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「日本人の体質研究」は始まったばかり!
巷に溢れる数多の健康法、私たち日本人には効果がないどころか、体に悪い可能性さえあることをご存知でしょうか。健康法が効果を発揮するかどうかには個人の体質が大きく関係していますが、実は日本における「日本人の体質研究」はまだまだ始まったばかりで、巷の「欧米産」の健康法ではない、「日本人流健康法」はまだ確立されていないのです。そのため健康になるためにやっていたことが「実は日本人の自分の体には悪かった」なんてことも起こり得ます。
ここでは奥田昌子さんの著書『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』から、日本人の体質に関する考え方や健康法を紹介します。
「体質」の基本について知っておこう!

●体質は「遺伝」と「環境」で作られる
私たちの体質を作っているのは「遺伝」と「環境」です。例えば遺伝的にガンになる要因を受け継いでいたとしても、後天的な環境要因次第ではガンにならずに一生をすごす可能性も十分あります。一方で生活習慣病に強い遺伝子を持っていたとしても、環境によっては生活習慣病になってしまいます。
これは環境要因に関しても言えます。つまりどれだけ環境に気をつけていても、遺伝要因次第で病気になったり、ならなかったりするのです。これは私たちの体質が「遺伝」と「環境」から作られているという証です。
この原則はガンや生活習慣病に限りません。インフルエンザなどの感染症でも同じです。体質によってインフルエンザにかかりやすい人やHIVが発症しやすい人が存在します。
●欧米人と日本人で「体質」が違って当たり前
体質が「遺伝」と「環境」から作られていることを前提とすると、欧米人と日本人で大きく体質が違って当たり前ということも納得がいきます。見た目からして遺伝子に違いがあり、生活環境も大きく違う両者が、同じ体質になるはずがないからです。
というのも、健康な日本人千七十人の全遺伝子を解析にかけ、遺伝子変異の内容と頻度を調査したところ、1070人の遺伝子全体で合計約2,100万ヶ所で変異が見つかったそうです。この約2,100万ヶ所のうち、白人の遺伝子解析で発見済みだったのは1,100万ヶ所。
つまり残りの約1,000万ヶ所の遺伝子変異は「日本人に固有の遺伝子変異」の可能性があるのです。これだけでも欧米人と日本人の体質に、根本的な違いがあることがわかります。
●日本でも本格始動した「ゲノムコホート研究」
このような事実が明らかになったことを受け、内閣総理大臣管轄の日本学術会議は2013年に「100万人ゲノムコホート研究の実施に向けて」という提言をまとめ、世界最大規模のゲノムコホート研究に必要性を指摘しました。
ゲノムコホート研究とは、「どのような遺伝子を持つ人が、どのような環境で生活しているのか」という情報を収集し、その人たちがどんな病気をし、どんな治療を受け、どんな効果を得たのかまで観察・分析する研究です。
一度の調査では有意な成果は得られないため、長期間にわたって定期的に調査をする場合が多く、「100万人ゲノムコホート研究」では20年以上を想定しています。この研究で成果が出れば、今よりもっと「日本人流健康法」が発見されるでしょう。
以下では現時点で明らかになっている「日本人には合わない健康法」と重大疾患を防ぐための「日本人流健康法」を紹介していきます。
日本人には合わない健康法

●日本人に「筋トレで痩せる」は難しい?
筋トレをすると筋肉が増えて基礎代謝が上がり、有酸素運動や食事制限をしなくても痩せられる体になる。筋トレの効果としてあげられるこの「痩せ体質」ですが、実は日本人にはあまり効果が望めません。
というのも日本人は一般的な筋トレで鍛えられる速筋(白筋)がつきにくい人種だからです。人種ごとに平均するとアフリカ系の人が筋肉全体の70%、欧米白人が50〜60%が速筋であるのに対し、黄色人種は30%程度が平均値なのだそうです。
もちろん日本人も努力すれば速筋はつきますが、筋肉量を1kg増やしても基礎代謝量の増加は1日あたり20Kcal程度(1年で1〜2kg程度の減量効果)にすぎません。したがって日本人がダイエットを目的に筋トレをするのは、費用対効果の非常に低い方法なのです。
●日本人に「ヘルシーオイル」はタブー?
日本人は欧米人と比べて内臓脂肪がつきやすい体質を持っています。そのためヘルシーオイル、例えばオリーブオイルや亜麻仁油、えごま油などを摂取すると、比較的速く内臓脂肪に変わります。すると血糖値・血圧が上がりやすくなり、動脈硬化が進行していくのです。
確かにオリーブオイルは欧米人の動脈硬化を防ぐ効果を持っています。しかし日本人に限ってはヘルシーオイルの健康効果のためにこれを摂取するより、オイル=脂肪そのものの摂取量を抑える方が、よほど高い健康効果が得られるのだそうです。
●日本人に「乳製品健康法」は合わない?
「牛乳は骨を丈夫にする」「ヨーグルトはとにかく体に良い」ほとんど常識になっているこれらの乳製品健康法ですが、近年どうやら日本人には合わないことがわかってきました。
アメリカ、ニュージーランド、スウェーデン、シンガポール、香港などで行った調査によると、1日あたりのカルシウム摂取量が多い国ほど、骨が弱い(足の付け根の骨が折れやすい)ことがわかっており、特にアジア諸国ほどカルシウム摂取量が少なく骨が強いことが明らかになっているのです。
また日本人男性4.3万人を対象にした調査では、乳製品の摂取量が多いほど前立腺癌の発症率が高いという結果も出ています。さらにヨーグルトは頻繁に食べることで食物アレルギーの原因になる危険もあり、必ずしも体に良いわけではないこともわかってきました。安易に「常識」を信じ込んでいると、とんでもない目にあうかもしれません。
●日本人は「糖質制限ダイエット」で糖尿病になる?
膵臓で作られるホルモン「インスリン」は、血液中のブドウ糖「血糖」の量を適正量に調整する役割を担っています。このインスリンがうまく働かなくなり、高血糖状態になるのが糖尿病です。日本人を含む東アジア人はこのインスリンの分泌量がもともと少なく、欧米白人の半分から4分の1程度しかありません。
しかしインスリンの少なさは、より多くの炭水化物を摂取することでカバーできます。100年前の日本人は摂取カロリーの80%を炭水化物から摂っていましたが、今では50〜60%に下がり、脂肪の摂取量が相対的に増加してしまいました。
ここに運動不足が重なり、ただでさえ内臓脂肪のつきやすい日本人の内臓脂肪が、さらに増えることになります。内臓脂肪が増えるとインスリンの機能は低下します。結果日本人の糖尿病患者が増えたのです。
このような事情を理解していれば、日本人にとって糖質制限ダイエットが糖尿病促進健康法になりかねないことがわかるはずです。血糖が足りなくなると膵臓がフル稼働してなんとかインスリンを分泌しようとします。しかし日本人のインスリン分泌量には限界があるため、やがて膵臓は疲れ果て、以前に増してインスリンが分泌できなくなります。
結果血糖のコントロールが効かなくなり、糖尿病になるというわけです。日本人にはあまり太っていなくても糖尿病になる人がいますが、欧米人ではこのような人が稀なことからも、日本人と糖質制限ダイエットの相性の悪さがうかがいしれます。
もちろん炭水化物も摂り過ぎれば内臓脂肪の原因となり、糖尿病を誘発します。大切なのは適正量(最低でも摂取カロリーの50%〜60%)の炭水化物をきちんと摂取することなのです。
「自分に合った健康法」を意識しよう

ここで紹介した情報は、研究によって明らかになっていることのごく一部にすぎません。奥田さんの著書では他にも日本人の健康に関する新事実が語られていますし、現在も各研究機関が様々な知見を発見しているはずです。
こんな中で私たちにできるのは、「正しい」と信じ込んでいる健康についての情報を今一度フラットに見直し、「自分に合った健康法」を意識することです。その姿勢が正しい健康情報へ私たちを導いてくれるでしょう。次々に新しい知見が発見される現代にあっては、ビジネスシーンだけでなく、健康においても情報が命なのです。
参考文献『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学的事実が教える正しいがん・生活習慣病予防』
