文章が書けるようになってきます。
― 毎日つぶやくことなら継続できそうです。Twitterのフォロワー数を増やしたいのですが、どうやったら増やすことができるでしょうか?
今年は明治維新150周年ということで実は今「伊藤博文くん」というTwitterアカウントにかかわっています。
年号でその年に何があったかというのは授業でみんな習いますが、150年前の今日、伊藤博文がどこにいて、どんなことをしていたかというのはみんな知らないんですよね。

それをデイリーでつぶやいていくようなアカウントがあったらおもしろいんじゃないかと思って、いま色々なツイートを試しています。
9月2日からこそこそスタートして、1ヶ月ほどですでにフォロワーが1,000人を超えました。
なるほど大政奉還ってのは、こういうことだったのね!本当7分でわかったよ!
俺たち外様の長州藩はこれからどうなっちゃうんだろ?
志士フォロワーの皆さんもこの動画見てみて!https://t.co/XWl9p7tj78— 伊藤博文くん(はじまったぜ明治維新) (@hero_boom_me) 2017年10月14日
反応をみていると1つのツイートに1つのトピックだけの方がうけるんですよね。
例えば幕末の偉人「兄弟構成」をまとめて紹介して、さらに文末に笑いを加えようとすると、かえって反応が悪くなります。まじめな内容ならそれだけでまとめた方が反応がよくなります。
― 「伊藤博文くん」ですか!おもしろいと思って普通にフォローしていました!マニアックな投稿がグッときます。
おもしろさとは「見たて力」である

― 僕もおもしろい人になりたいのですがどうしたらなれるでしょうか。アイデアを考えるときのように自分に何らかの制約を課せばおもしろい人になれるんじゃないかと思っているのですがどう思いますか?
狙っておもしろい人になりたいという発想がちょっと違うかなと思います。自分は川のような人間になりたいと常々思っています。
例えば江戸川の水は、常に上流から流れてきて下流へ流れ去って入れ替わっているのに、それは江戸川と呼ばれていますよね。僕個人も角田陽一郎という川なんだと思っています。
いろいろな情報や経験が流れてきては流れ去り、それによって常に中身は変わっているんですね。
おもしろくなることに固執してしまうと、流れをせき止められた川が淀んでしまうように、おもしろくなれないと思います。
僕が考えるおもしろさとは、「見たて力」だと思っています。AというものをBというものに見立てることで、どれだけおもしろい見せ方(魅せ方)ができるかが、重要です。
僕の場合であれば、世界史というAがあって、自分のバラエティプロデューサーというBの立場から世界史を見立てることでオリジナリティがある『最速で身につく世界史』というベストセラーが生まれたんだと思っています。
アイデアを考える時も既存のもの同士を組み合わせて、新しいアイデアを生み出すことができます。
僕がディレクターをやっていた『さんまのスーパーからくりTV』の名物企画だった「ご長寿早押しクイズ」というコーナーも「お年寄り」✕「早押し」の組み合わせでいままでにない企画が生まれました。
― ご長寿早押しクイズは大好きでよく見ていました!ゴールデンタイムの番組を作る時は、深夜の番組を作る時に比べて、よりマス向けにわかりやすい内容になるように企画のチューニングが必要だと思いますが、その時のポイントがあれば教えてください。
企画を考える時にマスだから、深夜だからと区別をしてチューニングしようと思ったことはありません。
チューニングというのはマーケティング情報にもとづいて、この視聴者層にはこういうタレントさんや企画が受けるといった調整をすることをイメージされているのだと思いますが、そういった作り方はしていません。
からくりTVの時は、さんまさんと関根さんのお二人を笑わせることだけを考えてコーナー企画を作っていました。
あの二人がおもしろいと思ったものは、絶対おもしろいわけですから。
プライベートとパブリック

― 自分がおもしろいと考えているプライベートな想いをより多くの人に理解してもらえるようなパブリックなコンテンツに変換させるためにはどうしたらいいのでしょうか?
アイデアや想いをプライベートな表現ではなく、パブリックな表現にするためには経験を積む必要があると思います。
東京画廊のオーナーである山本豊津さんにお聞きしたのですが、新人の作家を育てる時に何枚も絵を書かせてダメ出しを繰り返すそうです。
はじめのうちは自分の思いが凝り固まった閉じた絵、プライベートな作品になることが多く、技術的には素晴らしくても、なかなか買い手がつかないそうです。
そこから何枚も書かせていると、ある段階から突然、開いた絵を描き始めるそうです。
プライベートな絵しか描けなかった画家が、パブリックな絵を描けるようになるのです。そうすると、その画家の絵に買い手がつくようになりメジャーな画家へと育っていきます。
おもしろいのはその画家がメジャーになると、いままで売れなかったプライベートな閉じた絵にも価値が生まれて売れるようになることです。価値の反転が起こるんですね。
僕は若い頃、バラエティ番組作りの師匠ともいえる人から「ゴールデンでメジャー番組をヒットさせたら、深夜でいくらでも好きなマイナーな番組をやれるよ」と言われたのですが、自分がつくった番組が高視聴率を取り、プライベートからパブリックになったら、お前のプライベートにも価値が生まれるということを教えてくれたんだと思います。
情報革命が起こっている

― 角田さんの著書『「好きなことだけやって生きていく」という提案』とほぼ同タイミングで出版された西野さんの『革命のファンファーレ』でも、これからは好きなことを仕事化するしか道が残されていない時代ということが書かれていて、たいへん話題になっています。いま時代の空気感がそういったものを求めているのでしょうか。
理由は単純で、今まさに情報革命が起こっているからです!
でも、ほとんどの人が情報革命がおきていることに気がついていません。
だから時代の空気とかあいまいなことを言っちゃうんですが、そうではなくて情報革命が、事実いま起こっているからなんです!
「農業革命」「産業革命」に続く「情報革命」が起こっています。情報革命はモノではなく、情報という「目に見えないコト」に価値をおいています。
モノからコトに軸足を置き換える「概念の革命」です。これは人類が歩んできた長い歴史の中で、画期的な変化です。
情報革命真っ最中の社会ではウソをついても簡単にバレる世の中になってきて、「本当のこと」がネットを通じてあっという間に広がるようになってきました。
だから個人としても、本当に好きなものを好きと自分の意見をはっきり言ったり、行動することが重要になると思います。
情報革命では情報を発信する表現者やクリエイターがより重要になるので、西野さんは革命の志士だと思っています。
―時代の空気ではなく情報革命が起こっているからですね!理解しました。大きな変革期を前に、新しい生き方に踏み出すことを怖いと感じる人もいると思います。何かアドバイスをいただけますでしょうか。
僕が約20年間勤めてきた会社を46歳で辞めて、フリーランスになる決断ができたのは「バラエティ思考」だからだと思います。
バラエティ思考とはテレビのバラエティ番組で映像を見ている時のスタジオ出演者のリアクションワイプ画面のことで、自分の人生を俯瞰して見ているような別の視点を持つことです。
ある状況をワイプ画面目線で見ると一見悲惨な状況も逆におもしろくなります。
そのようにバラエティ思考で考えると自分の失敗がネタになるから、例え独立して失敗しても、その時はそれをネタに新たな書籍を作ればいいと思いました。
人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だという言葉があるように、ワイプ画面を通じて俯瞰したもう一人の自分が、冷静にその人生をおもしろがるようなバラエティ思考をすれば、失敗をおもしろがることができると思います。
―バラエティ思考で考えれば、失敗すればするほどおもしろいですね!勇気を持って一歩踏み出せそうです。本日はありがとうございました!
「好きなことだけやって生きていく」という提案
角田 陽一郎
出版社: アスコム

