プロのライターがガチで選んだ、徹夜必至の小説25選【2018年度版】

11.雪の練習生

著者:多和田葉子
初版年:2011年

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1991年に『かかとを失くして』で第34回群像新人文学賞を受賞して以来、数々の文学賞を受賞してきた多和田葉子が描く、ホッキョクグマ三代の物語。

作家として自伝を綴る「わたし」、サーカスの花形として演目「死の接吻」を演じる「わたし」の娘「トスカ」、ベルリン動物園のスターになる孫の「クヌート」。

彼女たちはホッキョクグマでありながら人間のように話したり考えたりします。しかし同時にやはり彼女たちはホッキョクグマでもあって、本作の読者は人としての彼女たちの視線と、ホッキョクグマとしての彼女たちの視線をたえず行き来することになります。

その中で見えてくるのは、生きることそのものへの哀しみや喜び。貪り読みたくなるようなエンタメ性はないものの、ページを繰りながらしみじみと自分の来し方行く末に思いを馳せたくなる作品です。

12.罪の声

著者:塩田 武士
初版年:2016年

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神戸新聞者出身の著者が描く、長編ミステリー。本作は「グリコ・森永事件」(作中では「ギン萬事件」)で使われた恐喝テープに、幼い頃の自分の声が使われていたことを知った男性と、あらためて事件への再取材を命じられて事件の謎を追う新聞記者の二人が主人公です。

未解決の「グリコ・森永事件」の謎を、すでに判明している事実と創作による推論が絡み合わせて解いていく流れは爽快感さえ覚えます。

圧巻は失敗続きかのように見えた冒頭の取材が、物語が進むにつれて伏線として回収されていく部分。元新聞記者だからこその取材力も光っており、「もしかしたら真相はこうだったのかも」とドキドキワクワクすること間違いなし。2016年の「週刊文春」ミステリーベスト10第1位、第7回山田風太郎賞受賞作。

13.悲しみのイレーヌ

著者:ピエール・ルメートル 訳:橘 明美
初版年:2006年

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フランスのミステリー作家ピエール・ルメートルのデビュー作であり、人気シリーズ「カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ」の第1作目。

主人公カミーユ警部はある惨殺事件から、過去の未解決事件が同じ犯人のものではないかと推理し、捜査を進めていきます。

捜査の過程で、犯人が有名なミステリー作品を模して殺人を繰り返していることが判明。警部はさらなる手がかりを見つけるべく、過去の未解決事件ファイルを探っていきます。

しかしそのころ犯人の魔の手はカミーユ警部の身重の妻イレーヌに伸びていきます。

あらすじだけならサイコキラーもの、シリアルキラーものの王道ですが、読み進めるとその王道が一気にひっくり返される驚きの体験が味わえます。

特に犯人が「なぜ殺したのか?」という動機の部分には、誰もが戦慄するはず。ただし人によっては読み進めるのが辛いほど残酷なので、苦手な人はご注意を。

14.楽園のカンヴァス

著者:原田マハ
初版年:2012年

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キュレーター、カルチャーライターとしても著名な原田マハによるミステリー作品。

ニューヨーク近代美術館のキュレーターを務める主人公ティム・ブラウンは、スイス・バーゼルの伝説的な美術商コンラート・バイラー邸に招かれ、アンリ・ルソーの大作「夢」に酷似した作品「夢をみた」を見せられます。

実はバイラーには死期が迫っており、そこで「夢をみた」の真贋鑑定を主人公と日本人研究者早川織絵に依頼したのでした。同時にバイラーは二人に手がかりとなる謎の古書を読ませ、正しく真贋判定をした方に絵を譲ると告げます。

主人公が謎を解きあかそうとするにつれ、徐々に明らかになる美術界の思惑やルソーに影響を受けた画家ピカソと「夢をみた」との関係。キュレーターである著者の美術に対する想いがたっぷり込められた、極上のアートミステリーです。

15.愉楽

著者:閻 連科 訳:谷川 毅
初版年:2005年

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閻連科は1979年から2016年に至るまで長篇15編、中篇50編あまり、短編40編あまり、その他散文や映画、ドラマの脚本なども書く多作な中国の小説家です。

しかし中国当局の体制を痛烈に批判する作品も少なくなく、著作の中には発禁処分を受けている作品もあります。『愉楽』もいわくつきで、閻連科が中国人民解放軍第二砲兵隊創作室の職業作家であったころに本作を書いたせいで、軍隊を追放されたという作品です。

というのも本作が現代中国史を、双槐県という架空の自治体の長とこの双槐県にある受活村という村の老女村長を主人公として描いた風刺小説だったからです。

双槐県の長である柳鷹雀は障害者ばかりが暮らす受活村の住人を利用し、サーカス団を結成。片脚の青年のジャンプ芸、下半身付随者の刺繍芸に、盲目の少女の聞き分け芸、フリークスたちのサーカスは瞬く間に大人気となります。

やがて受活村の住人たちは高額な出演料に目がくらみ、以前は満足していたはずののどかな暮らしを忘れていきます。一方で柳鷹雀は県起こしのためのレーニン記念館を作るべく、レーニンの死体購入に動き出すのですが、こちらでも問題が起きます。

本作は風刺小説としても楽しめますが、このあらすじからもわかるように昨今の日本では決して見られないような強烈なストーリー展開も大きな魅力です。

差別語や差別思想も満載なので、気分を害する人もいるかもしれません。しかし劇薬ほど甘美なものはないのもまた事実。たっぷり知的でとっても過激な文学を求めている人におすすめしたい一冊です。

16.夜間飛行

著者:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ 訳:二木 麻里
初版年:1931年

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操縦士の「ぼく」とある小惑星からやってきた「王子」との出会いを描いた名作『星の王子様』を書いたアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリによる冒険小説。

ある夜パタゴニア−ブエノスアイレス間を夜間飛行する郵便機を嵐が襲います。命の瀬戸際に立たされながらも懸命に飛び続けるパイロット、地上で内的葛藤と戦いながらも冷徹さと不屈の精神を貫く社長……本作は当時の技術では非常に危険な事業であった夜間郵便飛行を題材に、人間の勇気と尊厳を描いた作品です。

著者自身が飛行機の操縦者であったこともあり、描写が非常にリアルでまるで目の前に小説の世界が浮かんでくるような感覚になります。

そのリアルさは郵便飛行開拓期の歴史的史料としても評価されているほど。冒険ものが好きな人や、飛行機ものが好きな人にはぴったりの作品です。

17.鷲は舞い降りた

著者:ジャック・ヒギンズ 訳:菊池 光
初版年:1975年

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第二次世界大戦やイギリス対アイルランドの紛争をテーマにした冒険小説に定評のあるジャック・ヒギンズのヒット作。

1975年の発表後、6ヶ月もの間イギリスとアメリカでベストセラーであり続けたほか、早川書房の『冒険・スパイ小説ハンドブック』上の人気投票で冒険小説部門第1位に輝いています。

本作は第二次世界大戦を題材にしていますが、1975年当時に描かれる「悪役としてのドイツ軍人」ではなく「血肉の通った、戦争に翻弄された人間」として魅力的に描いた点が大きな特徴となっています。

ヒトラーの「チャーチル誘拐」の命令を受けてイギリス東部の寒村に潜入した精鋭部隊は当初着々と計画を進めますが、徐々にほころびが出始めます。

その中で使命達成のために命を賭して戦う男たちの姿には、一人の人間としての生き様や情熱を感じずにはいられません。特に主人公のクルト・シュタイナは『冒険・スパイ小説ハンドブック』の主人公ランキング3位に入る人物で、誰もが「カッコいい!」と思うはず。

一級の冒険小説が読みたければこれ、というくらい間違いのない作品です。

18.神々の山嶺

著者:夢枕 獏
初版年:1997年

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安倍晴明ブームを作った『陰陽師』シリーズ、本格的な格闘小説『餓狼伝』シリーズなどエロス・バイオレンス・オカルトを得意分野とする夢枕獏が描く、世界最高峰エベレストを舞台にした山岳小説です。

エベレスト登山史上いまだに解き明かされない謎を残して逝ったイギリス人登山家ジョージ・マロリー。彼が遺したカメラをきっかけに、2人の男の運命は交錯し、彼らをエベレストへと駆り立てます。

天賦の才を持ちながら、知名度不足とストイックすぎる登山スタイルからパートナーさえいないクライマー羽生丈二。エベレスト登山隊に参加するも、二人の滑落死者を出して失敗してしまったクライマー兼カメラマン深町誠。

彼らはなぜ命を賭けてまで山を登るのか。この永遠の問いにたっぷり1000ページかけて答えた大作です。

本作には登山に収まらない「男とは?」「生きるとは?」といった普遍的な問いへの答えが詰まっています。山好きなら胸打たれること間違いなし。

登山経験がなくても、男たちが燃やす情熱にページを繰る手が止まらないこと必至です。

19.マチネの終わりに

著者:平野 啓一郎
初版年:2016年

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1999年当時最年少で芥川賞を受賞した『日蝕』で華々しいデビューを飾った平野啓一郎が描く長編恋愛小説です。

硬軟大小様々なテーマのなかに「40代をどう生きるか?」というテーマを織り交ぜ、大人の恋愛をじっくり丁寧に表現。

若き天才ギタリストで38歳の蒔野と通信社記者で40歳の洋子が、深く愛し合いながらもすれ違い、長い年月をかけて再び運命をたぐりよせる様子を、平野啓一郎一流の繊細な筆致で描いています。

良質な恋愛小説にどっぷり浸かりたいという人はもちろん、まさに40代を生きる人にはぜひとも読んでほしい一冊です。

20.恋文の技術

著者:森見 登美彦
初版年:2009年

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『太陽の塔』「夜は短し歩けよ乙女』で作家としての土台を築いた森見登美彦が描く、このうえなく森見文学らしい書簡体の青春小説です。

主人公は大学院生の守田一郎。教授の命により、京都の大学から能登半島の海辺にある実験所に派遣された彼は、寂しさを紛らわせるために「文通武者修行」と称して京都にいる友人、先輩、妹に手紙を送りまくります。

終始偉そうに高説を垂れる守田ですが、一番手紙を出したい想い人にはいつまで経っても手紙を出せません。

あまりの主人公のヘタレっぷりに叱咤したくなる読者も多いことでしょうが、読み進めていくにつれて守田がいかに愛すべき男なのかがわかってくるはず。

それがわかった頃には、彼の恋路を応援したくて次々にページをめくっているはずです。汗臭くて泥臭い、男のみっともない青春小説が好物の人におすすめの作品です。

21.闇に香る嘘

著者:下村淳史
初版年:2014年

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2006年から毎年江戸川乱歩賞に投稿し続け、ようやく2014年に受賞に至った著者の受賞作。選考委員の有栖川有栖や今野敏からは絶賛され、「週刊文春ミステリーベスト10」で第2位[3]、「このミステリーがすごい!」で第3位にランクインするなど発売後の評価も高い作品です。

盲目の老人村上和久は、孫の腎臓移植手術のドナーになろうとするが検査の結果不適合だとされ、兄の竜彦に頼み込みます。

しかし竜彦は検査にさえ応じようとしません。その態度に違和感を感じた和久は、竜彦が中国残留孤児として永住帰国したときすでに自分が盲目で、彼の顔を確認していないことを思い出します。

ずっと兄だと信じていた男は本当に自分の兄なのか。和久は正体を確かめるべく、真相を追うことにします。

通常の「目が見える探偵」ではなく「目が見えない探偵」を設定したことで、物語全体に他にはない緊張感が生まれており、ただでさえ緊張感のあるストーリー展開をさらに張り詰めたものにしています。一気読み必至の良質な推理小説です。

22.峠

著者:司馬 遼太郎
初版年:1968年

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時代小説の大家司馬遼太郎の長編時代小説。もともと新潮社から上下巻で刊行されましたが、それ以降新潮文庫や新装版で何度も版を重ねている人気作の一つです。

幕末の越後長岡藩家老・河合継之助を題材にした物語で、近代合理主義の観点を持ちながらも、旧来の江戸的な価値観から抜け出し切れなかった彼が、最終的に新政府軍への抵抗の道を選んだ悲劇を描いています。

一国の宰相にこそふさわしいとされた河合継之助でしたから、新政府軍との戦いでも相手を苦しめるわけですが、歴史の結末を知っている読者からすればその強さには悲哀さえ感じます。

しかしそのなかでも自分の信念を貫いて進む彼の姿勢は一点の曇りもなく、読む側の胸を強く打ちます。

23.ザ・ロード

著者:コーマック・マッカーシー 訳:黒原 敏行
初版年:2006年

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現代アメリカ文学を代表する小説家として、文芸批評家のハロルド・ブルームにドン・デリーロ、フィリップ・ロス、トマス・ピンチョンと並び称されたコーマック・マッカーシーによる終末もの小説。

舞台は詳細不明の災いに見舞われた世界。空には暗雲が立ち込め、動植物のほとんどは絶滅し、生き残る人類の大半は人食い部族と化しています。

倫理も理想も潰えたかに見える世界で、名前のない「父」と「息子」は信仰を貫き、倫理と道徳を守り抜こうとします。

本作は終始とても悲しげな雰囲気に満ち満ちています。「」のつかない会話文は、わざわざ括弧で括らなくても二人しかいないということを示しており、彼らのいる世界の静けさを感じさせます。

互いを支える相手以外に救いはほとんどなく、読んでいて滅入ってくるほどです。しかしそれでもなお生きようとする親子の姿は美しく、読み手にじんわりとした感動を与えてくれます。静かな夜にじっくり腰を据えて読みたい一冊です。

24.青春怪談

著者:獅子 文六
初版年:1966年

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戦前戦後に流行作家として活躍した獅子文六によるドタバタ恋愛小説です。昭和の時代の小説にも関わらず、LGBTを扱った作品としても知られています。

自分の店を持って商売を成功させることに夢中の慎一とバレエに没頭して恋愛なんてそっちのけな千春は、幼馴染として婚約をするもお互い結婚には全く興味なし。

そのうえ独り身となっているお互いの親をくっつけて、将来やってくるであろう介護の苦労から逃れようとさえします。

そんなところに、あるスキャンダルと二人の仲を引き裂こうとする怪文書が登場。さっぱりした二人のことですから、こんな出来事があればあっさり別れてしまいそうなものですが、逆に二人はお互いを意識し始めます。

本書の魅力としてはミュージカルのようなストーリー展開や次々に登場する東京の名所の描写、そしてお洒落な慎一と千春の会話が挙げられます。どれも50年以上前の小説だとは思いもつかない垢抜け具合です。「とにかく楽しい小説を」という人に自信を持っておすすめできる作品です。

25.蜜蜂と遠雷

著者:恩田 陸
初版年:2016年

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「ノスタルジアの魔術師」の異名を持つ恩田陸による青春群像小説で、第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞のダブル受賞作です。

世界最高峰のS国際ピアノコンクールの登竜門とされる芳ヶ江国際ピアノコンクールに終結した数多の天才ピアニストたち。自宅にピアノを持たない15歳の少年や、「かつての天才少女」で現在20歳になった少女、楽器店に勤務するサラリーマンで年齢制限ギリギリの28歳の男など、様々な背景を持つ登場人物が競争という名の自分との戦いに身を投じていきます。

本来音楽を文章で表現するのは非常に難しい技術ですが、本作では登場する多くの曲と多くの個性を見事に描ききっています。まさに音楽を読める作品といえるでしょう。

また本作には『蜜蜂と遠雷 音楽集』なるものも発売されており、作中に登場する音楽をストーリーに沿って聴くことができます。本作にハマった人にはこちらもおすすめです。

活字にどっぷり浸かる夜にしよう

眠れない夜、あるいはまだ眠りたくない夜が誰しもにあるはず。そんなときのために、ぜひともここで紹介した25作品を本棚に加えておいてください。きっと素敵な夜のおともになるはずです。

Career Supli
いろんなタイプの本をセレクトしているので好みの1冊を選んで読んでみてください。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部