クラウドソーシングで稼げる?副業なら?3人の実践者の本音

自分のスキルを副業にできる「クラウドソーシング」

年々利用者が増加傾向にある「ランサーズ」「クラウドワークス」を始めとするクラウドソーシングサービス。近年は単なる「お小遣い稼ぎ」に止まらず、クラウドソーシングの報酬だけで生計を立てる人も増えてきています。

しかし一方で「稼げるのは一握りの人間だけで、実際はそれほど稼げない」という話を耳にする人も多いのではないでしょうか。

クラウドソーシングは稼げるのか?
そして「転職はしないがお金は欲しい」人にとっての副業になり得るのか?

今回はこの疑問の真偽を確かめるべく、翻訳家とWEBクリエイターとして活躍する2人の実践者に本音で「ホントのトコロ」をお話いただきました。同じくライティング部門の実践者である筆者の立場からも「ホントのトコロ」を書かせていただきました。

【翻訳】のホントのトコロ

1ヶ月の中で「時間をどれだけ確保できるか」が分かれ目


堂本秋次さん
プロマジシャンとして演技の傍らマジシャン向けの書籍を翻訳しながらフリーの働き方を確立後、本格的に翻訳家に転向。特許翻訳など専門的知識を必要とする分野を含む様々な分野での活躍が認められ、大手クラウドソーシング企業LancersからLancers of the year 2016*を受賞。※クラウドソーシング「Lancers」で活躍したフリーランスに贈られる賞。

●2×20=40時間を1ヶ月の中で確保できるか?

———自分のカテゴリの仕事を、会社員が副業としてやって月5万円~10万円稼げると思われますか?

堂本秋次さん(以下、堂本):時間が取りやすいのであれば、もしかしたらいけるかなという感じですね。

クラウドソーシング上にある翻訳の仕事で、とりやすい仕事というのは納期までの日数が短いものが多いです。

例えば1週間〜2週間以内とか、2〜3日以内のもの、場合によっては「今日の夜までに欲しい」なんてものもあります。納期が短くなるほど単価も高く、かつ500~1500ワードくらいの量の少ないものも増えます。

クラウドソーシングの翻訳の報酬は、一般的に翻訳前のワード数もしくは文字数で決まります。僕自身がクラウドソーシングを始めた頃の単価が最低でも1ワード2円、できれば3円くらいで仕事を受けていました。

日本語から英語にする場合でも、英語から日本語にする場合でもそれくらいとっていましたね。

仮に1ワード2.5円として1000ワードで1本2500円、それを月に20本やると考えてだいたい5万円になります。これをコンスタントにこなせるかが分かれ目になると思いますね。

———1000ワードの翻訳って、だいたいどれくらいかかるものなんでしょうか?

堂本:人にもよりますが、僕の場合やりやすい文章で1時間ぐらいですね。ただ初めの頃はどれくらいのクオリティが求められているかがわからなかったり、前知識を入れるための下準備が必要なものは3時間くらいかけることもありました。

例えば製薬会社とか法律関係など、全く知識のないものの翻訳の場合、調べ直す必要がありますからね。

他にも元々の文章が英語もしくは日本語として悪文になっているという場合もあります。そういう時は解釈のために何時間もかかったりもします(笑)

そういう中で間をとって1000ワード1本2時間として、2×20=40時間を1ヶ月の中で確保できるか、ということですね。

●「経験者問いません」系の案件で実績を作る

———40時間はけっこう厳しいかもしれませんね……。より短い時間で稼ぐとなると1ワードの単価を上げるか、作業効率を上げるかですが、堂本さんの単価はどれくらいの期間でいくらくらい上がりましたか?

堂本:いつのまにか……というのが正直なところではっきりとはわかりません。半年くらいで1円〜2円上がった、という感じでしょうか。1年するくらいにはもう最低で1ワード4円〜5円の単価が確立していました。

———どうすればそんな風に単価を上げられますか?

堂本:1ワード2円〜3円で「経験者問いませんので早めにお願いします」といった案件もあるので、まずはそうしたものから始めて実績を作るのがいいんじゃないでしょうか。1本やれば5000円になったりしますよ。

まずは5万円〜10万円という目標ではなく、2万〜3万円くらいを目標にして、実績を作りながら単価を上げていくという感じならいけるんじゃないかな。

気をつけたいのは法律関係とか重要文書の翻訳ですね。翻訳に不慣れな状態でこういった翻訳に挑戦するとすごく大変な想いをする可能性があります。というのも翻訳のミスが何か大きな損失に繋がり得るからです。

———ちなみに、堂本さんの英語のレベルってどれくらいなんでしょうか?

堂本:TOEICで850点ぐらい、英検で準1級です*。受注を増やすために「自分でステータスをある程度上げておかないと」と思ったので、意識的にTOEICや英検を受けようとしたりしましたね。もともと英語が好きだったというのもありますけれど。

※現在はTOEIC 965、英検1級。TOEIC 850、英検準1級だったのは、クラウドソーシングで受注を始めた当初のこと

●「サービスの併用」と「プロフィールの充実」で生産性を上げよう

———これからクラウドソーシングの翻訳案件を副業でやろうという人が、まずやるべきこととは何でしょうか?

堂本:例えばライティングと比べると、クラウドソーシングでの翻訳の仕事は絶対数が少ないのが現状です。これをカバーするために僕は活動開始当初から2つのクラウドソーシングサービスに登録して、今も両方のサービスから仕事を受けています。

もちろん各サービスで特色があるのでどれが一番良いということはありませんが、仕事の絶対数を増やす工夫はしておいた方がいいと思います。

あとはプロフィールを充実させること、ですね。例えばTOEICや英検は「英語ができます」というアピールをクライアントに伝えるのにわかりやすい目安になります。

あるいはプロフィール欄の7割〜8割程度を使って得意な分野を、残りの2〜3割程度を使って苦手な分野を書いておくのもおすすめです。

すると、よりやりやすい依頼が増えて、やりにくい依頼が減るんです。生産性も上がって、より楽に稼げるようになりますよね。

———最後にクラウドソーシングを副業として始めようかどうか迷っている人に何かアドバイスをお願いします。

僕は翻訳家とマジシャン+αの複業をしていますが、割合は8割〜9割:1割〜2割というところです。マジシャン+αは翻訳の仕事の合間に入れ込む感じなので、時間配分やスケジュール調整が必要不可欠です。

逆に言えば基本的に仕事の時間が決まっている会社員の方が、そうした時間配分やスケジュール調整はやりやすくなるんじゃないでしょうか。その意味で、英語の素養がすでにある人にとって「副業で翻訳」は比較的現実的だと思います。

———ありがとうございました。

【Web制作】のホントのトコロ

最初は「弟子入り」の精神で実績を積むことが大事


今村優
フリーランス歴約3年のWebクリエイター(2017年10月現在)。Web業界をはじめ、サービス・運送・飲食・小売卸売などさまざまな職を経験し、フリーランスとして独立。独立して1年半後にLOY2016受賞。趣味は島や海外への旅。

●現役の人ならスムーズに副業化できるはず

———自分のカテゴリの仕事を、会社員が副業としてやって月5万円~10万円稼げると思われますか?

今村優さん(以下、今村):単刀直入に言って、稼げます。でも、これはクラウドソーシングで稼いでいる人たちの共通認識だと思うんですが、いきなり稼ぐのは難しいと思います。

なので実績を少しずつ積み重ねていって、いいクライアントと出会ったりしながら安定的に仕事ができるようになってからの話ではありますけど。

———「安定的に仕事ができるようになってから」とのことですが、今村さんの場合、どれくらいの期間で「安定したな」と感じるようになりましたか?

今村:実感が出てきたのは(ランサーズの)プロジェクト*の実績数で30〜40くらいこなしてきた頃ですね。

最初のうちはあまり大きな案件を任せてもらえないので、小さい案件がメインになってきます。するとひとつの案件が早いもので1日以内、時間がかかるものでも数日で終わるという感じです。

僕の場合は割と早くにフリーランスに切り替えてしまったので3〜4ヶ月くらいで30〜40程度の実績になってたと思います。だから会社員で副業としてやるなら、半年ぐらいかなあ。

———「小さい案件」というのは具体的にいうと?

今村:例えば「どこかの企業のコーポレートサイトに1ページ追加・更新する」とか画像加工などですね。

僕の場合、色々な仕事をしてきた中で、Web制作の仕事をしたことはあったんですが、フリーランスになる前は全然違う業種にいました。

なのでクラウドソーシングを始めるまでの間にけっこうブランクがあったので、「まずはやれることから」という感じでそういう小さな仕事から受けていきました。

なので、現役でWeb制作の仕事をしている人が副業でやるのなら、わりとスムーズに始められると思いますよ。

———最初の頃の単価はいくらぐらいなんでしょうか?

今村:本当に初期の頃は正直「見合ってないな」と思いながらやってましたね(笑)最初の案件は「1万円ぐらいは正直欲しいな」というのを1000円くらいで受けたりとか。

実績が10件前後になってくると、「安いなあ」とは思いながらもちょっとずつ割りのいい仕事も受けられるようになって、同じ1万円の作業量でも3000円〜4000円になる、みたいな感じです。苦しいのは一番最初の期間ですね。

●「とにかくこの現状を変えたい」という想いが力になった

———クラウドソーシングを始めたきっかけってどんなものだったんでしょう?

今村:3年前に結婚したんですが、その半年くらい前にフリーランスの友人からクラウドソーシングのことを聞いたからです。でもすぐには始めませんでした。

その頃の僕は職場があまり良い環境ではなくて、「とにかくこの現状を変えたい」と思ってました。ただ、結婚直前のタイミングで全く余裕がなかったんですよね。だから結婚してからクラウドソーシングを始めようと思いました。

で、いざ始めるとなったとき、その友人に「今月いくら稼いだの?」って聞いたんです。そしたら彼は「今月は20万くらいかな」って。

この数字は僕にとって大きかったですね。なにしろ正社員として毎日しんどい思いをして働いてる僕の手取りより高かったので(笑)そこで「よし、やってみよう」となりました。

———副業としてやっていた期間はどれくらいでしたか?

今村:フリーランスに切り替える前提で3〜4ヶ月様子見をするつもりだったんですが、すぐに本業を辞めちゃいましたね。

ストレスとかを考えたときの費用対効果が違いすぎました。なので最初は結婚したのに収入がなくなってめちゃくちゃ焦りましたけど(笑)

でも今思えばその焦りがあったから、金額度外視で「まず実績を0から1にしよう」って必死になれたんだとも思います。ある意味「弟子入り」みたいな感覚でした。誰の弟子になるわけでもないんですけど。

●「やってみないとわからないけど、失敗してもリスクはない」

———副業としてのクラウドソーシングの魅力ってなんでしょうか?

今村:クラウドソーシングの場合、会社員と違って自分の仕事量や単価を自分で決めることができます。自分から仕事をとりにいくので仕事の難易度も色々ある中から選べます。

なのでそれなりのレベルの仕事をこなせるようになれば、5万円〜10万円くらいの副業としては十分成立するようになります。あとは、そのために自分がどれだけ本業以外の時間を割けるかですよね。

———最後にクラウドソーシングを副業として始めようかどうか迷っている人に何かアドバイスをお願いします。

今村:やってみないとわからないけど、失敗してもリスクはない。まずやってみればいいと思います。

———ありがとうございました。

※プロジェクト:クラウドソーシングサービス「ランサーズ」での契約の一形態。クライアントがフリーランスに対して見積もり(提案)を募集し、集まったフリーランスの見積もり中から一つを選んで契約する。

【ライティング】のホントのトコロ

未経験者は「書くことそのものが楽しい」感覚が必要

鈴木直人
ライター歴約3年半(2017年10月現在)。前職は古物商、酒造会社の事務員。LOY2016受賞者。これといった専門的な知識や経験がないため、「なんでも書く」スタンスを貫いてきた。クライアントからは「調査力」「構成力」に定評がある。趣味は筋トレ、登山、サイクリング。

●ライティング部門での副業は難しい

クラウドソーシングは稼げるのか?
そして「転職はしないがお金は欲しい」人にとっての副業になり得るのか?

3年半、クラウドソーシングのライティング分野で仕事をしてきた筆者が、この問いに答えるとしたら「正直、難しい」という回答になります。

もちろん新聞社や出版社などである程度のノウハウを持っている人なら話は別です。しかし全くの未経験で、かつ本業もある人が「文章くらいなら自分でも書けるし、やってみるか」という気持ちで始めると、かなり早い段階で心が挫ける可能性があります。

というのも「誰でも書ける文章」というのは、文字どおり誰でも書けてしまうからです。誰でも書けてしまうのですから、その仕事の価値は低くなります。

実際、筆者が初めて受けた案件の文字単価は0.25円でした。1,000文字書いても250円、1万字書いても2,500円です。

慣れない頃は1,000文字書くのに1時間かかっていたので、単純計算で時給250円。最低賃金どころの話ではありません。

これに対して、例えば翻訳やWeb制作は勉強や経験が必要なぶん、それができるだけで付加価値があります。これは堂本さんが初めて受けた依頼の単価が、1ワード2円〜3円だったということからもわかります。

「ライティング案件でも、単価の高い仕事を選べばいいのでは?」と思うかもしれません。しかし特別な経験や実績でもない限り、未経験者に単価の高い仕事をくれるクライアントは滅多にありません。

したがって初めは低い単価で、コツコツ実績を積み上げるしかないのです。

副業ライターを目指す人にとっての大きな壁がこの「低い単価で、コツコツ実績を積み上げるしかない」という点です。本業が終わってから慣れないライティングをやっているのに、時給は最低賃金以下。

この状況にいつまで耐えられるかが、副業ライターとして稼げるか稼げないかの分かれ道になるでしょう。

ちなみに筆者の場合、半年ほどで文字単価が1円ほどになり、2円になるまでは1年程度かかりました。副業ライターならもっとかかるかもしれません。これが「ライティング部門での副業は難しい」の理由です。

●「書くことそのものが楽しい」人なら続けられる

ただ例外もあります。それは「書くことそのものが楽しい」あるいは「書くことそのものが全く苦にならない」という人です。筆者はまさにこの典型で、文章の上手い下手は別として、昔からずっと文章を書いてきました。

・小学校5年の創作小説の授業で、400字詰原稿用紙20枚の作品を提出。
・中学校から今に至るまで、読むに堪えない「ポエム」を量産。
・大学時代はSNSに長文の小難しい日記を投稿し、友人たちに苦笑される。
・大学卒業間際に10万字の創作小説を執筆し、文学賞に投稿する。 etc…

筆者と同じような、こうしたちょっと恥ずかしい過去を持つ人なら、それほど苦にならずに副業ライターを続けられる可能性があります。多少単価が安くても「趣味の延長で書いている文章がお金になる」と思えるからです。

●案件選びの基準は「楽しそう」が最優先

しかしいくら書くことそのものが楽しい人でも、自分が興味を持てない内容の文章を書き続けていると苦しくなってきます。

これは「文章を書いた結果、書けるだけでも楽しいのに、お金までもらえた」という認識から、「こんなに書いているのに、全然お金にならない」という認識に変わってしまうからです。

筆者もライターを始めた当初、「これを断ったら次の仕事が来ないかもしれないし」とか「興味はないけど、単価はちょっと高いし」といった理由で、興味のない内容の案件をいくつか受けたことがあります。

はっきり言って後悔しました。書いていて楽しくないうえに、興味がないから書き始めるまでの腰も重くなるし、書き始めても筆が進まず生産性は下がるばかり。

お金をもらっている以上割り切って書くべきなのかもしれませんが、まだ趣味の延長でやっているような段階だったので、かなり苦しい思いをしました。

したがって副業ライターが案件を選ぶときは「楽しそう」と思えるかどうかを最優先基準にするべきです。

本業のストレスを副業のライティングで解消できるくらいの案件を選んでいれば、自ずと実績と報酬もついてくるはず。

そうなれば単価も上がっていくので、「あんまり興味はないけど、そのぶん単価が高い」という案件を受ける余裕も生まれます。

●「楽しそうな案件探し」のための労力は惜しまない

筆者は幸いにもひとつのクラウドソーシングサービスだけで「楽しそうな案件探し」が完結していますが、楽しそうな案件がひとつのクラウドソーシングで終わらない場合は、いろいろなサービスを併用することをおすすめします。

翻訳やWeb制作と違い、ライティングはクラウドソーシングの案件数が非常に多い分野です。その中には必ず自分が「書いてみたい!」と思う案件があるはずです。

副業でやるからこそ、自分が楽しみながら続けられる案件を選ぶようにしましょう。それこそが実績を積み、単価を上げていくために最初に心がけるべきことです。

クラウドソーシングは「専業化」も夢じゃない

クラウドソーシングは「お金を生む魔法のサービス」ではありません。しかしここで紹介した筆者を含む3人の実践者たちが言うように、コツコツと実績を積み上げさえすれば稼げるようになるサービスです。

もともとスキルや実績がある人ならなおさらです。クラウドソーシングでの仕事が軌道に乗れば、今村さんのように会社を辞め、フリーランスとして活躍するのも夢ではありません。

もちろん副業の選択肢はクラウドソーシング以外にもたくさんあります。しかしもし今自分が持っているスキルがクラウドソーシングで「仕事」になるのなら、試してみる価値はあります。

「稼げる/稼げない」という議論をしているだけではいつまで経っても稼げません。まずは稼ぐための一歩を踏み出してみましょう。

Career Supli
クラウドソーシングで稼ぐのは簡単ではなさそうですね。仕事がありそうな場所に直でアプローチすると受注できることもあるので、いろんな方法を試めしてみるといいと思います。
[取材・文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部