楽しく働き続けるために「仕事の辞めどき」を見極めよう

楽しく働き続けるための3つの問い

「仕事は辛くて大変なもの」「楽しい仕事なんて一部の人たちだけのもの」今の日本では、こうした考え方がまだ常識的かもしれません。しかし「好きなことだけ」で生きるための実践的4ステップでも紹介したように、今後好きなことで楽しく働いていなければ生き残れない時代がやってきます。「楽しく働き続ける」というワークスタイルを確立しておけば、いざそんな時代が来ても慌てふためかずに対応できるはずです。

ここでは元ボストンコンサルティンググループで、現在は「職業人生の設計」の専門家として活動する北野唯我さんの著書『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』を参考に3つの問いを立て、それをきっかけに楽しく働き続けるための転職の考え方を解説します。

今の職場は自分にとって「適切な状態」か?

●楽しく働くために必要なもの

北野さんの著書によれば人間には何をするのかで物事を考え、明確な夢や目標を持っている「to doに重きを置く人間」と、どんな人でありたいか、どんな状態でありたいかを重視する「beingに重きを置く人間」の2種類がいます。このうち「to doに重きを置く人間」はたった1%しかおらず、残りの99%が「beingに重きを置く人間」だと北野さんは言います。

楽しく働くために必要なものは何かと問われて、一番最初に出てきやすい答えは「好きなもの・こと」「どうしてもやりたいこと」です。なぜなら楽しく働くためには「好きなもの・こと」「どうしてもやりたいこと」を仕事にする必要があると考えられがちだからです。実際大きな成功を手にしている人たちほど、これらを仕事にしているように見えます。しかしこれはたった1%しかいない「to doに重きを置く人間」のための回答です。

一方の「beingに重きを置く人間」にとっては、何をするかは大して重要ではありません。だから大半の人が「好きなもの・こと」「どうしてもやりたいこと」を見つけらないのは当然と言えば当然。本来このタイプの人に必要なのは自分が楽しく働くにあたって適切な状態なのです。

●「適切な状態」の見極め方

では適切な状態とは、どのように見極めればいいのでしょうか。北野さんは適切な状態のチェック方法として、「楽しいと思えるRPGゲームはどんなものか」という問いを立てています。

1.自分の状態:主人公は適切な強さか。主人公は信頼できるか
2.環境の状態:緊張と緩和のバランスは心地よい状態か
引用:前掲書p217

主人公がやたらと使いづらかったり、能力が低かったりすれば、どんなに素晴らしいシナリオでもゲームは面白くなりません。また物語の冒頭からボス級の敵ばかり出てくるようなゲームも、プレイしていて疲れてしまい、楽しめません。逆に主人公が強すぎたり、弱い敵しか出てこなければ飽きてしまいます。

楽しく働き続けられる仕事もしくは職場かどうかは、これと同じ基準でチェックできます。今の仕事があまりにもキツすぎて毎日疲れ切っていたり、もしくはルーティンワークでこなせる仕事ばかりで飽きていたら黄信号。今後もその状態がずっと続きそうなら赤信号で、それに気づいた今こそ辞めどきと言えます。

今の仕事が今後伸びるか・消えるか?

●仕事にも「寿命」がある

楽しく働くにあたっての適切な状態を実現するためには、今の仕事の寿命を知る必要があります。なぜならこれから伸びる仕事はどんどん活躍の舞台が増え、「緊張と緩和のバランス」が保たれますが、消えていく仕事の場合は活躍の舞台は減る一方で、バランスが保たれないからです。

※前掲書p52をもとに作成

仕事の寿命は「仕事のライフサイクル」というフレームワークでチェックできます。

始めたばかりのニッチな仕事は他に誰もやっていないので代替できませんが、そのぶん市場が未成熟なのでイス=雇用数は多くありません。しかしニッチな仕事が儲かるとわかると新規参入が増え、スターの仕事になり上がります。この時点ではまだ代替可能性は低く、しかもイスの数も増えています。

ところがある程度市場が成熟していくと、仕事そのものがシステム化され、代替可能性が高められていきます。それがルーティンワークの段階です。システム化はどんどん進行し、最終的には人間の手が必要ないところまで自動化され、消滅の段階へと進んでいきます。

●ルーティンワーク以降の仕事は辞めどき

人工知能の発達が著しい昨今では、ルーティンワークから消滅の段階に置かれている仕事に心当たりのある人も多いのではないでしょうか。これから伸びる仕事(ニッチ)やいま伸びている仕事(スター)での経験や専門知識は、今後のキャリアで役に立ちます。しかしルーティンワーク以降の段階にある仕事は今後なくなっていく一方ですから、頑張って続けていても報われずに終わる可能性が高くなってしまいます。つまり辞めどきの仕事というわけです。

またルーティンワーク以降の仕事は給与面でも旨味が少なくなりがちです。なぜなら給与は業界全体で生み出される価値を配分したものだからです。そのため仮に同じようなレベルの人材でも、100億円の価値を生み出す業界にいる人と、1億円の価値しか生み出さない業界にいる人では、給与の大きな違いが生まれます。ルーティンワーク以降の仕事では、そこから生み出される価値も減少傾向にあるため、必然的に給与も低くなってしまうのです。このような面からも、ルーティンワーク以降の仕事は辞めどきだと言えるでしょう。

「消去法」で今の職場に残っていないか?

●認知的不協和の解消とサンクコスト効果

「自分には転職するほどの能力はない」
「自分はここで働いていくしかない」

こうした消去法で今の職場に残っている場合も、その仕事の辞めどきだと言えます。最も大きな理由は「ここだけが自分の居場所だ」と考えると、人間は自分に嘘をつき、最終的には適切な自分の状態の条件である「主人公は信頼できるか」に反した状態になるからです。

ここには心理学で言う「認知的不協和の解消」が働いています。認知的不協和とは、認知における矛盾を指します。「ここだけが自分の居場所だ」という認知に対して、「でも仕事は楽しくない」「でも毎日激務で心身ともに辛い」という認知があると、そこで矛盾が起こり、認知的不協和が発生します。

すると人間の心理は、前提となる今の職場が自分にとっての唯一の居場所であるという認知に合わせて、楽しくない仕事や心身の不調という事実を捻じ曲げて解釈し、「やりがいがある」という認知にすり替えてしまいます。これが認知的不協和の解消です。

そもそもこの「ここだけが自分の居場所だ」という認知には、「サンクコスト効果」も働いています。

「何年も頑張ってきたのにもったいない」
「苦労して入社したのにもったいない」

そうしたすでに支払ったサンクコスト(戻ってこない費用)に執着すると、その穴埋めをするために認知的不協和の解消が起きるというわけです。

●自分に嘘をついていたら楽しく働けない

つまるところ自覚できない間に正常な判断力を失い、自分に嘘をついてしまうのです。楽しく働き続けられる場所では、そんなふうに自分に嘘をつき、自分への信頼を失うことはありません。

以上のことから、消去法で今の職場に残っていると気づいたそのときが、今の仕事を辞め、自分にとって適切な状態を手にするタイミングと言えるのです。

今の仕事を見つめ直そう

転職は確かに人生における大きな決断です。しかしもし今の仕事が辞めどきなのであれば、それは必要な決断です。ここで挙げた3つの問いや、北野さんの著書『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』を参考に、もう一度今の仕事を見つめ直してみてはいかがでしょうか。

参考文献『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』
Career Supli
今年ベスト5に入る名著です。ぜひよんでみてください!
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部