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後悔しない転職がしたい!
今転職するべきか、それとも実績を残したり、役職者になってから転職するべきか。あるいは「内定をもらいやすい時期」に転職活動をするべきか。「転職(あるいは転職活動)なんてするんじゃなかった」と後悔しないためにも、転職の時期は悩ましい問題です。
ここではキャリアや人生のステージ、企業の求職活動の切り口から転職の「有利な時期」「不利な時期」について考察します。そして最終的にどのように決断すれば後悔しないで済むのかを、NASAなどでも活用されている合理的な意思決定のツール「ディシジョンツリー」と、ロジカルシンキングのテクニックの1つ「重み付け」をもとに解説します。
転職に「有利な時期」「不利な時期」

万人に効果のある薬が存在しないように、万人に有利あるいは不利な転職の時期というものは存在しません。しかしだからといって時期が転職の成否に全く影響しないわけでもありません。
●キャリアから見た転職の時期
例えばまだ実績のない人の場合は、実績を残してから転職するべきかという問題が浮上します。仮に今何かしらのプロジェクトに関わっているなどして実績を立てられる見込みがあるのなら、それから転職活動をスタートさせても遅くはありません。年齢にもよりますが、実績があるに越したことはないからです。
しかしそのような見込みがなくても、イコール不利だというわけでもありません。チャンスがない中でもどのように努力したかによって、志望先の企業にアピールできる場合もあるからです。実績を引っさげてキャリアアップを狙いたい場合、企業自体に不満があって地味でも実用的なスキルをアピールして職場を変えたい場合、目的によって最善の選択肢は変わります。
●人生のステージから見た転職の時期
また20代、30代前半・後半といった人生のステージによっても、有利・不利な転職の時期は変わります。例えば20代ならばある程度の経験を積んで社会人としての基礎を身につけてから、30代前半ならば即戦力となる経験やスキルを身につけてから、30代後半ならマネジメントスキルや専門的スキルを身につけてから、といった考え方もあります。しかし経験や社会人としての基礎が身についていなくても、転職に成功する人はいますし、30代でも同じことです。
●企業の求職活動から見た転職の時期
人の動きが多くなる4月前後、9月前後には企業の求職活動が活発になるとも言われます。一方で通年採用が当たり前の今の時代では、時期によって大きな差はないとする説もあります。
もちろん自分の能力と一致しない転職活動をしている人はどの時期でも採用されにくく、多くの企業が求める能力を持っている人はどの時期でも採用されやすくなります。
結論として、転職における時期の問題は「万人に有利あるいは不利な転職の時期というものは存在しないが、だからといって時期が転職の成否に全く影響しないわけでもない」という程度の重要性しかありません。
むしろ重要なのは、現在の自分の状況と最終的な目的を明確化したうえで、合理的な決断をできるかどうかなのです。以下ではそのために有効なツールの1つ「ディシジョンツリー」と、このツールを転職時期の決定のような状況にも適応させるための「重み付け」について解説します。
合理的決断のための「ディシジョンツリー」

上図は世界のビジネススクールやコンサルティング会社、NASAなどで活用されている「ディシジョンツリー」と呼ばれるものです。このツールは意思決定を行う際に、現在意思決定者がどの段階に置かれているか、どの選択肢を選べばどのような結果が得られるかを視覚化したものです。
□や○、◁を「ノード(節点)」と呼び、□が意思決定を求められる「決定ノード」、○が起こりうる状況によって結果が変動する「チャンスノード(イベントノード)」、◁が意思決定の帰結を示す「結果ノード(終端ノード)」と呼ばれます。□から伸びる枝は「選択肢」を、○から伸びる枝葉「可能性(起こりうる状況)」を示しています。
●ディシジョンツリーとサンクコスト
例えばディシジョンツリーは回収不能の費用「サンクコスト(埋没費用)」に直面した時に、冷静な判断を下すために効果を発揮します。投資済みの資金や、プロジェクトを継続するために使った労力、転職を考えるまでにその企業で費やした時間は、全てサンクコストとして考えられます。
サンクコストは私たちの意思決定に大きな影響を及ぼす要素です。「これだけ費用がかかったのだから」「今まで頑張ってきたのだから」そうした意地にも似た考えに取り憑かれ、間違った判断をさせるのです。

これをディシジョンツリーで考えてみましょう。例えば1つ目の決定ノードでプロジェクトαに100億円の投資をしたとします。次のチャンスノードではプロジェクトαから120億円の利益が出るか、全く利益が出ないかの可能性があったとして、このうち後者の結果が出たとしましょう。
この時点で意思決定者が置かれている状況は、「X」と記されている部分です。残されている選択肢はプロジェクトαに20億円の追加投資をして50億円の利益を得るか、プロジェクトβに60億円投資して80億円の利益を得るかの2つだとします。意外かもしれませんが、このとき合理的な意思決定となるのはプロジェクトαへの追加投資です。
一見すると120億円もの投資をして50億円しか回収できないプロジェクトαですが、仮にここでプロジェクトβに投資したとしても最初にプロジェクトαに投資した100億円が戻ってきません。であればサンクコスト(100億円)については無視したうえで、現時点(X)で最も良い結果に繋がる選択をするべきです。
つまりプロジェクトαに20億円の投資をして50億円の利益を得るか、プロジェクトβに60億円投資して80億円の利益を得るかという点だけに集中して意思決定をするのが、合理的な意思決定なのです。答えはもちろん投資額に対して倍以上の利益が得られるプロジェクトαとなります。
このように意思決定とそれがもたらす結果を視覚的に整理すると、自分が何を選べばどのような結果になるのかが俯瞰的に理解でき、合理的に意思決定ができます。
ディシジョンツリーを使いやすくする「重み付け」
しかし投資のように数値化しやすい問題ならともかく、「今転職をするべきか否か」という簡単に数値化できない問題では、結果ノードにおける結果(利益、効用)の判断が難しくなってしまいます。そこで取り入れたいのが判断基準の絞り込みと数値化、そして「重み付け」です。
例えば今の会社に勤め続ければ安定した人間関係が得られますが、仕事にやりがいがないとします。一方、転職を考えているZ社ではイチから人間関係を作らねばなりませんが、仕事のやりがいはあります。ここでどちらを選ぶかを悩んでしまうのは、「人間関係」「仕事のやりがい」という2つの判断基準で選ぼうとしているからです。これをどちらか一方に絞れば、すぐに決断が下せます。
ところでZ社を選ぶ際、先ほどのディシジョンツリーの考え方を使うと「Z社で人間関係が上手くいく」「Z社で人間関係が上手くいかない」の2つの可能性が存在することがわかります。合理的な決断をするには、この2つの場合分けも考えなければなりません。
また「人間関係」「仕事のやりがい」という2つの判断基準に重み付けを施せば、複数の判断基準を総合的に評価できます。例えば仕事のやりがいを重視して、人間関係の1.5倍の評価を与えるとすると、総合評価は以下のようになります。


このように考えると、どちらにせよZ社への転職活動を開始した方が、自分にとっての総合評価は高くなることがわかります。
Z社で人間関係が上手くいく確率や、それぞれの判断基準の数値はあくまで主観的なものです。これが数学の確率の問題であればとんでもない間違いでしょう。しかしここで求めたいのは、「自分にとっての最も合理的な決断とは何か」です。そのため一定の主観が入っても問題はないのです。
転職に有利な時期は自分で決める!

転職に有利な時期、不利な時期というのは個人の状況や目的によって大きく変わります。これを見極めるには、様々な選択肢と可能性を考慮したうえで、合理的に決断するほかありません。今が自分の転職にとって有利な時期なのかどうかは、自分で決断するのです。巷に溢れる一般論はあくまで参考程度にとどめておいて、最後は自分の頭で決めるようにしましょう。
なお、以下に挙げている参考文献にはより高度なディシジョンツリーの使い方や、その精度を上げる方法が解説されています。強力な意思決定ツールに興味がある方はぜひこちらにも当たってみてください。
参考文献『世界最高峰の頭脳集団NASAに学ぶ決断技法―不可能の壁を破る思考の力』

