「同じキャリアなら女性が昇格?」産業カウンセラーに聞いた仕事のストレス原因とは?

非公開のセッション内容をストーリーに

現在、ビジネスパーソンはどんなことに悩んでいるのでしょうか。開業してから10年で6,000件以上のパーソナルセッションを実施してきた産業カウンセラーで『仕事は人間関係が9割』の著者、宮本実果さんに、セッションのリアルなやり取りをプライバシーに配慮した形で、再現したストーリーを寄稿いただきました。(第1章よりシリーズ連載中

第二章「多様性の中で働くということ」 (Episode3)

様々な場面で使われる多様性というワード。そこには、LGBTの問題や女性活用、働き方、考え方、価値観、信仰宗教など様々な問題が取り上げられます。この章での多様性とは考え方やキャリアについて取り上げていきます。第二章「多様性の中で働くこと」のEpisode3は、男性から見た不公平感のストーリー「同じキャリアなら女性が昇格?」をテーマに書きました。登場人物が抱える問題の本質はどこにあるのか?みなさんも一緒に考えてみましょう。

Episode3

同じキャリアなら無条件に女性が昇格か?

―女性活用の時代なのはわかるけれど
そもそも、あの人と自分の違いは性差以外に?

この会社はどこへ向かっているのか?

会社の中には、こんな時代に、管理職になっても面倒なだけで、なんの得があるのか?と嘆く社員もいれば、とにかく昇進昇格したいと思う社員もいます。

一方で、働く人を公平に評価することよりも、企業の都合によって同じようなキャリアであれば、男性か女性のどちらか一方を性差理由によるさまざまな背景で昇格させる事例も耳にします。

今回は、そんな企業の都合で自分のキャリアを台無しにされたと思っている34歳男性のお話です。ぜひご覧ください。

会社に裏切られた気持ちでいっぱい

ある日曜日の夕方に、1通の予約メールが筆者宛に届きました。相談内容は「会社を信用できないと思う出来事があったので、冷静なアドバイスをもらいたい。」というものでした。

相談者の岡田さんは、34歳の男性で、新卒からずっと金融系企業に勤務し、秋から念願の部署に異動してきたばかりだそうです。月曜日の夜、岡田さんとカフェで待ち合わせをしてお話を聴くことになりました。

岡田:今日は、正直会社に行く気にはなれない朝でしたけど、とりあえずなんか悔しいので会社で仕事を終えてから来ました。

―会社に行く気になれない出来事がありましたか?

岡田:去年の秋に今の部署に異動になったんです。自分にとって念願の部署で、ここ数カ月間、とにかく嬉しい気持ちと、期待に応えたいという気持ちで一生懸命頑張ってきました。

ところが、先日、飲み会の席で部長と課長の会話が聞こえてきて、「これからはうちの会社も女性の管理職をどんどん増やしていかないといけないから、次世代管理職候補はAさんだね。」と話していたんです。

Aさんは、私の同期で、育児休暇から復帰して、いまは時短勤務で働いている女性です。私のことは一切話に登場せず、正直すごくショックを受けてしまいました。

―先ほど、おっしゃっていた「悔しい」というのはそのことですか?

岡田:そうですね。つい最近まで、仕事を頑張ったら頑張った分だけ実を結ぶと思いながら上司が言う理不尽なことにもちゃんと耳を傾けていましたし、先輩に誘われる飲み会も全て前向きに参加していました。

なのに、管理職候補はなぜAさんだけの名前が出てきて私の名前がないなんて...。

結局、女性の方が有利なのか?

【カウンセラーの視点①】岡田さんは飲み会の席での部長の話を真面目に捉えているようですが、そう考えてしまう背景が気になるので、確認してみましょう。

―岡田さんがその話を耳にしたのは、飲み会の席ですよね?そこまで気にする理由は何かありますか?

岡田:確かに、飲み会の席の話をいい大人が鵜呑みにするなんて、おかしいのはわかっています。でも、これは、思い込みではなくて、ちゃんと根拠があるんです。

私の在席部署は、8名ほどで、他の部署とも積極的に関わるやりがいのある部署です。そこに同期のAさんがいるんですが、入社した頃は、Aさんとは頻繁に飲みに行っていました。

その頃Aさんは、「会社って同じくらい働いても男性の方が出世するんだろうね。」なんて言っていましたが、むしろ今は、逆の時代で、管理職候補は同じキャリアがあるなら女性の方が有利な時代なんです。

―確かに、部長と課長もこれからは女性の管理職を増やさなくてはいけないと話していたようでしたね?

岡田:そうです。だから、私の名前がその場で出なかったのは、私が女性ではないからというのもあるのかもしれません…。でも、それを理由に管理職候補を無条件に女性にするのは意味が分かりませんし、納得できません。とにかく平等ではないと思います。だから、すごく悔しいんです。

―ということは、岡田さんは管理職候補に挙がらなかった理由は女性ではないからだと感じている?

岡田:うーん…。おかしな話なのは分かっています。でも、それ以外思いつきません。

追求するポイントはあっているか

【カウンセラーの視点②】今まで、理不尽な状況にも耐えながら頑張ってきたからこそ、岡田さんの名前が管理職候補にあがらなかった状況が悔しかったのかもしれません。もう少し客観的な視点で整理してみましょう。

―岡田さん、セッションお申込みの時は、問題を冷静な視点で見つめたいとおっしゃっていましたね?

岡田:そうです。同期のAさんだって、仕事を頑張っていますし、別に時短で働いているから、管理職になれないということはないと思っています。

わかっている一方で、今の自分はなぜか感情的になってしまっているので、冷静にならなきゃいけないと思っているんですけれど、なんだかモヤモヤが解消されないんです。

―自分の中で葛藤があるということですか?

岡田:そうですね。たしかに何か葛藤があるのかもしれません。

―では、ちょっとここで話を整理していきましょう。まず、同期のAさんが入社当時おっしゃっていた通り、12年前の入社時は会社の中で昇格するのは男性の方が有利だった状況だったわけですよね。そこから、近年では、女性活用の時代だからということで急に女性の方が昇格に有利になったという状況に変わったと感じているのですね?

岡田:まぁ…そうですね。確かに…。だから、私の中ではAさんに対しては別に不満も文句も全くないんですよね。そもそもAさんからしてみれば、「急に上司の言っていることが変わってきて、何が女性活用の時代だとか言ってるんだよ…。」と呆れちゃうような話ですよね。

振り回されているのは誰だ?

【カウンセラーの視点③】このお話は、最初から一貫性のない昇格問題に岡田さんが惑わされている事例なのだと考えられます。そもそも、管理職になる条件や昇進昇格の条件は男性や女性の性差に紐づいているわけではありません。根本的な問題点の本質と向き合ってみましょう。

―岡田さん、大丈夫ですよ。かなり冷静な状態でお話されているようなので、このまま状況の整理を一緒にしていきましょう。管理職の定義とまではいきませんが、御社において管理職になるためには、結局何が必要ですか?

岡田:正直、わかりませんね。(笑)先日の、部長と課長の会話からしても、世の中の流れや会社の都合に合わせた設定で二転三転しているイメージしかありません。

―そうですよね。ということは、部長も課長も、結局のところ、明確な管理職になるための条件や定義は理解できていると言えるでしょうか?

岡田:ある程度はもちろんあると思います。現に、本人たちは管理職なわけですから。でも、それを明確に聞いた事もありませんし、ちゃんと説明できるようには思えません。あの世代は、ある程度成果を出して、社内政治が上手くいっていると管理職になれたんじゃないですかね?

―ずいぶんと辛口なコメントですね。とはいえ岡田さんがおっしゃることが事実ということになりますよね。

岡田:そうですよ。私も、同期のAさんもなんか振り回されている感じがしてきて、モヤモヤしているのかもしれません。結局何を頑張ればいいのかも、全然わからなくなってきました。

明確な指針がないと不安しか与えない

【カウンセラーの視点④】どうやら、モヤモヤの正体は明確になったようです。しかし、このままでは岡田さんの仕事に対するモチベーションは下がっていく一方の可能性が高いです。本人の気持ちにさらに寄り添って今後について考えていきましょう。

―結局、モヤモヤしていたのは、女性が昇進昇格に有利であることではなく、上司や会社の方針が世の中の流れに、二転三転してしまうことだったということになりますか?

岡田:ほんと、そうでした。この会社にこれからずっと働いていても、また次には何を言い出すかわからないですし、この会社はどうしたいんだよ!って思ってしまいますね。

―では、岡田さんはこれからどうすれば良いと思いますか?

岡田:どうすればいいか分かったら悩まないです…。

―そうでしたね。このまま、この気持ちを引きずって仕事に向き合うのも悩んだ状況が続くかを考える前に、岡田さんは本音を言うと、この会社でどのようなキャリア形成をしていきたいと思っていますか?

岡田:やはり、入社当初からキャリア志向だったので、管理職を目指したいです。とはいえ、この会社で管理職になる事は今不安しかないんですけどね…。

―ただ世の中の流れに沿った方針を会社が打ち出してばかりだと不安になるのは当然ですよね。部長や課長も現状だと、明確な指針は出せていないようですよね。

【まとめ】常に時代に沿ったアンテナを持てば現状は予測できる

【カウンセラーの視点⑤】気持ちの整理は出来たものの、岡田さんはすっかりモチベーションを下げてしまった様子です。ここでは、誰かを責めたり会社の制度を批判するだけでは、岡田さんの悩みを解消することはできません。まず、目の前の問題をクリアして先に進めていきましょう。

―このままの気持ちが続くと、岡田さんのモチベーションも下がったままになりますよね?今まで一生懸命頑張ってきたことは、本当に無駄なのでしょうか?

岡田:上司の意味不明な発言とかも頷きながら聞いてきましたし、自腹を切った先輩との飲み会にも散々付き合ってきました。本当に、意味のある時間を過ごしてきたとは今の私には思えないので、時間とお金を取り戻したい気分です。

―岡田さん、ところで、女性活用やダイバーシティ制度を積極的に導入するという話は、そもそも急に降って湧いて出てきた話でしょうか?

岡田:まぁ、入社して数年後ぐらいには、女性管理職を2020年までに2割にするとかそういったことは、一般的に言われていましたし、ダイバーシティもそれなりに前から言われている事だったと思います。

―そうですよね。今話していることは、一般のビジネスパーソンで、アンテナを張って仕事をしていれば、予測できる流れですよね?岡田さんが管理職を選抜する立場なら、世の中の流れをつかみながら仕事をすることができない人を選びますか?

岡田:…。選ばないですね…。

―お話を聴いていると、同期のAさんは初めから時代をつかみながら仕事をしていた会話をしています。

女性が活躍しやすい環境になってきた時期もしっかりつかみながら自身が育児をしながら時短勤務をしていても、決して仕事の手を抜かず、パフォーマンスを上げているかもしれません。客観的に見てどう感じますか?

岡田:確かに、Aさんは本当に頑張る人で、現状を正しく理解して、常に一番いい方法を模索しながら働いているんだと、飲みにいくたびに語っていました。

―だとしたら、Aさんを管理職候補にした部長や課長の会話は確かに「女性活用の時代だから」という主語はおかしいですけれど、結果的に全く間違った見解ではないのかもしれませんよね。

岡田:なんか、そうきっぱり言ってもらえると爽快です。(笑)

―物事の本質を、部長と課長が理解して、Aさんを次世代管理職候補だと言ったのかどうかの真実はわかりませんが、ここでの問題点は、この話は急に湧いて出た話ではなく、岡田さんにとって予測できた状況だったということになります。急に落ち込んでしまっては、もったいない状況ではありませんか?

岡田:たぶん、部長と課長はわかっていないと思いますが(笑)。ただ、おっしゃる通り、私の日々のリサーチ不足か、なんとなく日々過ごしていて、流れに乗っかって管理職になるための本質を見ずに過ごしてきた結果かもしれません。なんか、人のせいにしてしまっていましたね。すごくスッキリしてきました。また、明日から新しい視点で頑張ってみたいと思います。

このセッションの要点

このセッション事例は、管理職候補になれていないことを飲み会の席で耳にしたことで、一気に仕事へのモチベーションが低下した34歳の男性の事例でした。

入社後は、社内の人間関係や社内政治のみを視野に入れ、キャリア形成をすると、今回の事例のような世の中の流れに合わせた会社の方針に心がついていけず、大きなショックを受けてしまうことがあります。

重要なのは、常に社内だけではなく社外や世の中の流れに目を向け、冷静に判断しながらキャリア形成を着実に歩むことです。


宮本 実果(みやもと・みか)/MICA COCORO代表 産業カウンセラー
1975年、札幌生まれ。フリーアナウンサー、鉄道企業本社広報、人材開発コンサルタントなどを経て、産業カウンセラーを取得。2007年、MICA COCORO(東京都渋谷区)を設立。10年間で6,000件のセッションと社員研修を行いビジネスパーソンの問題解決を多方面でサポートする。2015年から社内外で通用する人材育成を目指した「NEXT STAGE PROJECT」をプロデュース。著書は「仕事は人間関係が9割」(クロスメディア・パブリッシング)

 

[文]宮本 実果 [編集] サムライト編集部

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