1日5、6時間労働で利益は上げられる?短時間労働を実現した会社の仕組み

「1日5時間労働」は机上の空論?

日本からおよそ1,200km西に浮かぶ島、シチリア島の公務員は朝9時に出勤し、昼休み無しで午後2時まで働き、家に帰ってしまうのだそうです(実質労働時間は5時間)。

公務員でなくともシエスタ(午睡)の習慣が残っており、昼休みが2時間もあって、従業員はその間に家に帰って家族と過ごすのだとか。かたや日本では「2019年度内を目標に月残業時間の上限を45時間に規制する法律を作る!」と騒いでいます(「働き方改革実行計画」)。

日本とシチリア島の働き方の差は、まるで別の星かと思うほどです。しかしこの「5時間労働」は、もはや夢物語でも遠いイタリアの島に限った話でもありません。以下では5時間もしくは6時間といった短い就業時間を導入し、成功している企業の取り組みとその効果を紹介します。

5時間労働を実現した「フューチャーイノベーション」

東京都港区赤坂に本拠地を持つ不動産投資コンサルティング会社「株式会社フューチャーイノベーション」は、設立当初から全スタッフの13時〜18時の5時間勤務体制を導入しています。午後から勤務がスタートするのは、朝の通勤ラッシュで疲れてしまって生産性が下がるため。

12時からではなく13時からになっているのは、昼食後は眠くなってしまって生産性が下がるためです。2017年5月時点では、取引先との関係で多少の残業はあるものの、遅くても19時には全スタッフが退社しているのだそうです。全部で20人いる社員からの評判も上々で、家族との時間や自己投資の時間が増え、中には前職と同じ年収にもかかわらず勤務時間が丸々半分になったという社員もいます。

毎日残業を重ねている人からすれば「5時間で退社?そんなので仕事が終わるわけがない!」と言いたくなるでしょう。しかしフューチャーイノベーションの場合、決められた就業時間の中でいかに仕事を終わらせるかを全スタッフが追求して働いているため、業務に支障は出ていません。

もちろん業種にもよるでしょうが、少なくともフューチャーイノベーションのビジネスモデルにおいてはシチリア島と同じ5時間労働は十分実現可能な働き方なのです。

「スタートトゥデイ」は6時間労働歴5年

他社に先駆けて「週5日8時間労働」という「常識」を疑って、6時間労働制を確立したのはZOZOTOWNを運営する「株式会社スタートトゥデイ」です。同社が6時間労働制を始めたのは2012年5月。

6時間労働制を「ろくじろう」と名付け、全社的に取り組んでいます。同社の労働時間短縮の試みは2010年から始まっており、その際の労働時間は7.5時間でした。そこから2年もせずにさらに1.5時間の削減を行い、しかも8時間労働の頃と社員の給与にも変動はないのそうです。それだけスタートトゥデイという組織の生産性が向上したということです。

基本の就業時間は9時から15時。労働基準法は6時間以上働く場合は最低45分の休息を義務付けていますが、スタートトゥデイの場合は6時間以内に収まっているため、昼休みは必要ありません。そのためデスクで軽食などはとるものの、同社の社員はランチを取らずに6時間きっちり働きます。

しかしスタートトゥデイの場合、ただ就業時間を6時間にしただけでは業務は回りません。そこで従来は1時間単位だった会議時間を45分に短縮し、特に前澤友作社長の出席する会議で膨大になりがちな資料を、前澤社長の号令で極力持ち込まないように指示しました。

社内メールもより簡潔に、口頭で伝えられるのであれば口頭で済ませるなど、無駄な仕事は徹底的に排除されています。

前澤社長は本来人間が集中できるのは1日のうち3時間から5時間くらいと考えており、それを週3日から4日ほどの頻度で行う働き方が人間らしくて自然だとしています。にもかかわらず今の日本の企業は就業規則で「8時間労働」を定め、集中してもいない社員に8時間どころか残業までさせています。

残業する頃にはすっかり集中力は切れているわけなので、残業代は「仕事ができなくなっている社員」に1.5倍の給料を払って働かせるという無駄なコストになってしまいます。こうした状況へのアンチテーゼとして、スタートトゥデイは6時間労働を打ち出したのです。

午後1時には帰る米企業「Tower Paddle Boards」


米国サンディエゴでスタンドアップパドルボートを販売するメーカー「Tower Paddle Boards」の社員は、朝の8時に仕事をスタートさせて昼の1時には仕事を終える5時間労働制を確立しています。

創業者のStephan Aarstolさんによれば、8時間労働をしていた頃に比べて同社の社員の生産性は2倍になり、社員の健康面や仕事へのモチベーション面でもプラスの効果が表れたそうです。Tower Paddle Boardsは2014年にサンディエゴで最も成長した企業にも選出されています。

このことからは「経営が磐石な大企業や、事業規模の小さな暇な企業でしか5時間労働制は実現できない」というネガティブな意見が、いかに無意味なものかがわかります。

またAarstolさんは人間の集中力について、スタートトゥデイの前澤社長とよく似た見解を持っています。Aarstolさんは8時間働いている社員も、実際きちんと仕事をしているのはそのうち2時間から3時間程度で、残りの時間はその2時間だか3時間だかの仕事のための準備時間にすぎないと考えているのです。

この Aarstolさんの意見に耳を塞ぎたくなる人は多いのではないでしょうか。「タバコミュニケーションだ」といってしょっちゅうタバコを吸いにデスクを立ったり、「頭をスッキリさせないと」などといって自動販売機にコーヒーを買いに行ったり、「ちょっと気分転換」といってSNSを覗いたりYouTubeを観たり……こうした無駄な時間を全てカットして昼の1時に帰れるのだとしたら、みなさんはどうしますか?

スウェーデンの企業が明らかにした「6時間労働」の効果

スウェーデンは2012年の経済協力開発機構(OECD)加盟国中、最も労働時間の短い国のひとつに数えられました。このスウェーデンで2015年から2017年の2年間に、複数の企業が8時間労働制から6時間労働制への試験的な移行を行いました。

目的は従業員の意欲と生産性の向上。実際とある介護施設では最初の18ヶ月で看護師の病気休暇が減少し、生産性は85%も向上しています。また精神的な幸福度もより高くなり、家族との時間が長くなったり、仕事へのモチベーションが上がったりと、ここまで紹介してきた企業のような数々のプラスの結果が見られました。

しかし一方で6時間労働制にしたことによる問題も表面化しました。それはコストの問題です。ある老人ホームでは既存従業員の労働時間の穴埋めをするために追加で17人の職員を雇わなければなりませんでした。

また同国のスタートアップ企業の中には、6時間労働制を導入してからたった1ヶ月で終了することになった企業もあります。その理由は端的に「仕事が終わらないから」。

6時間の就業時間内に仕事が終わればこの制度は素晴らしいものになりますが、そうでなければ逆に社員のストレスレベルを上げる最悪の制度になってしまうのです。

もちろん時間内に仕事が終わるように効率化を進めるのが就業時間短縮の目的ですが、それでもやはり業種や企業のレベルによって向き不向きはあります。

とはいえ組織として就業時間短縮にチャレンジすることは無駄ではありません。短い期間でも挑戦してみて、業種や企業のレベルとして不可能だということがわかれば、それはそれで収穫です。

またその期間に生まれた生産性向上のためのアイディアは、8時間労働制に戻したあとでも活用可能です。6時間労働制の確率は無理でも、残業時間の短縮にはつながるでしょう。

「1日8時間労働」が唯一の働き方じゃない

ここで紹介した5時間労働制や6時間労働制は、これまで常識だった「正社員は1日8時間働くもの」という価値観をつき崩す存在です。これらの制度を成功に導いた企業は、1日の3分の1を仕事に捧げるという働き方が唯一ではないということを証明したのです。

組織として取り入れるか取り入れないかという視点だけでなく、「正社員はこういうもの」「働くってこういうもの」という固定観念を取っ払うという視点でも、こうした企業の動きには今後も注目しておきたいですね。

Career Supli
本気で取り組めば、1日5、6時間労働は7割ぐらいの企業で実現可能なのではないでしょうか。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部