「ゆうパック」の生みの親に学ぶ!「当たるネーミング」の作り方

そのネーミングで大丈夫?

どんなに性能が高い製品でも、どんなに内容が充実したサービスでも、それが成功を収めるためには誰もに愛され、口に出したくなるような「名前」が必要です。名前をつける、つまりネーミングをするのは「ネーミングセンス」なんて言葉があるように、一見するとセンスの問題のように考えられがち。

しかし実は必要なステップをシステマティックな方法で処理していけば、ある程度までのクオリティのネーミングは、誰にでもできるのです。ここではそのための方法を、ネーミング開発のパイオニア的存在である、株式会社創造開発研究所代表・高橋誠さんの著書『最新のネーミング強化書』を基に解説します。

ネーミングがヒットを作り出す

7-Eleven store

日本国内では毎年数え切れないほどの新商品・新サービスが登場し、その多くが1年足らずで姿を消しています。例えばコンビニで発売される新商品は年間5,000点ほどですが、そのうちほとんどは2週間ほどで取り扱われなくなります。さらに3,000点にも及ぶコンビニ各店のラインナップのうち、1年以上も取り扱われ続けるのはたった3割ほどしかありません。

このようなモノ・サービスの群雄割拠の時代に生き残るために、各社は日々様々な工夫を凝らすわけですが、ある調査によると商品のヒットの要因はダントツで「ネーム」が第一位なのです。

確かに「スローガン」や「パッケージ」も同じ調査で大きなヒット要因としてあげられていますが、それらにいくら労力をかけても、肝心の「ネーム」がイマイチではなかなか結果につながらないということです。

例えばレナウンは1987年に高機能靴下「フレッシュライフ」を新商品として打ち出します。しかし商品は良いのに売上は一向に伸びません。そこで名前を電車の「通勤快速」をもじった「通勤快足」に変更したところ、1年後には売上が10倍に伸び、一気に知名度が上がったのです。

伊藤園が他社に先駆けて発売した緑茶飲料「缶入り煎茶」は1984年に誕生していますが、現在の「お〜いお茶」になったのは1989年のことです。1988年時点でも20億円の売上があった同商品ですが、改名後の年はその倍の40億円もの売上を記録しています。このようにネーミングはヒットを作り出す大きな要因なのです。

ネーミングは4つのステップで開発する

ネーミングの開発は以下で解説する4つのステップから構成されます。

●ネーミングのコンセプトを決める

第一のステップではネーミングを開発にあたっての課題の把握とコンセプトの設定、作業計画の策定を行います。漠然と机の上で考えているだけではネーミングをシステマティックに決められません。「ターゲットは誰か」「どんな目的のモノ・サービスなのか」など細かな計画を基に考えてこそ、センスに頼らないネーミングが実現できるのです。

例えば玩具メーカーのバンダイが発売している「大人の超合金」シリーズは、「大人の」というわかりやすいフレーズと「超合金」という70年代に流行した「超合金マジンガーZ」などをイメージさせるフレーズで構成されています。ターゲットの大人たちがの懐かしい気持ちになりながら、その商品を手に取りたくなるような、コンセプトにしっかり寄り添ったネーミングと言えるでしょう。

●ネーミングのアイディアを出す

第二のステップではネーミング開発チームのメンバーで、ひたすらアイディアを出します。メンバーの人数は5人〜7人程度が理想で、1回の「発想会議(アイディアを出すための会議)」は2時間〜3時間まで、300個〜500個ほどのアイディアが出るように準備を進めます。

発想会議の後にはアイディアを簡単にまとめる「収束会議」を行います。この会議は同じフレーズやイメージを使っているネーミングをまとめ、全体を俯瞰するためのものです。その中で新しい切り口や抜け落ちていた視点を洗い出し、さらなるアイディア出しに役立てます。与えられた課題の規模が大きいほど、大量のアイディアが必要になるため、発想会議と収束会議を繰り返し行う場合もあります。

●アイディアの中から候補を絞り込む

第三のステップでは300個〜500個ほどある案の中から、採用候補となる案を絞り込みます。始めに「意味はわかるか」「長すぎないか」「オリジナリティはあるか」などざっくりとした基準を使って、発想会議のメンバーで100個程にまで絞り込みます(第一次評価)。次にベテラン社員を中心とした「評価チーム」を作り、そこで30個程度まで候補を絞ります(第二次評価)。

この30個を商標の検索サービスにかけて、既存の商品やサービスと被らないかを確認し、被ったものは削除していきます。類似しているかしていないかの判断は素人には難しいため、この段階で弁理士に手を借りる必要もあります。さらに評価基準を作り、それに基づいて10個程度にまで絞り、最終的に意思決定者(上長やクライアント)に「登録案」として2個程度に絞ってもらいます。

●商標登録を行う

第四のステップでは商標を特許庁に申請して登録します。登録認可をもらうためには文字・図形・その組み合わせを基本として、音・色彩・動きなどで類似のものがないように、商標を考えなければなりません。弁理士と相談しながら出願手続きを終えたら、ネーミング開発自体は終わりです。

ネーミングのアイディアはこうやって出す

「ネーミングのアイディアを出せ」と言われて、すぐに何十個も思い浮かべられる人はあまりいません。『最新のネーミング強化書』にはより効率的にアイディアを出すテクニックが紹介されていますが、ここではそれらのテクニックの根本になる、基本的なルールについて紹介します。

1.キーワード辞書を作成しておく

キーワード辞書とは第一ステップの「ネーミングのコンセプトを決める」で用意した、ネーミングのキーワードを基にして作成する発想の源です。「数カ国語辞典」や「類語辞典」を使って同じ言葉を他の言語や類語に言い換える際に活用します。

2.「異質なメンバー」を集める

Young visionaries in design

同じような性質のメンバーで発想会議を行っても、同じようなアイディアしか生まれません。「専門分野が違う」「性別・年代が違う」といった違いのほか、そもそもネーミングの課題と無関係の人を混ぜるなど、とにかく異質なもの同士を同じ発想会議の場に集めるようにします。これによって多方面からネーミングを検討することができます。

3.「コーディネーター」の役割を知る

発想会議の成否はコーディネーターにかかっています。自分の意見は二の次三の次で、メンバーがいかに気分良く自由に発想し、発言できるかをマネジメントするのがコーディネーターの仕事です。会議が行き詰まったら新しい切り口を提供したり、メンバーのモチベーションを引き出したり、会議を活性化できる人を配置しましょう。

4.発想会議の環境を整える

発想会議は「楽しく」「リラックスして」行うことが重要です。そのため上座・下座などがなくなるように机の配置を考えたり、BGMや匂いなどについても工夫が必要です。発想さえできればいいので、何も会議室にこだわる必要もありません。ホテルのラウンジや公園など、開放的な場所を選んでも構いません。

5.「質より量」を出すルールを守る

発想会議の肝は「量」です。そのためには5つのルールを守らなくてはなりません。一つは「出されたものの良し悪しをすぐに判断しない」というルールです。「つまらない」「それはダメだな」などと言われれば、自由な発想は到底無理だからです。

二つ目は「何を言っても良い」というルールです。全ての固定観念や常識を捨てなければ柔軟な発想は生まれません。三つ目は「とにかく数を出そう」というルールです。「変だと思われないかな」なんて遠慮は無用。思いついた端から口に出していきましょう。

四つ目は「1つのことを複数の視点から考える」というルールです。単なる石も見方を変えればトンカチやペーパーウェイト、ボールや積み木など様々な用途が見えてくきます。既成の概念にとらわれないことが重要です。五つ目は「他の人のアイディアに便乗して自分のアイディアを発展させる」というルールです。これによりさらにアイディアの量を増やすことができます。

ネーミングを「評価」する方法

最後にネーミングのアイディアを絞り込む際に、その良し悪しを判断するための基準を3つ紹介しておきます。

1.「意味」「視覚」「音感」

ネーミング評価の基礎となるのがこの3つです。いくら面白くて奇抜でも、意味がわからなければ消費者には受け入られませんし、文字・図形・色彩といった見た目にインパクトがなければ訴求力は大幅に低くなります。また、映像メディアが増えてきた昨今では音感も重要です。

2.「7文字以内か、それ以上か」

長いネーミングはそれだけでふるいにかけるべきです。確かに長いネーミング、例えば「栗原さんちのおすそわけ」「シャワートイレのために作った吸水力が2倍のトイレットペーパー」なども奇抜さで言えば秀逸です。しかしこれらはあくまで例外的な存在で、基本は7文字以内に抑えるのがセオリーです。

3.「見、読、書、聞、話、覚」の「6やすさ」の有無

1の基準をさらに掘り下げると、見やすさ・読みやすさ・書きやすさ・聞きやすさ・話しやすさ・覚えやすさの6つの評価基準になります。少しでもこの「6やすさ」に欠けていれば迷わずふるいにかけましょう。発想会議で十分な量のアイディアを出せていれば、それでも十分候補案は残るはずです。

「たかがネーミング」ではない

新商品であればニーズに対応した性能、サービスであれば充実したサービス内容はヒットするための大前提です。しかしどんなに苦労して素晴らしいモノ・サービスを作り出しても、ネーミングがマズければ全ては水の泡となります。

「名前なんて、きちんとしたモノ・サービスを提供していれば関係ない」などといった旧時代の概念はキッパリ捨てて、本気でネーミング開発に取り組んでいきましょう。

参考文献『最新のネーミング強化書』
Career Supli
簡単なようで難しくて奥が深いのがネーミングです。ぜひ一度研究してみましょう。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部