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芸歴46年、坂上忍の「スジ」とは?
3歳の時に子役デビューし、天才子役と呼ばれてから46年。海千山千の大人たちを相手に芸能界の波を渡り歩いてきた坂上忍さんは、「潔癖性キャラ」「毒舌キャラ」としてバラエティ番組を沸かせているほか、子役スクールの経営や映画監督・演出家など幅広い分野で活躍しています。
ここではそんな坂上さんが自分自身の考える「スジ」について書いた著書『スジ論』を教科書として、真の大人になるためのスジの通し方について考えます。
「いい顔の線引き」をしろ
誰しもができるだけ他人には「いい人だな」と思って欲しいもの。そこでついやってしまうのが「誰にでもいい顔をすること」です。もしそれで全く問題が起きないなら構いませんが、次の日の朝が早いのに先輩からの飲みの誘いを受けてしまったり、できもしない仕事を二つ返事で受けたりすれば、すぐに首が回らなくなります。そうなればいい人どころか「信用できないやつ」というレッテルを貼られてしまうでしょう。
坂上さんは「駆け出しの頃はできる限りいい顔というか、いろいろなモノを受け入れた方が間違いなく得」としながらも、自分で自分の身を守るために「いい顔の線引き」をするべきだと言います。
ここからここまではいい顔をするが、これ以上は自衛のためにいい顔をしない。そういう線引きが行動に一本スジを通してくれるのです。
坂上さんは「短期的な責任の優先順位」を基準にこの線を引いているのだそうです。飲みに行って朝起きれないなら行かない。引き受けてもできない仕事はやらない。当たり前のことですが、それをマメに徹底することが大切なのです。
「甘え方」にも礼儀が必要

甘えるという行為は「当たり前の礼儀を弁えた者にのみ許された、ある種の特権」だ、と坂上さんは言います。ある時坂上さんはイケメンタレントに電話番号を聞かれました。あまり教えたくなかった坂上さんでしたが、「ロケが終わった23時から、明日の朝までに電話がかかってきたら、一度くらいはご飯に連れて行ってやろう」と思いながら、なんとなくで教えてしまいます。
しかし電話はかかって来ずじまい。坂上さんはこれについて「もうちょっと甘え方を覚えた方がいい」と忠告します。電話番号を聞いたらその日中に留守電にでもお礼の言葉残す。
メールアドレスを聞いたら別れた後にメールを入れる。後輩が世話になったら自分から連絡を入れる。そうした小さな積み重ねが信用を作り、「甘える資格」になっていくのです。それができない人には甘えることは許されません。
坂上さんはお世話になった人に紹介されただけのあるタレントから「お金を貸してください」というメールをもらった時、悩んだ末に断っています。その理由も「礼儀がなっていないから」。困った時に助けてもらうには、日頃からきっちり信用を積み重ねておくのがスジなのです。
「二度と仕事したくない人」との関係術
芸能界に限らず、一般企業で働いていても「この人とは二度と仕事したくないな」という相手は少なからずいます。坂上さんはそういう相手に出会ったら一度もめておくべきだと言います。もちろん自分や自社にとって譲れるべきところは譲った方が物事はスムーズにいきます。
しかし妥協してはいけないポイントでは、馴れ合いで済まさずに率直に相手に疑問を投げかける。「どうしてそういう仕事の仕方をするんですか?」「そのやり方はまずくないですか?」そんな風に言えば当然相手は「面倒なやつだ」と思います。
実際に坂上さんを面倒くさがって、二度とオファーを出してこない相手もいるそうです。しかしそれは好都合。ストレスを溜めて働かなくてはならないのであれば、その労力を別の相手に向けた方が効率的です。
また疑問を投げかけることで意外と分かり合えて、長い付き合いになることもあります。そうなればその付き合いは大切な人脈となるでしょう。一番ダメなのは「そうは言っても仕方ない」などとお茶を濁して中途半端な仕事をすること。スジのない仕事をすることです。
スジが通れば「存在感」が出てくる

ではスジのある仕事というのはどういう仕事なのでしょうか。それは「圧倒的な真剣さ」を伴った仕事です。坂上さんは「ショーケン」こと萩原健一さんこそが、この「圧倒的な真剣さ」の持ち主だと言います。
萩原さんと言えばTVドラマ『太陽にほえろ!』の初代新人刑事=マカロニ役で脚光を浴び、数々の映画やドラマで評価を受けてきた大俳優です。坂上さんは自分がいくら命を懸けて役に向き合ったとしても、萩原さんには「その程度で命懸けたなんて言うなよ」と一笑されてしまうだろう、と言います。
それほどの真剣さを持って仕事に打ち込むと、徐々にその人から存在感が出始めます。すると周囲はその人の存在を無視できなくなり、甘えに応じてあげたり、頼まれごとを聞いたり、もっとその人のために何かをしたくなっていきます。
これこそがスジの通った仕事の力です。確かに場合によっては「面倒な人」だと敬遠されてしまうかもしれません。しかしそこで貫き通すからこそ、自分の中のスジができてくるのです。
リーダーは「伝える作業」でスジを通せ
坂上さんはリーダーが自分の想いを徹底的に「伝える作業」を怠らなければ、あとは他のメンバーが結果を出してくれるものだと言います。それを実感したのは坂上さんが1985年に公開された映画『魔の刻』の中で、母親役の岩下志麻さんの母子相姦の相手役として、息子・水尾深を演じた時のことです。
この時の監督は高倉健さんの作品を多く手がけた降旗康男さん、カメラマンは黒澤明監督などから腕を認められた木村大作さん。母親役の岩下志麻さんだけでなく、その他のスタッフもみな超一流でした。そんななか、生意気盛りの17歳の坂上少年は監督の降旗さんではなく、カメラマンの木村さんにコテンパンにしごかれて鼻柱を折られたのだそうです。
木村さんはまるで監督のように振る舞い、美術や照明、役者にまで口を出していました。それに対して降旗さんはたまに近寄ってきて耳元でボソッと「ここはこうしようか」と言うだけ。
坂上さんは当時「もっとしっかりしてくれよ」と正直苛立ちを覚えたと言います。しかし全ての撮影が終わり、映画になったものを見た途端、坂上少年はド肝を抜かれます。そこにはまごうことなき「降旗康男の映画」があったからです。
降旗さんがこの時の現場で「ボソッと話すおじさん」役に徹したのは、現場に緊張感を与えられる木村さんがいたから。木村さんが仕切っても「降旗康男の映画」になったのは、降旗さんが木村さんを始めとするスタッフにしっかり「伝える作業」をしていたからだ。
坂上さんは当時そのように感じたのだそうです。スジがあるなら自分の中だけでなく、チーム全体に貫き通す。それが真のリーダーのスジの通し方なのです。
真の大人には「スジ」がある
「いい顔の線引き」「甘えるための礼儀」「二度と仕事したくない相手とのぶつかり合い」「圧倒的な真剣さ」「チームを貫く徹底的な伝える作業」。これらは芸能界だけでなく、一般のビジネスシーンでも十分通用するスジの通し方・考え方です。
これらを見るとスジのない人間がいかに信用できず、人を動かせないかがわかります。逆に周りの「かっこいい大人」には決まってスジがあることもわかります。真の大人になるためにも、仕事で必要とされるためにも、自分の生き方にしっかりスジを通していきたいですね。
参考文献『スジ論』
