Contents
その努力は、無駄かもしれない。
「一生懸命頑張っていれば、いつか必ず報われる」確かにこれは真実ですが、その「いつか」がいつなのかは誰にもわかりません。芸術家のように死んでから評価されたところで、ビジネスパーソンにとっては無意味です。
今後ますます激烈になっていく転職市場の戦いを生き抜くには、のらりくらりと無駄な努力を積み重ねていてはダメ。しっかりとした「戦略」を持って臨む必要があります。ここではベストセラー『僕は君たちに武器を配りたい』の著者・瀧本哲史氏の新刊『戦略がすべて』から、転職市場で生き残るための「必勝パターン」を紹介します。
教養としての戦略的人脈を持つ
「教養のある人」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは「本をよく読んでいる人」ではないでしょうか。しかし瀧本氏によれば「教養」は読んでいる本だけではなく、その人が持っている人的ネットワーク=人脈にも表れると言います。
人は自分の持っている知識や経験を総動員して意思決定を行います。この「知識や経験」の中には本から手に入れた知識も含まれますが、付き合っている人間からの知識やアドバイスも含まれるはずです。このように考えると、人脈には教養としての価値があることがわかります。
では「戦略的人脈」とは何でしょうか。日本の総合商社初の女性執行役員となった伊藤忠商事の茅野みつる氏はキャリアを築くために必要不可欠な人的ネットワークを6つに分類しています。
1)業務を完了させるためのネットワーク
2)キャリア開発を支援してくれるネットワーク
3)組織の中での動き方サポートしてくれるネットワーク
4)イベント、噂、トレンドなどを教えてくれるネットワーク
5)個人的なサポートをしてくれるネットワーク
6)人生における仕事の意味や自分の役割を教えてくれるネットワーク
引用:日経ビジネスONLINE
これらのネットワークをバランス良く確立していくために、茅野氏は人脈作りのためのアクションプランを書き出し、それに対してPDCAサイクルを回すのだそうです。
がむしゃらにセミナーなどに参加して名刺交換をしていてもそれは人脈とは呼べません。誰とどのようにどれだけの親密度を築くのかを戦略的に考えることで、「教養としての人脈」が構築できるのです。
「楽勝でできることを、徹底的にやる」

「オリンピックでメダルを増やすためにはどうすればいいか」と聞かれて、どのように答えるでしょうか。マネジメントの観点からこの問いを考える場合、その答えは「メダルの取りやすそうな競技を見極め、そこに資源を集中投下する」。
サッカーやバスケットボールなど世界的に競技人口が多い競技は、いくら資源を投入しても費用対効果は高められません。しかも獲得したとしてもメダルは1つなのです。対して水泳競技や体操競技など1人優秀な選手がいれば複数のメダルが獲得しやすくなります。
1人のビジネスパーソンについても同じことが言えます。苦手分野を克服して平均的な人間になるよりは、メダルが獲得できる=必ず勝てる分野に徹底的に時間と労力をかけることで、転職市場で勝ち残る人材になれるのです。
瀧本氏はこの考え方を「楽勝でできることを、徹底的にやる」と表現し、「大きなリターンを得る秘訣である」としています。「英語が苦手だから英語の勉強をしよう!」ではなく、「得意なチームビルディングをもっと強化しよう」が正解なのです。
あえて「今の場所」で戦う方法
キャリアアップを狙って転職を考えている人も増えてきています。しかし日本ではキャリアアップ型の転職を成功させている人は少なく、入社直後は給与が下がる場合がほとんどです。そのためなかなか転職に踏み切れない人も相当数いることでしょう。そのような場合はあえて「今の場所」で戦うのも1つの選択肢です。
もちろん何の展望もないままにがむしゃらに努力をしても無駄になってしまいます。瀧本氏は、IBM時代に業界の根本的な問題に直面し、自ら独立してITアウトソーシングビジネスの先駆者となったロス・ペローを例に挙げています。この例が示すのは、1つの業界と徹底的に向き合えば「新しい仕組み」「新しいアイディア」を的確につかむことができるということです。
今の業界や業種のほかにやりたい仕事があるのであれば別ですが、「ビジネスで成功したい」と考えるのであれば、転職や起業の前に「今の場所」でとことん突き詰めるのも戦略的なやり方と言えます。
情報の「裏」と「逆」を知る

情報化が進み続ける現代において、情報が正しいかどうかを判断する能力は必須です。取引先へのプレゼンテーションの中で根拠を挙げるにしても、転職を考えている企業の情報を集める場合にも、その情報が「誤報」であれば全く意味がありません。
瀧本氏によれば新聞を始めとするメディアの情報の正確性は、今後どんどん低下していくだろうとされています。そんな中で正しい情報を集めるための戦略として瀧本氏が挙げるのが「裏ではなく、逆をとる」という考え方。
「裏をとる」という方法はある仮説を証明するためにその根拠となる情報を探すやり方ですが、この場合どうしても情報の探し方がご都合主義になってしまい、仮説の証明に不都合な情報を無意識に無視してしまう危険があります。
そこで「逆をとる」というわけ。これは自分の仮説や考え方とは逆の仮説や考え方を探し、その信頼性・正当性を確認する方法です。
逆の仮説が自分の仮説よりも説得力が大きい場合には自分の仮説の信頼性が揺らぐことになり、逆の仮説が偏見や思い込みだらけであれば自分の仮説が比較的信頼の置けるものだということが確認できます。
すべての情報が「誤報」である可能性があるため、1つの情報や仮説に対して様々な角度からチェックをできるかどうかが今後のビジネスパーソンにとってのカギとなるのです。
アナロジー思考で「未来」を読む

「どの企業が伸びるのか」「どの業界が伸びるのか」は転職や起業を考えている人にとってはぜひとも知っておきたい「未来」です。
ここで有効な思考法が「アナロジー(類推)思考」と呼ばれるもの。例えば2000年代のインターネットバブルの流れは、1840年代イギリスの鉄道バブルを理解していれば予測ができたと言われます。
このように時間的・空間的に異なった出来事でも、一定の条件が重なれば同じ結果が生まれると考えるのがアナロジー思考の特徴です。
瀧本氏は日本のビジネスの未来を読み解くためには、このアナロジー思考が重要だと言います。同氏は北海道を明治以来の日本の「実験場」として位置付け、現在も様々なビジネス的実験が行なわれていると指摘します。
そのため今後北海道で起きることは、そのまま日本全体に広がっていく可能性があるのだそうです。
転職や企業に際して日本のビジネスの未来が気になる人は、日常生活にアナロジー思考を活用してクリエティブな発想を磨くとともに、北海道と日本のアナロジカルな関係にも注目しておくべきでしょう。
無駄な努力と、戦略的な努力
「無駄な努力」という言い方は努力至上主義でやってきた人にとっては抵抗のある言い方かもしれません。しかしこれは「努力はすべて無駄である」と言っているわけではないのです。努力にも「無駄なもの」と「そうでないもの」があります。
努力とはあくまでも「ツール」の1つです。したがって使い方を間違えれば当然無駄になってしまいます。ここで挙げた5つの戦略的な戦い方は、「努力の使い方」と言い換えることができます。
「何を得たいのか」という目的と「どうすれば得られるのか」という手段を明確化し、最も適したものを選ぶ。それが「戦略」です。もう無駄な努力はやめにして、戦略的な努力をはじめませんか。
参考文献『戦略がすべて』(新潮新書)
