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聴き手を魅了するプレゼンはいかにして生まれるか?
今やインターネットの力を借りて世界中を魅了するTEDのプレゼン。実はあれは講演者が全て自分で考えているのではなく、代表のクリス・アンダーソン氏を初めとするTEDの運営サイドとともに、緻密に組み上げられてたものです。ここではそのノウハウを数多くの事例を挙げながら解説したアンダーソン氏の著書『TED TALKS スーパープレゼンを学ぶTED公式ガイド』から、最も重要だと考えられる4つのポイントを解説します。
「価値あるアイディア」をプレゼントする
パブリックスピーキングで本当に大切なのは、自信でも、存在感でも、口のうまさでもない。「語る価値のあるなにか」を持っていることだ。
引用:2章 p28
TEDのプレゼンを一度でも観たことがある人なら、そこで披露されるアイディアや研究成果の興味深さを知っているはずです。人を魅了するプレゼンには、必ずそうした「価値あるアイディア」が込められており、聴き手はそれを受け取って自分の仕事や人生に役立てることができます。これは社内の新製品の企画プレゼンでも、仕事終わりに行く有料セミナーでも同じです。
私たちは価値あるアイディアが得られないプレゼンを聞きたいとは思いません。もし誰かを魅了するプレゼンをしたいのであれば、まず価値あるアイディアを持たなくてはならないのです。聴き手がプレゼンを聴いて「なるほどそうだったのか!」「自分もやってみよう!」と心を揺さぶられ、行動に移したくなるような何か。それを自分の知識や経験、データなどから掘り起こし、確立するところからプレゼンは始まります。
聴き手から「奪う」ことは許されない

画像出典:Wikipedia
TEDには以前実績を宣伝し、自社の売り込みを演壇で始めた人がいたそうです。それに気づいたアンダーソン氏はプレゼンに割って入り、その講演者が持っている独自のノウハウについて話すよう忠告しましたが、そのプレゼンは聴き手からも非常に不興を買い、インターネットにも配信されませんでした。
プレゼンによる感動は聴き手から何かを奪おうとするのではなく、何か(価値あるアイディア)を与えることでしか実現できません。聴き手はそのようなプレゼンが始まった途端、敏感に相手の下心を察知し、拒否反応を示します。
一方で不思議なことに「○○が欲しい!」と切実に思っていても、それについて全く言及せず、与え続けたことで逆にそれを手にいれた講演者もいます。人権弁護士ブライアン・スティーブンソン氏のプレゼンがそれです。当時彼の組織は緊急で100万ドルもの資金を必要としていました。しかしそれには一切触れずにアメリカの正義について感動的なプレゼンを披露したところ、プレゼン後参加者から130万ドルを超える寄附が集まったのです。
プレゼンを始める前に考えるべきは「聴き手に何を与えられるか」であり、「聴き手から何を奪えるか」ではありません。
「スルーライン」を研ぎ澄ませ

スルーラインとは演劇や小説などの分析に使われる言葉で、作品を貫くテーマのことを指します。これはプレゼンでも非常に重要な要素です。聴き手を魅了するプレゼンにするためにはスルーラインに沿った構成であるとともに、そのスルーラインが洗練されていなければなりません。例えばスルーラインのないプレゼンの冒頭は次のようになります。
「先日カフェで仕事をしていた時の経験をお伝えして、私がコミュニケーションについて日々感じていることをここで挙げてみたいと思います」
これでは講演者が何を言いたいのかがはっきりとしません。一方、次のようにわかりやすくスルーラインを提示できれば、プレゼンの魅力は格段に上がります。
「先日カフェで仕事していた時、コミュニケーションについて学んだことがあります。他人に好印象を与えるコミュニケーションと、嫌悪感を与えるコミュニケーションの違いをある2人の従業員の仕事ぶりを例に挙げてお伝えしましょう。」
自分の体験を話す機会を得た時、人はついつい「あれもこれもそれも伝えたい」と欲張ってしまいます。しかしメッセージを複数組み込んでしまうとスルーラインがぼやけてしまうため、スルーラインは2文から3文程度に絞り込まなくてはなりません。
ところがこの絞り込みの方法を間違えると、結局スルーラインがぼやけてしまいます。その間違った方法とは、伝えたいことの1つ1つを短くして、複数個並べるという方法です。確かに分量は短くなりますが、1つ1つの内容が薄くなるのでぼんやりとしか伝えられず、聴き手の印象には残りません。
スルーラインを絞り込む際の正しい方法は「プレゼンが終わった時に聴き手に隅から隅まで理解して欲しいたった1つのことは何か」を考え、それ以外を切り捨てていくという方法です。こうしてスルーラインを研ぎ澄まし、聴き手に刺さるプレゼンにしていくのです。
「自分に合った伝え方」を選ぶ

TEDでは以前「演台を使わないこと」「原稿を読まないこと」という厳しいルールを設けていました。しかし現在このルールは撤廃されています。というのも講演者によってはこのルールを守らない方が、より魅力的なプレゼンが行えるということがわかったからです。
確かにスティーブ・ジョブズのようにメモも見ずに聴き手を魅了できるプレゼンターもいます。しかし誰もが彼の方法を真似すれば魅力的なプレゼンができるわけではありません。そうした模倣によって自分の魅力を押し殺し、聴き手を白けさせる危険すらあります。
企業のプレゼンではやり方が決まっている場合もあるかもしれません。しかしそのルールの中でも自分が最もリラックスして話せる方法を模索する必要があります。プレゼンの内容を完璧に原稿に起こして暗記するのか、原稿を箇条書きにして項目の隙間をその時々の言葉で埋めるのか、演台の上を移動しながら話すのか、一か所に止まって話すのか……いろいろな方法の中から自分にとってのベストの伝え方を見つけ出しましょう。
小手先だけでは「それっぽく」しかならない
TEDのプレゼンを観ていると、「かっこいいプレゼン」「感動的なプレゼン」を演出するテクニックに目が行くかもしれません。しかしそうしたテクニックをここで挙げたポイントを無視して使っても、あくまで「それっぽいプレゼン」にしかなりません。プレゼンはしっかりと「伝えること」と「伝え方」を練るところから始まる。このことを肝に銘じておきましょう。
参考文献『TED TALKS スーパープレゼンを学ぶTED公式ガイド』
